【解説】 ジョンソン首相に辞任要求、何が起きているのか 官邸揺るがすパーティー問題

A protester holds a placard showing British Prime Minister Boris Johnson, outside parliament in London, 19 January 2022

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画像説明, 英議会の前で掲げられた、ボリス・ジョンソン首相の発言に抗議するプラカード。「誰にもルール違反とは言われなかった」との発言に対し、「本当に? グレーゾーンなんてない。警察は今すぐ動くべきだ」と訴えている

イギリスでボリス・ジョンソン首相の辞任を求める声が高まっている。2020年に首相官邸で開かれた数々の集まりが、ジョンソン政権が定めた新型コロナウイルス対策に違反していた疑いがあるためだ。

また、一連の「飲み会」が発覚し、その説明をした際に、議会や国民をあざむいていたと批判されている。

辞任を求める声は今や、野党だけでなく、自らが率いる与党・保守党の内部からも出ている。

感染症対策のルールを破った可能性のある一連の集まり以外にも、ジョンソン首相が直面している問題がある。官邸の改修費用をめぐる疑惑や、昨年、保守党議員の議会規則違反を擁護しようとした件への批判などだ。

さらに、ジョンソン首相の首席顧問だったドミニク・カミングス氏が批判の先頭に立っていることが、事態を複雑化させている。カミングス氏は自身のブログで、首相官邸の庭で行われた飲み会の前に、ルールに抵触するかもしれないと首相に警告したと主張している。

保守党は今、イギリスの欧州連合(EU)離脱を推進し、2019年の前回選挙で過半数議席をもたらしたジョンソン首相を切り捨てられるか、見極めようとしている。

ジョンソン氏の首相の地位がますます危うくなる中、これまでの状況と今後の予測について解説する。

官邸での集まり、わかっていることは?

イングランドでは2020年3月に最初のロックダウンが始まり、6月から段階的に緩和が始まった。しかしジョンソン首相は、5月20日に首相官邸の庭で行われた「飲み物持参制」のパーティーに参加していた。

この時のロックダウンでは、イギリス政府は国民に対し、不要不急の外出をしないよう指示していた。外出は、在宅勤務ができない場合の通勤と、屋外での運動、日用品の買い出しなどに限られていた。

また、「仕事で必要な場合」を除き、公共の場では異なる世帯の2人を超える集まりは禁じられていた。

首相官邸でのパーティーには、およそ30人が参加していたと報じられている。ただし法律専門家は、パーティーの開かれた場所は公共の場ではないと指摘している。

さらに、このパーティーの数日前にジョンソン首相と官邸職員がやはり庭に集まり、ワインやチーズを楽しんでいる様子をとらえた写真も報じられた。この写真について質問された時、ジョンソン氏は「職場で仕事の話をしていた」と説明した。

ジョンソン首相は今月12日の議会で、2020年5月20日の集まりに参加したことについて、「誤った判断」をしたと謝罪。「職務上のイベントだと、暗に信じていた」と弁解した。

動画説明, ジョンソン英首相、ロックダウン中の「飲み会」を「心から謝罪」

このほかにも、各種制限が敷かれていた2020年末や2021年春にも、首相官邸を含む政府機関で複数のパーティーが開かれていたことが発覚している。

2021年4月には、故フィリップ殿下の葬儀前夜にも官邸で職員のパーティーが2つ開かれていた。

エディンバラ公フィリップ殿下は昨年4月9日に亡くなり、葬儀は4月17日に行われた。女王はこの葬儀で、感染対策のため1人で礼拝堂に座っていた。

首相はどちらのパーティーにも出ていなかったが、官邸は今月14日、この2件のパーティーについて女王に謝罪している。しかし、一連の出来事をめぐる首相の言動には、与野党や国民から怒りの声が上がっている。

動画説明, 英首相官邸の「飲み会」、同じ時期に家族を亡くした人々

どんな調査が行われている?

内閣は現在、レベルアップ・住宅・コミュニティー省のスー・グレイ第二事務次官に一連の出来事について調査を依頼している。

この調査は、首相官邸での集まりが「どのようなものだったかを全体的に理解」するとともに、「個別の懲戒処分」を行うべきかを判断する。

一方で、調査は主に事実確認を行うのみで、ロックダウンを定めた法律に違反していたかどうかまでは判断しない。ただし、違法性が認められる行為の証拠が出てきた場合には、警察に提出されるという。

この調査は当初、サイモン・ケイス内閣官房長が委託されたものの、ケイス氏のオフィスでもパーティーが開かれていたことが発覚。グレイ氏に引き継がれた経緯がある。

グレイ氏のプロ意識には称賛が集まっているものの、同氏は首相を含めた、自分の上役たちを調査するという難しい仕事に当たっている。

ジョンソン首相は議会に対し、グレイ氏の報告を待ってから、自身の行動について判断するよう求めている。

首相を罷免するには

イギリスの首相は日本と同様、議会議員によって選ばれている。また、首相は与党の党首も務めているため、ジョンソン首相の続投には保守党議員の支持が不可欠だ。

議会や国民をミスリードしたなどの批判が出てきた場合、首相の指導力に疑問を持った保守党議員は、党首選を実施する権限をもつ「1922年委員会」に、不信任を伝える書簡を提出することができる。

この書簡が54人分集まると党内で不信任投票が行われる。不信任案が可決されれば保守党の党首選が開かれる。

党首選に出馬するには、少なくとも2人の保守党議員からの推薦が必要。立候補者が複数いる場合は、2人に絞られるまで議員の間で投票が繰り返される。

候補者が2人になった時点で全国の保守党員による決選投票となるが、その前に1人を除く全員が立候補を取り下げた場合には、投票は行われず、そのまま党首が決定する。

現時点でジョンソン首相への不信任を表明した議員は数名に過ぎない。しかし、多くの議員が書簡の提出を考えているとみられている。BBCの取材に応じたある議員は、54人のラインにはすぐ到達するだろうとみていると述べた。

今後どうなる?

一部の保守党議員が野党に共鳴し、ジョンソン首相の辞任を求めている一方で、保守党議員の多くは公の場で、次の手を考える前にグレイ氏の調査結果を待つべきだと述べている。

また、不信任の書簡は取り消しも可能だ。そのため、最終的に実際に何通の書簡が集まるのか、現時点では不明だ。

グレイ氏の調査そのものは、ジョンソン首相やその言動について善悪などの判断をするものではなく、単純に事実関係を示す。

報告書は来週にも明らかになる予定だが、官邸の庭で行われた飲み会がルールに反するとジョンソン氏が忠告されていたことを裏付ける、疑いのない証拠は出てこなかったという結論に至る可能性もある。

しかし保守党議員らは、有権者の考えを慎重に見定めようとするだろう。ジョンソン首相の支持率は、すでに下がり始めている。

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首相官邸や政府機関で行われた飲み会・クリスマスパーティー

2020年510日:ジョンソン首相は、2020年3月に始まったロックダウンから脱却する「最初の慎重な一歩」を発表。しかし「互いに距離を取るルールを守る」よう国民に要請し、「順守のため、違反者への罰金額を引き上げる」と述べた。この時は不要不急の外出は禁じられており、他世帯の人とは1人だけ、屋外での運動の最中だけ会えるとされていた。

5月15日:英紙ガーディアンは、この日に首相官邸の庭にジョンソン首相やキャリーさん、スタッフ17人が集まり、ワインやチーズを片手に談笑している写真を報じた。ジョンソン氏は、この日について説明を求められた際、写真は「仕事中の人たち」を撮ったものだと釈明した。

5月20日:ITVニュースによると、首相官邸の庭で「社会的距離を取った飲み会」が開催され、レノルズ首席秘書官の名前で100人以上に招待メールが送られていた。目撃者はBBCに、当日は30人ほどが参加し、ジョンソン氏と婚約者のキャリーさんもいたと話した。ジョンソン氏は1月12日の首相質疑で25分ほど出席していたことを認めたが、「職務上のイベントだと、暗に信じていた」と述べた。

7月17日:ジョンソン首相は、クリスマスまでにイングランドを「大きく元通りする」計画を発表。全国的なロックダウンではなく、「的を絞った各地域での対策」に切り替えると述べた。一方で、計画の進行には「ひとりひとりが注意し、責任ある行動をとること」が重要だと述べた。

11月5日:新型ウイルスの感染者が再び増えてきたこの日、イングランドでの2度目のロックダウンが開始された。ジョンソン首相は記者会見で、「在宅勤務ができない場合の出勤、教育、日常生活に必要な活動や緊急時」以外は外出できないと説明。勤務に関する以外での、屋内での他世帯との集まりは禁止された。

11月13日:複数の消息筋によると、首相官邸でこの日、リー・ケイン広報部長の退職に伴う「即席の飲み会」が開かれた。しかし職員らは自分のデスクでアルコール飲料を飲み、午後8時半までには解散したという。

11月13日:同じ日の夜、ジョンソン夫妻が住むダウニング街11番地(首相官邸の隣の建物)の上の階で、官邸職員がキャリーさんを囲む会が開かれた。情報筋は建物中に音楽が鳴り響いていたと述べているが、キャリーさんの報道官などは、集まりがあったことを否定している。この日は、ジョンソン首相の上級顧問だったドミニク・カミングス氏が退任した日でもある。

11月25日:英紙タイムズによると、リシ・スーナク財務相による秋季予算発表を受け、財務省内でパーティーが開かれた。このパーティーには20人以上の職員が参加したという。しかし財務省報道官は、この集まりは「即席」のもので、デスクの周りで「少人数」で行われたと説明した。

11月27日:カミングス氏の助手だったクリオ・ワトソン氏の退職に伴うパーティーが、首相官邸で開かれた。正式に企画されたものではないものの、アルコール飲料が配られ、ジョンソン首相がスピーチをしたという。

12月2日:2度目のロックダウンはこの日に終わったが、ジョンソン政権は地域の感染状況に応じて行動制限を分ける「ティア(段階)」制度をイングランドで実施。ロンドンは2番目に警戒度が高いティア2となり、「勤務上」必要な場合以外は、他世帯の2人以上が屋内で集まることが禁止された。

12月10日:教育省は、職員のパンデミック中の仕事ぶりをねぎらう集まりをこの日に開いたことを認めている。参加者がアルコール飲料や軽食を持ち込む形式で、外部からのゲストや、このパーティーのために雇われたスタッフなどはいなかったとしている。

12月14日:タイムズ紙は、この日に保守党本部の地下で「承認していない集まり」が開かれていたと報道。保守党はこの報道を認めた。このパーティーは、今年5月のロンドン市長選に保守党から出馬したロンドン市議会のショーン・ベイリー議員のスタッフが開いたもの。同議員はこれを受け、市議会警察・犯罪委員会の委員長職を退いた。

12月15日:複数の情報筋がBBCに、この日に首相官邸でクリスマスのクイズ大会が開かれたと証言している。電子メールで招待状が送られ、6人1組で参加するように指示されていたという。首相官邸はこのクイズ大会はビデオ通話で参加する「バーチャルな集まり」だったとしているが、実際には室内にチームで集まった職員もいたとみられている。タブロイド紙サンデー・ミラーは、このクイズ大会にジョンソン首相がビデオ通話で参加している写真を掲載した。

12月16日:ロンドンが最大警戒レベルの「ティア3」に格上げされた。マット・ハンコック保健相(当時)は、クリスマスを前に「みなが慎重になることが重要」だと呼びかけた。しかしその後、この日に運輸省でパーティーが開かれていたと報じられた。同省は「不適切」で「職員の判断が間違っていた」と謝罪した。

12月18日:一連の報道の発端となったクリスマスパーティーがこの日、首相官邸で開かれたタブロイド紙ミラーが2021年12月1日に、最初に報じた。BBCが得た情報では、パーティーでは食べ物やアルコールが出て、様々なゲームもあり、真夜中を過ぎても続いたという。

2021年4月12日:イングランドでは1月に開始された3度目のロックダウンが一部解除され、パブやレストランでは屋外での営業が解禁された。しかし引き続き在宅勤務が推奨され、屋内で他世帯の人と集まることは禁じられていた。屋外での集まりも2世帯まで、あるいは6人までに制限されていた。

4月16日:エリザベス女王の夫、フィリップ殿下の葬儀の前日にあたるこの日、首相官邸で2つのパーティーが開催されていた。最初に報じたのは英紙テレグラフで、1つは当時の首相報道官ジェイムズ・スラック氏のための送別会だったという。スラック氏は報道後、「あの時期に開かれるべきではなかった」と認めて謝罪した。ジョンソン首相はどちらのパーティーにも出席していない。

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