【解説】トランプ氏が新しく追加関税、企業や消費者が直面する不確実性とは

スーツ姿のトランプ氏が演壇に立ち、下を向いて資料を読んでいるような表情をしている

画像提供, EPA

この記事は約 10 分で読めます

レイチェル・クルーン・ビジネス記者

アメリカのドナルド・トランプ大統領による関税変更が、企業や消費者にとっての不確実性を高めていると、業界の専門家やエコノミストは話している。

米連邦最高裁判所は21日、トランプ氏が昨年導入した関税措置の大部分を無効と判断した。これを受けてトランプ氏は同日、代替となる1974年通商法の122条を用いる大統領布告に署名した。同条は、全ての国からの品目に一時的な10%の新関税を課すことを可能にする。その後、同日中にトランプ氏はさらに、その関税を15%に引き上げると交流サイトに投稿した。

最新の発表を受けて、これまでアメリカと10%関税で合意していたイギリスやオーストラリアを含む各国にとって、不確実な事態となっている。

加えて、これまで免除されてきた品目も新しく課税されるかもしれなという懸念も、トランプ氏の他の発言によって強まっている。

英産業会議所(BCC)の通商政策責任者、ウィリアム・ベイン氏は、今後何が起きるのか、多くの疑問が残されたままだと述べた。

ベイン氏は「関税をめぐる変更が絶え間なく繰り返され、明確さや確実性が欠けているため、アメリカの顧客向けに企業がどういう価格を設定できるのかをめぐり、へきえきとした疲労感が広がっている」と語った。

「政策が絶えず変わる状況に、(企業は)いら立ち困惑している」

トランプ氏の最新発表を受けて、企業や消費者はどういう課題に直面しているのか――。課題を解説する。

既存の関税協定の明確化が必要

トランプ氏が昨年4月に、「解放の日」と称する関税を最初に発表した後、イギリスを含む多くの国が、対米輸出品の関税を引き下げるために交渉を進めた。

しかし当局者の1人は今月20日、これまで貿易協定に到達した国々は、当初に合意した税率ではなく、1974年通商法122条によるグローバル関税の適用を受けることになると述べた。

他方、米ホワイトハウスは、「相互貿易に関する法的拘束力を持つ協定を引き続き尊重する」と述べた。

つまり現時点で、アメリカが各国により高い関税の支払いを求めるのかどうか、その一方で既存協定の一部を維持する意図なのかどうか、依然として不透明なままだ。トランプ氏が関税を15%に引き上げると発表して以降、新しい情報は出ていない。

キャピタル・エコノミクスの北米担当主任エコノミスト、ポール・アシュワース氏は、新税率が1974年通商法122条の下で適用されていることに言及。同条が「いかなる関税も非差別的に適用されなければならない」と明記していることから、従来の協定が影響を受ける可能性が高いと指摘した。

アシュワース氏は「欧州連合(EU)や日本といったアメリカの主要な貿易相手国の一部は、先週と全く同じ状況に戻ることになる」と述べた。

通商法122条は、150日間にわたり最大15%の関税を課す権限を大統領に与える。ただそそれは、議会の承認がなければ150日後に失効する。

企業はさらに高い税率を懸念

英BCCは、これまでより高い税率15%の関税によって、アメリカへ輸出されるイギリス製品の関税費用が20億〜30億ポンド(約4200億〜6300億円)増えると試算している。

ベイン氏によると、アメリカに輸出している英企業は約4万社ある。この5%ポイントの引き上げ分は、イギリスの輸出企業かアメリカの消費者のどちらが負担することになる。

ベイン氏は「またしてもこの関税が大きい要因となって、イギリス企業は、アメリカ市場での従来の取引水準を維持しようとはなかなか思わなくなる」と述べた。

ベイン氏はまた、不確実性が特に強い分野として、食品・飲料、繊維、工業製品、電気製品を挙げ、「これらの分野は、一夜にして、対米輸出費用が急増する事態に直面している」と話した。

化学品の製造・販売・運送・取引業者を代表する英化学産業協会の最高経営責任者(CEO)で、イギリスの貿易協会フォーラムの理事も務めるティム・ドゲット氏は、関税引き上げによる追加費用は一般的に最終利用者や消費者が負担するものだと指摘。「価格上昇につながり、最終的にはインフレ圧力を高める」と述べた。

関税は還付されるのか

トランプ氏のいわゆる「相互関税」を違憲とする米連邦最高裁の判断により、昨年4月以降にすでに支払われた約130億ドル(約2兆円)の課税分について、企業が還付を求める道が開かれた。

しかし、最高裁の判断は還付について直接言及していない。還付請求の手続きは、どのようなものでも数年かかる可能性が高い。

報道によると、ここ数週間で数百社が、還付請求の訴訟を起こしているという。

ホワイトハウスは、還付の可能性について直接コメントしていない。前出のドゲット氏は、これは決して単純な問題ではないと述べた。

「(還付の問題は)法的と契約の上で、いっそうの不確実性につながる。最終的な責任はどこにあるのか判断するにあたり、サプライヤーと顧客は極めて難しい立場に立たされる。手続きにはコストがかかり、解説までに何年もかかるかもしれない」と、ドゲット氏は話した。

英調査会社オックスフォード・エコノミクスのボブ・シュワルツ上級エコノミストは、トランプ政権は大規模な還付を避けるために、1974年通商法122条に基づく代替関税を含む、他の関税手段を活用する可能性があると述べた。

追加関税の懸念

ホワイトハウスは20日、アメリカ経済にとって重要な一部の品目は新しい関税の対象外となると述べた。これには、国内で生産できない重要鉱物やエネルギー製品、資源などや、牛肉やトマトといった農産品、車両が含まれる。

しかし企業は、トランプ氏が通商法の他の条項を用いて、さらに関税を課してくる可能性を懸念している。

米エコノミストのバーナード・ヤロス氏は、トランプ氏がすでに1962年通商拡大法232条を利用して、車両、鉄鋼、アルミニウムなど特定産業に特化した関税を導入していることを指摘。「米商務省は医薬品、半導体、重要鉱物、航空機に対して232条の調査を開始している」と述べた。

そのうえで、「2026年には、232条に基づく追加の産業別関税がさらに重要性を増す可能性がある」とヤロス氏は見ている。

黄色いジャケットを着た男性2人が倉庫の中を歩いている。1人は茶色の段ボール箱を両手で持ち、もう1人は同じ大きさの段ボール2個を載せた台車を押している

画像提供, Getty Images

消費者への影響

輸入品への関税率が高くなることによる負担は、各国の対米輸出業者とアメリカの消費者の双方に共にかかる場合がある。

誰が何を負担しているのかを算定するのは複雑だが、米イェール大学の研究機関「ザ・バジェット・ラボ」は、アメリカの消費者が、昨年導入された関税の相当部分をすでに負担していると推計している。

今回の最高裁判断とそれを受けたトランプ氏の発言に先立ち公表されたこの推計では、追加関税コストの31~63%が、輸入品の価格上昇という形で消費者に転嫁されていたことが示されている。

ニューヨーク連邦準備銀行も今月初め、イェール大の調査結果を裏付ける形で、アメリカの企業と消費者が追加関税のほぼ90%を負担していたと指摘した。

トランプ氏が発表した世界各国への関税引き上げが、今後どのような影響を及ぼすかはまだ不明だ。しかし、その多くをアメリカの企業と消費者が負担する可能性が高い。

最新の発表を受けて各業界団体は、輸出企業が製品を他国へ振り向ける動きを強めることで、最終的にはアメリカの消費者が選択肢の減少という形でも打撃を受けると述べた。

ベイン氏は「企業は貿易の多角化を検討している。欧州市場や、成長が速いインド太平洋地域への輸出を増やすかもしれない。直近4週間のみに起きた通商政策の変動のせいで、そうした輸出先の変化は長期的な影響として残るかもしれないない」と見ている。

ベイン氏はさらに、アメリカ向け輸出を続ける企業の場合、関税引き上げ分は輸出企業かアメリカ国内の顧客のいずれかが負担することになると付け加えた。