英アカデミー賞授賞式でトゥレット症の出席者が人種差別用語を叫ぶ 編集対応が遅れBBC謝罪

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スティーヴン・マッキントッシュ記者
英映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)賞の受賞式が22日、ロンドンで行われた。ステージに黒人俳優2人が登壇している際に、激しい黒人罵倒の叫びが客席から飛ぶハプニングがあり、これをBBCが2時間後にそのままテレビ放送した上、さらには配信サービスで翌朝まで長時間にわたり提供していたことが問題となった。BBCはこれについて謝罪した。
BAFTAの今年の作品賞は「ワン・バトル・アフター・アナザー」、監督賞は同映画のポール・トーマス・アンダーソン監督、主演女優賞は「ハムネット」からジェシー・バックリーさん、主演男優賞は「I Swear」から、ロバート・アラメイヨさんがそれぞれ受賞した。「I Swear」という映画の原題は、「私は誓う」と「私は罵倒する」の両方の意味にとれる。
アラメイヨさんは、イギリスでトゥレット症候群について理解を広めるための活動をしている実在の男性、ジョン・デイヴィッドソンさんを演じた。
トゥレット症のチック症状(本人の意思に関係なく繰り返し出てしまう症状)の一つに、わいせつ語や罵倒語を突発的に口にする「汚言症(コプロラリア)」がある。授賞式の客席にいたデイヴィッドソンさんは、舞台上に米俳優マイケル・B・ジョーダンさんと、英俳優デルロイ・リンドさんが並んで登壇していた際に、黒人差別の強い罵倒語を叫んだ。ジョーダンさんとリンドさんは共にアフリカ系。
授賞式を2時間遅れで放送したBBC Oneは、この場面をそのまま流した。BBCの動画配信サービス「iPlayer」でもそのまま、23日朝まで提供されていた後、式典の映像全体が削除された。
BBCの広報は、「放送前に、これを編集で削除しなかったことを謝罪する。BBC iPlayer上のバージョンからは削除する」と述べた。
客席からの差別語の叫び声は放送の音声に入っていたが、多くの視聴者はその言葉をはっきり聞き取れなかった可能性もある。
最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、BBCが放送前に差別語を編集で削除しなかったことは「恐ろしい間違い」だと批判し、「謝罪は重要だ。なぜ消音対応をしなかったのか、説明が必要だ」と述べた。
BBCは声明で、「一部の視聴者は、BAFTA授賞式の最中に強く侮辱的な言葉を耳にした可能性がある。これはトゥレット症候群に関連する、不随意の発声チックによるもので、式典中にも説明があったように、わざとのことではなかった」と述べた。
放送前の編集で削除したり消音したりしなかった理由については、BBCは説明していない。
授賞式の後にリンドさんは、米誌ヴァニティ・フェアに対し、自分とジョーダンさんは壇上で特別視覚効果賞のプレゼンターとして「必要なことを」やり続けたものの、「後でBAFTAの誰かから、我々に話があったら良かったのにと思う」とも述べた。
BAFTAは声明で、今回の件が大勢を「傷つけた」ことを認めるとコメント。「起きたことに向き合い、全員に謝罪する」と述べた。

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トゥレット症の特徴的な症状に、チック症と呼ばれる、突然の、不随意で反復的な動作や発声がある。英慈善団体トゥレット・アクションによると、患者の10%~30%に、チック症の一つである、社会生活に不適切な罵倒語やわいせつな言葉を発する「汚言症」の症状がある。
英スコットランド・ガラシールズ出身のデイヴィッドソンさんは、トゥレット症について理解を広めるための啓発活動を行い、2019年には大英帝国勲章団員(MBE)の勲章を授与されている。今回受賞した映画「I Swear」の主人公として取り上げられ、BAFTA授賞式に出席していた。
会場では式典の前と最中に、デイヴィッドソンさんの叫び声が何回か聞こえた。
デイヴィッドソンさんは23日、「もし私の不随意なチックがわざとだとか、あるいは何らかの意味を持つと受け取られたのなら、あまりにもつらく申し訳ないことだと恐縮している」とコメントした。
「私は人生を通じてトゥレットのコミュニティーを支え、力づけてきた。そして他者からの共感、親切、理解を教えようと、取り組んできた。それはこれからも続ける」とも述べた。
さらにデイヴィッドソンさんは、「自分のチックが周りの人たちを動揺させていると気づいたので、式典の早い段階で会場を離れることにした」のだと説明した。
BAFTAは、式典を訪れる来場者全員をケアする責務を真剣に受け止めているとコメント。デイヴィッドソンさんが出席することや、会場で強い言葉を耳にする可能性があることを、他の出席者に事前に知らせるなど、「インクルージョン(包摂)を出発点」として、あらかじめ対応していたと説明した。
BAFTAはさらに、「式典の早い段階で、きわめて侮辱的な単語という形の、大きな音のチックを、会場の多くの人が耳にした。その時は、マイケル・B・ジョーダンとデルロイ・リンドが舞台上にいた。私たちは2人に、そして影響を受けた全員に対して、無条件に謝罪する。マイケルとデルロイには、素晴らしい品位とプロフェッショナリズムに感謝したい」と述べた。
BAFTAは続けて、デイヴィッドソンさんが「本来は自分自身にとって祝いの場だったはずの会場で、品位と他者への思いやり」を見せたことにも感謝した。
「私たちは、複数のゲストをとても難しい状況に置いてしまったことについて、その責任を全面的に負い、すべての人に謝罪する」とBAFTAは謝罪し、「私たちはこれを教訓とし、映画と物語が共感と理解の重要な媒体だという信念を維持しながら、すべての活動の核心に包摂を置き続ける」と述べた。
式典の最中、司会のアラン・カミングさんは、トゥレット症の人が発した「強い侮辱的な言葉」について触れ、症状のある人は「自分の言葉を制御できない」と説明。「不快に思われたならお詫びします」とも述べた。
ジョーダンさんやリンドさんが出演した映画「罪人たち」は、BAFTAの脚本賞など複数部門で受賞した。同作のハナ・ビーチラー美術監督は、式典での出来事について、ソーシャルメディア「X」に投稿。「ほとんどまったくどうにもならない状況だけれども、一晩で3回あったし、そのうちの1回は、授賞式の後に夕食へ向かう途中で私に向けられた」と書いた。
さらにビーチラーさんは、「なぜこれがどうにもならない状況なのか、私は理解しているし、深く承知している。私たちは品位をもって対応して、前に進むしかない」とも書いた上で、「ただし、式典の最後に放り投げるように『もし不快に思われたなら』という謝罪があったのが、事態をますます悪くした。不快に思ったに決まっている」とも批判した。
ジョーダンさんとかつて警察ドラマ「ザ・ワイヤー」で共演した米俳優ウェンデル・ピアースさんはXに、「真っ先に、デルロイ・リンドとマイケル・B・ジョーダンに対して、全面的に、かつ強力に謝罪しなかったのが、実に腹立たしい」、「彼らが侮辱されたことが、一番重要だ。人種差別の罵声がなぜ出たのか、その理由は関係ない」と書いた。
「罵倒しているのではない」

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映画「I Swear」でデイヴィッドソンさんを演じ、主演男優賞に選ばれた英俳優アラメイヨさんはBBCに対して、「あれはチックだ。(デイヴィッドソンさんの)チックが出ているんだ。私たちがトゥレットをどう受け止めるか、それは全員の共同責任なんだと、みんな理解する必要がある」と話した。
「ひわいな暴言を叫んでいるのでも、罵倒しているのでもない。トゥレットであって、チックなんだ」
「もしトゥレット症とチックについて、理解が深まって、自分たちの映画がその会話の一部になるなら、それは本当にものすごいことだ」とも、アラメイヨさんは強調した。
慈善団体トゥレット・アクションのピッパ・マクルーナン広報担当はBBCニュースに対し、「こうした言葉は確かに、人を傷つけ、衝撃を与える。しかし、それと同じくらい、トゥレット症についての根本的な真実を、つまりチックは不随意なもので、その人の思考や信念を反映するものではないと、社会が理解することが本当に不可欠だ」と強調した。
「ジョン(・デイヴィッドソンさん)は毎日、このことに対応しなくてはならない。(中略)映画で描かれたように彼は、自分のチックに対する周囲の強い反発をずっと浴びて生きてきた」のだとも、マクルーナン氏は説明した。
「I Swear」は、1980年代のスコットランドで、トゥレット症に苦しみながら成長したデイヴィッドソンさんの葛藤を描いている。
デイヴィッドソンさんは、トゥレット症の理解を広め、患者家族の支援に尽力したことでMBEを授与された。
アラメイヨさんは今回のBAFTA授賞式で、主演男優賞のほか新人賞も受賞した。「I Swear」はほかに、キャスティング賞を受賞した。
他方、授賞式の別の場面で、受賞スピーチに含まれていた「パレスチナを解放しろ」という発言は、BBCの放送では編集で削除された。
アキノラ・デイヴィス・ジュニア監督と兄で共同脚本家のウェール・デイヴィスさんは英映画「My Father's Shadow」で、イギリス出身の新人脚本家・監督・プロデューサーに与えられる賞に選ばれた。監督は、受賞スピーチの最後に「パレスチナを解放しろ」と述べた。

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デイヴィス兄弟の受賞スピーチは約2分半の長さだったが、放送では時間制限のため約1分に編集されたのだと、BBCは説明した。
BBC広報は米映画ニュースサイト「デッドライン」に対し、「式典のほかのスピーチについても同じで、すべての編集は番組を時間内に収めるための措置だ。受賞者全員のスピーチはBAFTAのユーチューブ・チャンネルで視聴できる」と話している。
(追加取材:イアン・ヤングス)





