マスク氏、世界の首脳らと会談重ねる 影響力の増大に懸念の声も

サム・カブラル、BBCニュース、ワシントン

From left: Recep Tayyip Erdogan, Emmanuel Macron, Benjamin Netanyahu, Elon Musk
画像説明, マスク氏(右)は、トルコのエルドアン首相(左下)、フランスのマクロン大統領(左上)、イスラエルのネタニヤフ首相(中)などと相次いで会談している

米実業家で世界一の富豪のイーロン・マスク氏が、さまざまな国の首脳と会談を重ねている。そのことを懸念する声も上がっている。

最近アメリカを訪れる首脳たちは、日程の中にマスク氏との面談を加えている。米政府の招待で公式訪問をする首脳にも、そうした動きがみられる。

マスク氏は今年これまでに、フランス、イタリア、インド、韓国、トルコ、イスラエルの首脳と会談した。

各国リーダーらからの人気がかつてないほど高まっている一方で、ジョー・バイデン米大統領との間には愛情はない。

歯に衣着せず「逆張り」を行くマスク氏が、政治活動の範囲を広げ、繊細な地政学的問題にも足を踏み入れるようになるにつれ、その影響力とアクセスを不安視する声も高まっている。

世界のリーダーたちと会談

首脳らはマスク氏と会って何を話しているのか。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は昨年12月以来3度にわたり、マスク氏の電気自動車会社「テスラ」の巨大工場を同国に作るよう訴えかけている。

今年6月にはイタリアのジョルジア・メローニ首相が、そして今月17日にはトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、共にマスク氏に同じような懇願をしている。

Emmanuel Macron met with Elon Musk at the Elysee Palace in May

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画像説明, マスク氏は5月、パリのエリゼ宮でマクロン大統領と会談した。昨年12月以降、両者は3回会談している

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は18日、国連総会のため滞在していた米東海岸ニューヨークから、わざわざ西海岸カリフォルニアまで移動。マスク氏と人工知能(AI)について対話すると共に、同氏が保有する「X」(旧ツイッター)で反ユダヤ主義のヘイトスピーチが劇的に増えているとされることをふまえ、言論の自由を守ることとヘイトスピーチを罰することの「バランスを取る」よう働きかけた。

インドのナレンドラ・モディ首相が6月にマスク氏と会った時も、ツイッター(当時)が話題になった。この直前、同社のジャック・ドーシー元最高経営責任者(CEO)は、インド政府からコンテンツ削除令に従わなければツイッターを閉鎖すると脅されたと語っていた。かつての同社はこうした脅しをはねつけていたが、マスク氏は「現地政府の法に従わなければ閉鎖されるのだから、最善策はどの国においても法を順守することだ」と会談後に記者団に話した。

このほか、マスク氏の宇宙事業会社「スペースX」の衛星インターネットサービス「スターリンク」関連のインフラ投資を求める首脳らもいる。

Elon Musk and Narendra Modi in June

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画像説明, マスク氏は6月、米ニューヨークでインドのモディ首相と会談した

高まる政治的影響力

マスク氏と首脳らとの会談の多くは表向き、ビジネスが焦点とされる。だが、マスク氏は世界規模の地政学的影響力を行使し、ますますそれを強く主張するようになっている。

南アフリカ出身で米国籍を持つマスク氏の最近の発言は、アメリカおよび西側の利益に対する侮辱と受け止められている。

マスク氏は今月中旬、中国の「一つの中国」政策をめぐり、台湾について「ハワイか何かに似ている。中国の不可欠な一部だが、恣意(しい)的に中国の一部ではない」と発言。台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外交部長から、「よく聞け、台湾は中国の一部ではないし、売り物でもない!」と「X」で抗議を受けた。

これをとらえ、マスク氏に批判的な人々は、たとえアメリカの敵対国であろうと他国の要求をすぐに受け入れるという同氏への攻撃を強めた。

マスク氏については、ウクライナがクリミアでロシア海軍の黒海艦隊に奇襲攻撃をかけるのを防ぐために、「スターリンク」の通信を「切断するよう自社エンジニアにひそかに指示した」と、同氏の伝記に書かれている。アメリカの同盟国はこれに懸念を示した。

伝記の著者ウォルター・アイザックソン氏は、マスク氏から強い反発を受け、本が発売されるとすぐ、この記述について弁明。「スターリンク」は実際には一度もクリミアをカバーしていなかったと「X」に書いた。

アイザックソン氏もマスク氏もBBCのコメント要請には応じなかった。

ただ、伝記の別の部分には、マスク氏が決断する前にロシアの駐米大使が、「ウクライナがクリミアを攻撃すれば核による対応につながると、明確にマスク氏に伝えた」と書かれている。

Elon Musk at the Trump White House in 2017

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画像説明, 2017年に当時のトランプ政権下のホワイトハウスを訪れたマスク氏。米政府との距離は近年、広がっている

マスク氏は昨年、独自の和平案をツイート。ウクライナ当局者からは、同氏のアカウントが「ロシアにハッキングされた」のではないかとの疑問の声も上がった。そして、米政治学者のイアン・ブレマー氏がツイッター(当時)で以下の爆弾発言をした。

「イーロン・マスクは、プーチンやクレムリンと直接ウクライナについて話したと私に言った。クレムリンにとって何が越えてはならない一線なのかも私に話した」

マスク氏はこれを否定。するとブレマー氏はこう畳みかけた。「私はかなり前からマスクのことを類を見ない、世界を変える起業家だと高く評価しており、そう公言してきた。彼は地政学の専門家ではない」。

その翌月、バイデン大統領はマスク氏について、アメリカの国家安全保障にとって脅威になっているかと問われると、「他国との協力および技術面での関係は注目に値する」と答えた。

この反応は、両者の冷え切った関係をほんのわずか、うかがわせるものでしかない。ホワイトハウスは電気自動車産業に関して公式にコメントする際、「テスラ」への言及は避け、労働組合が存在する自動車メーカーについて触れる傾向がある。一方のマスク氏も、民主党の最高幹部らとネットで言い争い、同党を「もはや支持できない」と発言。共和党の大統領選候補者らに甘い言葉を投げかけている。

マスク氏を10年以上取材してきた伝記作家のアシュリー・ヴァンス氏は、マスク氏がいら立ちを覚え、過小評価されていると感じているとBBCに話した。

「彼は多くのことを成し遂げたいと思っている男だ。自分は正しいと考えており、自分が邪魔されるのを決して好まない」

「彼はすでに重要なワイルドカードだったが、(バイデン政権は)火にガソリンを注いでしまった。今となっては彼を制御するための友好関係はない」

変わりつつある公的イメージ

「テスラ」と「スペースX」の大成功は、マスク氏を天才的なイノベーターから有名人へと変えることになった。

「彼は約25年間で、どんな人間よりも多くのことを成し遂げたと言えるだろう」とヴァンス氏は言った。

「彼は、異業種にまたがって比類なき規模でこれをしたという歴史において際立っている」

しかし、マスク氏のここ数年の富の増大と政治的な進化は、分断や対立を招くという公のイメージとも合致している。そうしたイメージは、常にオンラインにいて、あおるような投稿をして楽しんでいるという「X」における人物像によっても形成されている。

「彼は物事について自分の意見をしっかりもち、それを表現することを恐れない男で常にあり続けている」とヴァンス氏は話した。

「彼は以前は自分の会社に利益をもたらすため、両方の立場を使い分けていた。かなりきちょうめんで、政治の話はあまりせず、するときはいつも気候変動のような問題に関してだった」

ところが、2017年か2018年から、マスク氏は自らの公的イメージを戯画化し始めたと、ヴァンス氏は言う。

「彼は思いついたことを何でも口にする。理由もなく人々を遠ざける。会社がうまくいっているときに、自らをおとしめているようなことをしている」

「実際に会うと、ツイッターのキャラクターとは全然違う」とヴァンス氏は続けた。「時間がたつにつれ、彼はより社交的になった。非常に理性的で興味深い人物になった。そしてすっかり別の人物になった」。

米シリコンヴァレー特有の落とし穴

米紙ニューヨーク・タイムズの元テクノロジー担当コラムニストで、米シリコンヴァレーと政治の関係に関する著作があるノーム・コーエン氏は、少し違った見方をしている。

マスク氏の特異な野心とビジョンが、彼をビジネス界でも「準政府的な」勢力としても、人並み以上の成功者にしているというのが、コーエン氏の分析だ。

コーエン氏が言うには、マスク氏は大規模な工場、多くの従業員、価値ある製品といった「物理的なもの」と、情報拡散の制御という「デジタルなもの」を組み合わせてきたという。

そして、マーク・ザッカーバーグ氏やジェフ・ベゾス氏を含め、ハイテク界の巨人でこれに匹敵することをした人物は他にいないとコーエン氏は言う。

「彼がツイッターを買収していなかったら、私たちは彼のことを話題にしているだろうか? もし彼が単に多国籍企業(のトップ)であれば、中国に工場がほしくなったら中国(の人)と会談するのは普通だろう」

コーエン氏はさらに、マスク氏はシリコンヴァレーの同業者らと同じ落とし穴にはまり込んでいると付け加える。

「それらの人々は基本的に同じ世界観をもっている。自分の力が頼りであり、社会的なセーフティーネットなど存在しない。人は懸命に働かなくてはならず、最も優れた人がトップに上り詰める。そんな感覚だ」

「強欲と、一つの基本的な考え方が組み合わさっている。知性こそが最も重要な要素であり、最も賢い人々が世界を動かすべきだという考え方だ」

マスク氏や、選挙で選ばれたわけではない他の大物たちが、地政学的に重大な結果をもたらす決定を一方的に下せる――。その事実は、富の集中と民主主義の衰退に対する警告だと、コーエン氏は言う。

「人工衛星をオンやオフにするのを決められる立場に彼がいるのは、受け入れられることなのか? 公共の広場を彼が設定するのは、受け入れられることなのか?」

「プログラミングやビジネスが得意だからといって、世の中のルールを作るのが得意だということになるのだろうか?」