「戦争反対」とスペイン首相、トランプ氏の「貿易断絶」の脅しに反論 米軍の基地使用拒否めぐり

ダークスーツに赤いネクタイを着けたサンチェス首相が、赤と黄色のスペイン国旗と、青地に黄色の星が描かれたEUの旗の前に立ち、マイクに向かって話している

画像提供, La Moncloa Handout

画像説明, アメリカのトランプ大統領が、スペインとのすべての貿易を断つと発言した翌日、スペインのペドロ・サンチェス首相は国民に向けて演説した
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ガイ・ヘッジコー記者(マドリード)、ポール・カービー欧州デジタル編集長

対イラン軍事作戦を続ける米軍がスペイン国内の基地を使用することをスペインが拒否したことを受け、アメリカのドナルド・トランプ大統領は3日、スペインとのすべての貿易を断つと警告した。スペインのペドロ・サンチェス首相は4日、戦争そして「国際法の崩壊」に反対する姿勢を改めて表明し、トランプ氏に強く反論した。

サンチェス首相は約10分間のテレビ演説で、ウクライナやパレスチナ・ガザ地区での戦争、さらには20年以上前のイラク戦争について言及した。そして、スペイン政府の立場は「戦争反対」の一言に尽きると述べた。

トランプ氏は3日、イラン攻撃のためにアメリカがスペイン国内のモロン空軍基地とロタ海軍基地を使用することを、スペインが拒否したことを受け、スペインに対して全面的な禁輸措置を取ると警告した。両基地は、アメリカとスペインが共同運用している。

トランプ氏はホワイトハウスで同日、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相と会談した際、記者団に向かって「スペインはひどい」と発言。「我々は、スペインとのあらゆる貿易を断ち切ることになる。スペインとは一切関わりたくない」と述べた。

メルツ首相は会談後、スペインを除外した貿易協定をドイツや欧州と個別に結ぶことはできないと、トランプ氏に明確に伝えたことを明らかにした。

アメリカがスペインに対する経済措置をちらつかせたことを受け、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4日にサンチェス氏と電話で協議し、スペインへの「連帯」を伝えた。仏大統領府(エリゼ宮)が発表した。

欧州理事会のアントニオ・コスタ議長も、サンチェス氏と協議し、「EUの全面的な連帯を表明」したと明らかにした。

NATO加盟各国は昨年、防衛費を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げることで合意した。しかし、トランプ氏は3日、スペインがこの目標に沿って防衛費を増額していないとして、NATOの「ひどいパートナー」だと非難した。

「平和と国際的な合法性」を支持するのか

サンチェス氏は今年初め、米軍がヴェネズエラに侵入した軍事作戦について反対し、トランプ氏の怒りを買っていた。

4日のテレビ演説は、スペイン・マドリードの首相官邸から行われた。サンチェス氏はその中で、紛争が国民に与える影響に対処するための経済対策をスペイン政府が検討していると述べた。一方で、貿易を断つとするトランプ氏の脅しについては直接言及しなかった。

「問題は、我々がアヤトラ(イランの聖職者支配層)の側に立つかどうかではない。問題は、我々が平和と国際的な合法性を支持するかどうかだ」と、サンチェス氏は述べた。

「一つの違法行為に別の違法行為で応じることはできない。人類の大惨事はそうして始まるからだ」

社会労働党(PSOE)を率いるサンチェス氏は、アメリカのイラン攻撃に対するスペイン政府の立場は、ウクライナやガザに対する姿勢と同等だと説明した。同氏は、2023年のイスラム組織ハマスによるイスラエル南部攻撃をきっかけに始まった、イスラエルのガザ攻撃を激しく批判してきた。

スペイン政府は、ガザ問題について欧州で最も率直な意見を述べてきた政府の一つ。ガザでのイスラエルの行動を「ジェノサイド(集団虐殺)」と形容し、多くのEU加盟国に先んじてパレスチナ国家を承認した。

こうした立場は、連立与党内の左派と足並みをそろえるもので、同時に多くのスペイン国民の姿勢ともおおむね一致している。

動画説明, トランプ氏が語る戦争と平和……どう変化したのか BBC分析担当編集長

サンチェス氏は、2003年にアメリカがイラクに侵攻したことを振り返り、目標を達成できず、一般市民の生活を悪化させたと指摘。今回のイラン攻撃が、数百万人に同様の経済的影響をもたらす恐れがあると警告した。

当時、スペインの保守政党・国民党(PP)が率いる政権は、イラク戦争を支持。国民の強い反発を招き、大規模な反戦抗議行動を引き起こすこととなった。そのため、イラクへの侵攻に関するサンチェス氏の今回の発言に、スペインの多くの有権者は共感するだろう。

また、マドリードでの聖戦主義者による爆破攻撃の数日後に行われた2004年3月の総選挙で、社会労働党が予想外の勝利を収めたのは、国民党政権の政策が影響したからだというのが、スペイン国内での大方の見方だ。

サンチェス氏は演説で、イラク侵攻の数日前にポルトガル領アゾレス諸島のポルトガル軍基地で会談した、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領、トニー・ブレア英首相、スペインの保守派のホセ・マリア・アスナール首相の「アゾレスの3人組」を国民に想起させた。

3人は欧州に「より不安定な世界とより悪い暮らし」という「贈り物」をもたらしたのだと、サンチェス氏は述べた。

サンチェス氏の姿勢は、ドイツのメルツ氏とは対照的だ。メルツ氏は3日に独テレビ局に対し、イランの体制が変われば世界は「少しは良くなる」だろうと述べる一方で、「リスクがないわけではなく、我々もその影響を負わなければならないだろう」とした。

スペインは、NATO同盟国のイギリス、フランス、ギリシャとは異なり、今回の戦争への軍事的関与をいまだ約束していない。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は4日、スペインにトランプ氏のメッセージが「はっきり明確に」伝わり、米軍に「協力することに(スペインが)同意した」と述べた。しかし、スペインのホセ・マヌエル・アルバレス外相はこの主張を完全に否定。スペイン政府の立場は「みじんも変わっていない」と地元メディアに語った。

サンチェス氏がアメリカから激しく批判されていることに加えて、同氏率いる連立政権は数カ月にわたり、とてつもない政治的圧力にさらされている。政権崩壊は目前だとの憶測が絶えず飛び交っている。

左派や地域主義政党と連立を組む現政権は、過半数議席を維持するのに苦慮している。

サンチェス氏の側近らの汚職疑惑は、同氏の立場を大きく弱体化させている。

スペイン政界では二極化が進み、サンチェス氏の支持基盤の大半は、同氏の指導力や政策への賛同だけでなく、スペインの右派・極右勢力に対する懸念によって支えられている。

アメリカの大統領に対峙する姿勢は、社会労働党の党首にとって、選挙で有利に働くかもしれない。

スペインの社会調査センター(CIS)の直近の世論調査では、国民の77%がトランプ氏に対して「悪い」または「非常に悪い」印象を持っていることが示された。イランをめぐる問題に関しては、右派の有権者の多くも、サンチェス氏を支持する可能性が示されている。

しかし、トランプ氏の脅しが何らかの経済的報復措置につながるかに関しては、スペイン国内では不透明感が広がっている。多くのスペイン国民は、成り行きを不安げに見守ることになるだろう。