【解説】 金正恩氏の10代の娘、北朝鮮の次期指導者になれるのか 社会が変容との見方も

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ジェイク・クウォン・ソウル特派員、リヒュン・チョイ(ソウル)
北朝鮮で先週開かれた朝鮮労働党の党大会では、最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が韓国を威嚇し、核兵器開発を推進し続けると宣言した。ただし、最大の関心事は、金氏の13歳の娘が後継者に指名されるのかどうか、だった。
しかし、指名が報じられることも、指名が疑いようのない形で示されることもなかった。
一方で、約2500万人が暮らす北朝鮮の次期指導者として、若き金ジュエ氏が適任なのかの議論が起きた。独裁国家・北朝鮮は、これまで金一族のみが支配してきた。
党大会は、北朝鮮の指導部と高官が5年ごとに集まる重要な会議だ。通常は、金氏が韓国とアメリカにどのようなメッセージを発するかが注目される。
しかし今回は、別のことが注目された。韓国の情報機関は先々週、自国の議員らに対し、金氏が娘を後継者に選んだようだと説明。娘が政治問題について意見を述べる姿が目撃されたと話した。
娘が国営メディアで父親と共に登場する機会は増えている。しかし、彼女については多くが依然、謎のままだ。北朝鮮は彼女の名前や年齢を公表していない。
その存在が初めて公になったのは、米バスケットボールの元スター選手デニス・ロッドマン氏が2013年に平壌(ピョンヤン)を訪れた後、英紙ガーディアンに彼女の名前を明かしたことによる。情報機関の報告書に基づく推定などから、13歳と広く考えられている。
韓国の情報機関は以前、彼女に兄がいるとしていた。しかしその後は、この見解から距離を置いている。
北朝鮮研究者で世宗(セジョン)研究所副所長の鄭成長(チョン・ソンジャン)氏は、「情報収集の失敗だった」と話す。同氏は早くから、ジュエ氏が後継者になるとの説を唱えてきた。
鄭氏ら専門家たちは現在、ジュエ氏が長子で、9歳の妹がいるとみている。
初めて公の場に姿を現したのは、2022年の国営テレビのニュース映像だった。父親の手を握りながら、北朝鮮の最新ミサイルを視察した。

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鄭氏は、これまでのテレビでの取り上げられ方が、彼女が正式な後継者になったことを最も明確に示していると話す。画面の中央にジュエ氏が映し出されるし、国営メディアは「尊敬される子ども」と呼ぶ。
「国営メディアが最高指導者にのみ用いる言葉を使っている。彼女への個人崇拝を強調している」
鄭氏はまた、彼女が軍と近いことも、後継者になったもう一つの証しだと付け加えた。
ジュエ氏は父親と共に兵士や兵器を視察している。軍事パレードを父親の隣に座って観覧した際には、最高位の将軍らが彼女のそばにひざまずき、耳元でささやく場面がたびたび見られている。
金正恩氏は、軍隊の掌握をその権力基盤としている側面が強いと、鄭氏は説明する。そして、ジュエ氏が後継者になるなら、軍の司令官としての信用が必要になるという。
父親と一緒に軍隊を視察する時、彼女は父親と同じ黒革の長いコートと濃いサングラスを着用する。
金正恩氏の場合、権力の継承はかなり突然だった。公の場に姿を現すようになったのは、父親が死去する1年前だった。
そうした急激な継承を避けるため、金氏は早いうちにジュエ氏を政権と国民に紹介していると、鄭氏はみている。
金氏が健康不良に陥っている証拠はない。体重と喫煙および飲酒の習慣が指摘されるだけだ。
しかし鄭氏によると、金氏は後継者危機を回避しようと、後を継ぐ人物を早期に指名しようとしている可能性があるという。
一方、元北朝鮮高官の劉現祐(リュ・ヒョヌ)氏は、女性が北朝鮮を統治する見込みはほとんどないという考えだ。
2019年に亡命するまで北朝鮮の外交官だった劉氏によると、金一族が制定した法典のもと、北朝鮮は白頭血統の人物――建国の父・故金日成(キム・イルソン)主席の直系子孫――が統治しなくてはならないと、定められているのだという。
ジュエ氏は血筋としては条件を満たすが、北朝鮮の家父長制の下では、彼女は血統に連なっているとはみなされないというのが、劉氏の意見だ。

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北朝鮮では、社会のどの階層だろうと、女性はなかなか男性と平等には扱われない。女性の当局者は珍しく、女性の軍指揮官はさらにまれだ。
劉氏によると、平壌では多くのタクシー運転手が、その日の最初の客が女性だと、不運をもたらすという迷信から乗車を拒否するという。
「(もし最初の客として女性を乗せたら)降ろしたあとに車の後ろに行き、つばを3度吐いて不運を払う」
こうしたことから、ジュエ氏が北朝鮮を率いることは想像できないと、劉氏は言う。
劉氏はまた、ジュエ氏が最高指導者になればあまりに衝撃的で、「今や誰でも北朝鮮の指導者になれるのかと軍指揮官らが受け止め、それなら自分たちが(指導層を)打倒しようと夢想さえするかもしれない」と話す。
劉氏の見方は、金氏が国営メディアで娘を披露しているのは、自分の冷酷なイメージを和らげ、今後も世襲による継承をしていくという考えを植え付けるため、というものだ。
しかし、韓国の情報機関を含め、そうは考えない人は少なくない。
その理由の一つに、北朝鮮で女性の地位が、「苦難の行軍」(1990年代に北朝鮮経済が崩壊した際に引き起こされた飢餓)以降、大きく前進したという見方がある。
男性が国家公認の仕事を続け、給料や配給が減っていくなかで、家族を養う方法を模索したのは女性だった。彼女らは商売を始め、闇市で物品を売り、密輸に関わった。
北朝鮮体制における女性の指導力について脱北者120人以上にインタビューしたソン・ヒョンジン氏は、同国で女性が工場を管理したり党の役職に就いたりするのは、もはや珍しくないと話す。
北朝鮮の近年のテレビ番組では、男性がエプロン姿で家事をする姿が見られる。状況がどれだけ変わったかを示す一例だ。

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金氏がジュエ氏を後継者に決めた場合、彼女の性別は障害にはならないと、ソン氏は話す。ジュエ氏の出自と、貧しい国での恵まれた成育歴は、一般の北朝鮮国民が彼女を指導者として受け入れるのに十分だというのが、ソン氏の見方だ。
「自分たちの論理で北朝鮮を考えることはできない。李氏朝鮮、朝鮮王朝として想像しなければならない」。中世の王朝になぞらえて、ソン氏はこう言う。「王族の血統の者が王位を継承することに、誰があえて逆らうだろうか」。
朝鮮労働党は先週、金氏の妹で有力者の金与正(キム・ヨジョン)氏を総務部長に昇格させた。鄭氏はこれを、金正恩氏が妹を娘の後見人にしようとしている表れだという。
金正恩氏が27歳で権力の座につき、世界最年少の国家指導者となった時、彼が北朝鮮を外部世界に向けて開放すると大勢が期待した。
だがその夢は、すぐに消えた。2013年に、金氏は改革派の叔父を処刑した。
それ以降、金氏は核兵器開発計画を増強した。そして、その政権が国民生活のあらゆる側面に対して握る鉄の支配は緩む気配が見えない。
ジュエ氏が同じ方針を継続しないと考える理由はないと、鄭氏は話す。彼女がより開放的、または寛容かもしれないと考えるのは、女性に対する固定観念に起因するとして、鄭氏は退ける。
劉氏は、自分の義父が今も金正恩氏の側近グループに属しているという。そして劉氏は、金氏の後継者を話題にすることは、それ自体が目的となっている可能性があると述べる。
「金は世間が思っている以上に、目立ちたがりだ。自分や後継者候補について書かれる記事が大好きだ」











