【解説】ホルムズ海峡での対立続く、全面戦争へ逆戻りのリスクも……BBC国際編集長

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ジェレミー・ボウエン 国際編集長
湾岸地域での停戦は4週間が経過し、すでにほころびが見え始めている。アメリカとイランは、何としても互いに圧力をかけ続けようとしており、その姿勢が停戦を深刻な危機にさらしている。危険な局面だ。
停戦は外交の機会を開き、外交は一時は前進するかに見えた。アメリカとイランの代表は、パキスタンの首都イスラマバードで同じテーブルに向き合ったが、手ぶらで帰国することになった。
パキスタン側は交渉プロセスを復活させようとしているものの、今のところ大きな成果は得られていない。アメリカもイランも合意を望んでいる。ただし、それぞれが考えている合意の内容は別物で、それぞれが譲れない一線(レッドライン)を固守し続けている。どちらかが(もしくはできれば双方が)、譲歩を提示することにしない限り、ちょっとした偶発事態一つで全面的な敵対行為が再開しかねない。
相手の意図やそれがもたらす結果を、片方が誤解したり誤算したりするリスクが、かつてないほど高まっている。どちらも、危機が制御不能に陥り、戦争が激化するに至る典型的な形だ。
アメリカは、ホルムズ海峡を通過する船舶2隻を護衛することにした。この決定にイランが反応するのは、最初から分かっていたことだ。今の事態がそれで終わるのか、それとも対応と反応の応酬がいっそう続いて全面戦争へと坂道を転げ落ちるのか。これが今週の喫緊の課題だ。
(編集部注:この記事の英語版の発表後、ドナルド・トランプ米大統領は5日、船舶を誘導してホルムズ海峡を通過させるアメリカの作戦について、イランとの合意に向けて「大きな進展」があったため「相互の合意」により一時停止すると述べた。イラン国営メディアは、海峡解放へのトランプ氏の取り組みが「失敗し続け」たため、トランプ氏が「後退」したのだと伝えた)
ホルムズ海峡について誰が決定力を持つのか。今やこれが、この危機の主要争点になった。アメリカとイスラエルが2月28日にイランを攻撃するまでは、海峡の通航は自由だった。航行の制限はなく、通行料の支払いもなかった。それがイランは今では、海峡の封鎖が自分たちにとって攻撃手段になるばかりか、収入源や保険の役割まで果たすのだと、世界に示すに至っている。イランのアッバス・アラグチ外相は4日、国会議員に対し、海峡がかつての状態に戻ることはないと述べた。
イランの政権がホルムズ海峡を自分たちの水域として支配し、海運業者に多額の通行料を要求できるような事態を、アメリカは容認できない。そのようなことをすれば、たとえ戦術上はイランに勝っても、自分たちが戦略的に敗北したことをアメリカは認めざるを得なくなる。
海峡の封鎖は、世界経済に影響を及ぼす。閉鎖がどれだけ続くのか、その期間の長さによって、今の戦争が世界中の人に与える影響の深刻度が左右される。石油や天然ガスだけでなく、ハイテク産業向けのヘリウムや肥料用原料の不足が、戦地から遠く離れた何百万人もの生活に影響し、その負担は増し続けている。肥料不足の危機は、食料が安定的に確保できていない国々で飢餓を引き起こす恐れがある。

トランプ大統領の思惑は、公言するしないを問わず、常に入り組んでいて変わりやすい。アメリカで自動車を使う人たちが払うガソリン価格を引き上げないよう、石油取引業者をソーシャルメディアで説得しようとしたこともある。
アメリカとイスラエルがどれほど痛みを与えても、イランは断固として抵抗し続けるという姿勢を維持している。このことに、トランプ氏はいら立っているはずだ。
イラン・イスラム共和国は、政府に抗議する自国民を治安部隊が街頭で射殺する国だ。今年1月にも、そういう事態になった。そのような政権は、国民の福祉をあまり深く気にかけたりはしない。少なくとも、国民の安全が自分たちの権力維持に影響しない限りは。
トランプ氏は、素早く勝てるはずだという思い込みから、開戦に踏み切った。開戦すればどうなるのか、そして勝利が容易でなければどうするのか、考え抜いてはいなかった。彼の今のいら立ちは、自分のそうした軽率な決定の産物だ。アメリカは、米軍がいかに効率の高い軍事力を持つか、その威力のほどを披露した。しかし、大統領の意思決定は揺れ動き、その結果としてアメリカは戦略的な行き詰まりに追い込まれた。
海峡を通過する数隻の船舶を米海軍に護衛させても、航行の自由は回復しない。アメリカとイスラエルがイラン相手に開戦する前は、1日あたり40~60隻が海峡を通過していた。
イランは、再び戦争に戻る覚悟があると明示した。場合によっては、事態激化のペースを自ら決める用意もあると示した。リスクだらけの戦略だが、米・イスラエルに殺された最高指導者や幹部に代わり権力を握ったイランの高官たちにとっては、そうするだけの価値があるリスクなのだろう。
アラブ湾岸諸国の中で、イランが主な標的とみなすのはアラブ首長国連邦(UAE)のようだ。この状況でUAEは、米・イスラエルとの同盟関係をいっそう強化している。イスラエルは、アイアンドーム防空システムをUAEに送り、運用のためにイスラエル国防軍(IDF)の兵も派遣した。イスラエルは、ウクライナに対してはこの協力を拒否しただけに、UAEに対するアイアンドーム提供は重要な意味を持つ。

イランがUAEのフジャイラ港を標的にしたことは、重大な決定だ。UAEにはホルムズ海峡の東側、オマーン湾に面した短い海岸線があり、フジャイラの港はそこに位置している。
UAEには、ホルムズ海峡を経由せずに石油が輸出できるパイプラインがあり、フジャイラは重要な輸出拠点だ。そこには大規模な石油備蓄施設もあり、UAEにとって戦略的、経済的に不可欠な拠点だ。UAEはイランが次にどう出るか、深く懸念している。UAEは表向きはイラン政府に強く警告し続けているし、有能な軍隊も持っているが、イランへの直接攻撃に関わりたくないことには変わりない。
しかし、UAEのこの方針は、停戦が崩壊すれば維持できないかもしれない。長期的には、アメリカ製兵器の追加調達に数十億ドルを投じている。

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トランプ氏は今も、イラン政権がアメリカの圧力と軍事力の前に屈すると信じているようだ。合意を成果として誇示したいだろうが、バラク・オバマ元大統領による最も重要な外交成果の一つだった核合意に劣ると、そう批判されるような合意は、トランプ氏は受け入れないだろう。
トランプ氏は第1次政権中、このイラン核合意こと包括的共同行動計画(JCPOA)から離脱した。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相から、強く後押しされてのことだった。そして、JCPOAの代わりに「最大限の圧力」と呼ぶ政策を導入したが、イランによるウラン濃縮を阻止できず、今や簡単な出口のない戦争への道へと、アメリカとイランを向かわせているように見える。











