ハンタウイルス集団感染の船から帰国のフランス人とアメリカ人に症状

雨が降る中、パリへ向かう救急車の列とその後ろをバイクで走る警官。右側車線にはタクシーなどが連なっている

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画像説明, ハンタウイルスの集団感染が発生したクルーズ船「ホンディウス」から下船して帰国したフランス人5人は、救急車でパリ市内の病院へ搬送された(10日、ル・ブルジェ)
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アレクス・フィリップス記者、サラ・レインズフォード南欧・東欧特派員(テネリフェ島グラナディージャ)

ハンタウイルスの集団感染が発生したクルーズ船の乗客の1人が10日、フランスへ帰国搬送中に発症したと、フランス首相が明らかにした。11日には、パリで隔離されている女性1人の容体が悪化していると保健相が発表した。米当局は10日、下船したアメリカ人のうち1人がハンタウイルスの軽い症状を示し、別の1人はウイルスのアンデス型に軽度の陽性反応を示したと発表した。

オランダ船籍のクルーズ船「ホンディウス」は10日未明、カナリア諸島沖に停泊した。乗客90人超が同日、下船し、フランス人5人を含むそれぞれが帰国などのため搬送された。

これまでにホンディウスの乗客3人が死亡しており、このうち2人はハンタウイルス感染が確認されている。

フランスのセバスチャン・ルコルニュ首相は、フランス国籍の1人がスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島からパリへ向かうチャーター便の機内で発症したと述べた。このため、ホンディウスからフランスへ医療搬送された5人全員を「さらに通知があるまで、直ちに厳重な隔離下に置いた」という。

フランスのステファニー・リスト保健相は11日、女性1人がパリで隔離されており、容体が悪化していると明らかにした。また、接触者22人が特定されたという。

同国人乗客がパリ近郊のル・ブルジェ空港に到着すると、当局者たちは個人防護具(PPE)を着けて滑走路で出迎えた。5人はその後、救急車でパリ市内のビシャ病院へ搬送された。

フランス外務省の声明によると、5人はこの病院で72時間隔離され、状態の判定を受けた後、45日間の自宅隔離に移るという。

アメリカ行きの帰国便には、アメリカ人17人とアメリカ在住のイギリス人1人の計18人が搭乗した。

米保健福祉省(HHS)によると、このうちアメリカ人1人がハンタウイルスの軽い症状を示し、別の1人はウイルスのアンデス型に軽度の陽性反応を示した。

HHSはこの2人の乗客について、「念には念を入れ、航空機内の隔離設備内で移動した」と説明した。

HHSは11日早朝、今回帰国したアメリカ人17人は全員、ネブラスカ州の医療施設で診察し、状態を確認すると明らかにした。また、これまでにすでにアメリカ人7人が帰国し、それぞれの在住州で状態をモニターされている。

テネリフェ島からマドリードへ空で搬送されたスペイン国籍の14人は、市内の軍病院で強制隔離されている。

下船したイギリス国籍の乗客20人は、飛行機で中部マンチェスターへ搬送された後、リヴァプール近郊の医療施設で72時間の隔離観察を開始した。英健康安全庁(UKHSA)によると、イギリス人の発症報告はないものの、経過観察が続いている。

オランダには、乗客・乗員26人(オランダ国籍者8人を含む)を乗せた航空機が到着した。

トルコとアイルランド国籍者のための帰国便も、10日に用意された。スペインのハビエル・パディージャ保健相は、乗客を乗せた最後の2便が11日午後に出発すると話した。オーストラリア行きの便には6人、オランダ行きには18人が乗る予定。この2便には、帰国便を自前で用意しなかった国の国民も乗るという。

空港の駐機場で、白い旅客機が止まり、その前に警告灯のついた黒い車両、蛍光ベストを着た職員のほか、水色のPPEをつけた人たちが立っている

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画像説明, 帰国したフランス人乗客たちをル・ブルジェ空港で待ち受ける当局者たちは、PPEを着ていた

ホンディウスは、現地時間10日未明にグラナディージャ港に到着。午前7時(日本時間午後3時)ごろ、医療チームが乗船した。

スペイン政府と世界保健機関(WHO)が綿密に策定した、乗船者の下船と本国送還に向けた手続きがここから始まった。10日朝から搬送作業が始まり、白い医療用マスクを着けた乗客が甲板や船室の窓辺を歩き回る様子が遠くから見えた。

最初の避難艇では、互いに社会的距離をとって乗客数人が座り、上陸地点に近づく様子を自分たちで撮影していた。着岸すると、白い防護服を着た当局者が出迎えた。

空港へ移送される乗客たちのうち、青いPPEを着た一部のイギリス人乗客が、集まった報道陣に向けて手を振り、親指を立てる姿も見られた。

現地ではホンディウスの到着に反対する声もあり、カナリア諸島自治州のフェルナンド・クラビホ首相は、テネリフェ島への感染拡大の懸念を表明している。

ハンタウイルスは通常、げっ歯類が媒介する。ただし、今回の集団感染につながったのはアンデス型だとWHOは見ており、これは人間が感染することもある。ホンディウスの一部乗客は、南米滞在中に感染した可能性がある。

クルーズ船内で最初に乗客が死亡したのは4月11日、次が5月2日だった。4月24日に南大西洋の英領セントヘレナ島で下船した69歳のオランダ人女性は南アフリカへ渡り、2日後に死亡した。

感染が確認されたイギリス人男性2人は、オランダと南アフリカで治療を受けている。3人目のイギリス人は感染が疑われており、大西洋上のトリスタン・ダ・クーニャ島で治療を受けている。英陸軍の医療要員が物資を携えて島へ降下し、対応している。

イギリスに到着するイギリス国籍者は隔離施設に移送され、最大72時間滞在する。医療スタッフが生活環境に基づいて評価し、自宅または別の適切な場所で隔離できるか判断する。

乗客と乗員の全員が下船した後、ホンディウスはオランダへ向かい、死亡した乗客の遺体と所持品は、撤去前に消毒される。

南大西洋を横断するクルーズ船ホンディウスの航路と出来事のタイムラインを示した地図。船は4月1日にアルゼンチン・ウシュアイアを出港。4月11日に最初の乗客が航行中に死亡した。その後、航路は北東方向にアフリカへ続く。4月24日には、死亡した乗客の妻がセントヘレナ島から南アフリカへ空路で移送された。南アフリカ付近の表示では、4月26日に女性がヨハネスブルクで死亡、4月27日に発症した2人目の乗客が病院へ搬送されたことが示されている。5月2日には、別の乗客が船内で死亡。5月3日に船はカーボヴェルデに到着した。最後の注記には、船が5月10日にテネリフェ島に到着したと記されている。航路は矢印付きの赤い線で示され、主要地点には黒い点が記されている。

ハンタウイルスとは?

ハンタウイルスは、ネズミなどげっ歯類の一部がもつウイルス群で、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの一部地域で確認されている。多くのハンタウイルスは人から人へは感染しないが、「アンデス型」では、まれに人への感染が報告されている。

感染経路は?

通常は、感染したげっ歯類の尿、ふん、唾液に含まれるウイルス粒子で汚染された空気を吸い込むことで感染する。人から人への感染は、濃厚接触を通じてのみ起きる。クルーズ船ホンディウスでは、アンデス型ハンタウイルスが複数の乗客から確認されている。

症状は?

発熱、強い倦怠(けんたい)感、筋肉痛、腹痛、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、息切れなどが含まれる。重症化すると、呼吸困難や低血圧、腎不全に至る場合がある。

治療法は?

現時点では、一般的に利用可能なワクチンや特有の抗ウイルス治療はない。治療は支持療法が中心で、入院管理や呼吸補助など、症状に応じて行われる。