【解説】 イランの高リスク戦略、「耐久力」と「抑止力」が柱か

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アミル・アジミ、BBCニュース・ペルシャ語
イスラエル、アメリカの両国と紛争状態にあるイランが、攻撃範囲を拡大させている。その軍事姿勢からは、イランが従来の意味での勝利を目指して戦っているのではなく、生存、それも自分たちが定義する生存をかけて戦っていることがうかがえる。
イラン・イスラム共和国の指導部や軍司令官たちは、何年もかけて、このときのために準備を進めてきた。
イランは、自分たちの地域的な野心が最終的には、イスラエルあるいはアメリカとの直接対決を招くかもしれないと理解していた。どちらか一方との戦争はほぼ確実に、もう一方を巻き込むだろうということも。こうしたパターンが起こり得ることはすでに、昨夏の「12日間戦争」で明らかだった。当時、イスラエルがイランを攻撃したことで両国は交戦状態にあった。そしてイスラエルの最初の攻撃から数日後、アメリカはイラン国内の核施設を空爆し、加勢したのだった。
今回の戦闘では、アメリカとイスラエルは同時にイランへの攻撃を開始した。
アメリカとイスラエルの技術的優位性や情報能力、先進的な軍事装備を考慮すれば、イランの戦略家たちが戦場での単純な勝利を計画していると考えるのは浅はかだろう。
むしろイランは、抑止力と耐久力を柱とする戦略を構築していたようだ。この10年間で、多層的な弾道ミサイル能力や長距離ドローン、そして中東地域全体に広がる同盟武装勢力ネットワークに多額の資金を投じていた。
イランは自らの限界も理解している。アメリカ本土は射程圏外だが、中東地域、とりわけ周辺のアラブ諸国の米軍基地は、射程に収まる。イスラエルも、イランのミサイルやドローンが届く範囲に位置する。そして、最近の交戦では、イスラエルの防空網を突破できる可能性も示されている。防空をすり抜けるこうした飛翔(ひしょう)体一つ一つの存在が、軍事的だけでなく心理的な重みを持っている。
戦略をめぐるイランの計算の一部は、戦争経済に依拠している。イスラエルとアメリカが使用する迎撃手段は、イランが配備する多くの使い捨てドローンやミサイルよりもはるかに高価だ。紛争の長期化は、アメリカとイスラエルに、比較的低コストな脅威の迎撃のために高価な資産の消耗を強いることになる。
エネルギーも、戦争経済におけるもう一つの手段だ。
イランとアラブ首長国連邦(UAE)の間のホルムズ海峡は、石油・ガス輸送における世界有数の重要航路だ。イランは、この狭い航路の完全封鎖まで踏み込む必要はない。信じるに足る脅しや、限定的な妨害だけで、すでに石油・ガス価格は押し上げられている。この状況が続けば、緊張緩和を求める国際的圧力が強まるかもしれない。
そういった意味で、事態の拡大は、必ずしもイランの敵対勢力を軍事的に打ち負かす手段というわけではなく、戦争継続のコストを引き上げる手段となる。
この戦略は、近隣諸国への攻撃にもつながる。
カタールやUAE、クウェート、オマーン、イラクなどに対するミサイル・ドローン攻撃には、米軍を駐留させることにはリスクが伴うというメッセージを送る意図があるとみられる。
イラン政府は、これら中東各国の政府が米政府に作戦の抑制や停止を迫ることを期待しているのかもしれない。だが、これは危険な賭けだ。攻撃を拡大すれば、これらの国々が敵意を強め、より強力に米イスラエルの側に立つ恐れがある。
そうした長期的な影響は、戦争そのものよりも長引く可能性がある。イランの孤立を深めるかたちで、中東地域の勢力図を組み替えるかもしれない。
生き延びることが優先事項であるなら、敵の輪を拡大し得る行動はハイリスクな選択といえる。ただし、自制が弱さの表れと受け取られるのであれば、イラン政府にとっては自制も同様に危うい選択に映るかもしれない。
現地の指揮官が比較的自主性を持って標的を選定したり、ミサイルを発射しているとする報告も複数あり、さらなる疑問を呼んでいる。
しかし、これが事実であっても、指揮系統の崩壊を必ずしも意味するわけではない。イランの軍事ドクトリン(基本原則)は、とりわけイスラム革命防衛隊(IRGC)においては、激しい攻撃下でも継戦能力を確保するため、分散型の要素を長年組み込んできた。
例えば、通信網は傍受や妨害にぜい弱で、上級司令官が標的にされてきた。アメリカとイスラエルによる制空権は、中央統制を制限する。こうした状況下では、事前承認済みの標的リストや、事前に委任された発射権限が、司令部との通信が遮断された場合の計画的な安全策となり得る。
IRGC高官が殺害された後も、さらには2月28日のアメリカとイスラエルによる攻撃でイラン最高指導者兼最高司令官のアリ・ハメネイ師が殺害された後も、イラン軍が活動を継続できたのは、こうした分散型の仕組みがあったからかもしれない。
しかし、この仕組みにはリスクが伴う。不完全な情報をもとに行動する現地の指揮官が、中立を保とうとしてきた隣国など、標的ではなかったものを攻撃してしまう恐れがある。
統一された作戦状況図の欠如によって、判断ミスの確率は高まる。そうした状況が長期化すれば、指揮・統制能力の喪失にもつながりかねない。
結局のところ、イランのアプローチは、自分たちは攻撃に耐え続けられるという信念に基づいているようだ。イランは、敵が痛みや代償に耐える期間よりも長く、耐えられるのだと。
そうであるなら、これは計算された事態の拡大だ。攻撃に耐え、報復し、完全崩壊を回避し、相手の側に政治的亀裂が生じるのを待っているのだ。
しかしながら、耐久力にも限界はある。ミサイル備蓄にも限りがあるし、製造ラインは断続的に攻撃にさらされている。移動式発射装置は移動の最中に狙われ、その補充には時間がかかる。
同じことはイランの敵にもいえる。
イスラエルは、防空システムに完全に頼れるわけではない。防空網が突破されるたびに、国民の不安は増幅する。アメリカは中東地域での事態拡大や、エネルギー市場の変動、長引く作戦による財政負担をはかりにかけなければならない。
いずれの側も、時間をかけるほど自分たちに有利に働くと考えているようだ。しかし、本当にそうだろうか。
この戦争でイランに必要なのは、勝利ではない。存続し続けることだ。
その目標は達成できるのか。近隣諸国を恒久的に敵に回すことなく達成できるのか。その答えはまだ出ていない。











