イランでの地上戦、クルド人が展開の可能性 「準備してきた」とイラク北部の指導者ら

迷彩服の人が自動小銃を両手で体の前で持っている。銃の部分のアップで、人物の頭部や下半身は写っていない。銃には照準器がついている。

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オーラ・ゲリン国際担当上級編集委員(イラク北部)

アメリカとイスラエルによるイラン攻撃が6日目に入り、空からの爆撃が続いている。近いうちに地上部隊が展開するのだろうか? 可能性はある。ただ、それは米軍ではない。

イラク北部に亡命しているイラン出身のクルド人らでつくる複数の反体制派組織は、BBCに対し、国境を越えてイランに進入する計画があり、それは数十年前からずっとあるものだと話した。一方で、自分たちの戦闘員らがすでに越境したとの見方については、きっぱりと否定した。

「我々は過去47年間、イスラム共和国の時代から、このために準備を進めてきた」。反体制派組織で最大の武力を保持すると自ら主張するクルディスタン自由党(PAK)のハナ・ヤズダンパナ氏はそう話した。

一方で彼女は、「ペシュメルガは一人も動いていない」と主張した。「ペシュメルガ」は、クルド語で「死と向き合う者」を意味する。

ヤズダンパナ氏は、六つの反体制派グループが最近、連合体を結成し、政治的・軍事的に連携していると説明。「誰も単独行動は取らない」、「同胞が動けば必ずわかる」と言った。

同氏は、今週中に戦闘員が前進するとはみていない。まずアメリカが道筋をつける必要があると考えている。

「上空が安全でなければ、私たちは動けない」と同氏は話す。「それに(イランの)政権の武器庫が破壊される必要もある。そうでなければ自殺行為になる。政権は非常に残忍だ。一方で、私たちが持っている最も先進的な武器はカラシニコフだ」。

ヤズダンパナ氏は、クルド人戦闘員を守るため、アメリカによる飛行禁止区域の設定を求めている。「私たちは何度も要請してきた」と同氏は言う。「私自身も『緊急に必要だ』というメールを送った」。

クルド人をめぐっては、アメリカのドナルド・トランプ大統領が武器供与を検討しているという報道が出ているが、ホワイトハウスはこれを否定している。クルド人の多くは過去に、イラクで過激派勢力イスラム国(IS)と戦うために、米軍による訓練を受けている。

イラン出身のクルド人部隊前進の可能性が話題にあがるなか、イランによるクルド人への攻撃も増している。BBCは、二つの異なるグループに対する攻撃の痕跡を確認した。PAKの拠点は、弾道ミサイル攻撃によって大きな被害を受け、戦闘員1人が殺害された。

大きく破壊された建物がある。背後には平屋の建物が残っている。大きなタンクも見える

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一部のグループは拠点を捨て去り、部隊を移動して、攻撃から身を守ろうとしている。

政権を相手にした戦いに加わることは大きなリスクだ。トランプ氏が見返りに何を提供するのかも不透明な状況だ。

クルド人は、中東で4番目に大きな民族で、イラン、イラク、シリア、トルコに散らばっている。迫害と裏切りを受けてきた長い歴史をもち、クルド人のことわざには「私たちの友は山のみ」というものもある。

アメリカは約束を守ると信頼できるのか? ISとの戦いでアメリカの強固な味方となったシリアのクルド人の多くは、対立するシリア暫定政府への支持をトランプ氏が最近、表明したことに怒りを感じている。

それでも、イラン出身のクルド人の指導者の一部は現実的な見方をしている。

口ひげをはやした白髪の男性がソファに座っている。両手を股の前で組んでいる

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画像説明, イラン・クルディスタン民主党(KDPI)のムスタファ・マウルディ副党首は、今月開かれる祝祭「ノウルーズ」をイラン国内で祝うことを望んでいる

「アメリカとイスラエルがこの戦争を始めたのは、私たちの望みを受けてではなく、自分たちの利益のためだ」と、イラン・クルディスタン民主党(KDPI)のムスタファ・マウルディ副党首は話す。「だが、両国はイスラム革命防衛隊(IRGC)の拠点を攻撃している。これは私たちにも好都合で、私たちの進入を助けるものだ」。

現在67歳のマウルディ氏は、生涯の大半において、イスラム政権の崩壊を待ち続けてきた。

クルド人の伝統衣装を身にまとったマウルディ氏は、痛ましい家族の歴史を語った。いとこの1人は13歳の時に政権に殺害された。もう1人は反体制派と協力した疑いで31年間収監されている。自分が政治活動をしているために、これまでに家族の6割が逮捕され虐待を受けてきたという。

マウルディ氏はすでに、故国の土を踏む最初の瞬間を心に描いている。

「最初の村に着いたら……」と彼は話す。「大声でこう言うつもりだ。『私はあなたたちのために戦ってきた。あなたたちは私の同胞だ。私はこれからもさらに戦う』と」。彼は今月21日のクルドの新年の祝祭「ノウルーズ」を、イランで祝うことができると信じている。

イランの人口約9000万人のうち、クルド人は約1割を占める。ここイラク北部にいるクルド人の指導者らは、国際社会に対し、トランプ氏を支持し、クルド人を支持するよう呼びかけている。

「私たちはイランで最も政治的に組織された集団だ」と、イラン・クルディスタン・コマラ党のアブドゥラ・モフタディ事務局長は話す。「そして私たちは、この(変革の)機会を無駄にはしない」。

モフタディ氏は、イギリスの姿勢に失望している。

「イギリスが(欧州)大陸で唯一、IRGCをテロ組織に指定していないことに驚いている」とモフタディ氏は話した。また、イランを攻撃するアメリカに対してイギリスが、自国の基地の使用許可を「ためらったこと」も批判した。

草原で銃を携えた戦闘員らしき人々が7人ほど離れて立っている。背後には山並みが見える

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画像説明, クルド人の組織は、一部の部隊がイランに越境したとの報道を否定している

クルド人がどれくらいの兵力を集められるのかを推し量るのは困難だ。ここにいるクルド人ジャーナリストの1人は、「数千人に上る可能性がある。すでに内側にいる人たちを含めてだ」と言い、こう続ける。

「そうした人々は、イランの変化の一部になりたいと思っている。自分たちも確実に、イランの未来の一部になりたいと願っている。歴史の教訓に反し、みんな希望をもち続けている」

イラン出身のクルド人の一部は、アメリカの約束があろうとなかろうと、今こそ行動する時だと言う。

「故国に帰れるわずかな望みがあるなら、私たちはうれしい」。イラン国境近くの都市スレイマニヤで、ある女性はそう話した。

「私たちは(イランを)、処刑人のイスラム政権と呼んでいる。心底憎んでいる。あまりにも多くの人を殺してきた」

こうした状況は、イラクを困難な立場に追いやっている。イラクは、隣国での戦争に巻き込まれることを恐れている。イラク政府は、グループが「テロ行為の実行のため、イラク領土からイランとの国境を越えて侵入する」ことを許さないと表明している。

クルド人部隊が国境を越えるとすれば、前出のPAKのヤズダンパナ氏は、喜びと悲しみが入り交じった複雑な気持ちを覚えるだろう。

「故国に戻れば、いろんな思いで胸がいっぱいになるだろう」と彼女は言う。「おじたちと祖父母たちはここ(イラク北部)で亡くなった。どういう気持ちになるのか、うれしいのか悲しいのか、わからない。その日を本当に見届けるべき人たちはもういないのだから」

追加取材:ウィーツケ・ブレマ、マシュー・ゴダード、ビザール・シャリーフ