【米大統領選2024】 トランプ前大統領の共和党内での支配力浮き彫りに 追起訴に触れない対立候補
サラ・スミス、北米編集長(アイオワ州デモイン)

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2024年米大統領の共和党候補指名を争う13人が28日夜、アイオワ州デモインでの会合に集まった。それぞれ演説する中、ドナルド・トランプ前大統領に真っ向から挑んだのは1人だけで、大ブーイングを浴びた。この光景は、前大統領が今も党内で支配力を維持していることを浮き彫りにした。
リンカーン夕食会の舞台裏では、いたずらっぽいユーモアを見せる人物がいた。
2024年大統領選の共和党指名を狙う候補者たちが演説のために歩き出すと、会場にはカントリーソング「Only In America(アメリカでだけ)」が流れた。
トランプ前大統領の出番で聞こえた歌詞は、アメリカにいる誰かを待ち受けているかもしれない2つの選択肢を描いていて、非常に意味ありげな内容だった。
「刑務所に行くかもしれないし」
「あるいは大統領になるかもしれない」
第45代大統領は、特に気にしていないようだった。すでに2つの刑事裁判に直面しており、さらに2件の事件で間もなく追起訴されるかもしれないわけだが、いずれも特に隠そうとしない。むしろ、訴追されていることを自慢の材料にしている。
自分はまったく政治的な理由から、不当に標的にされている。これが前大統領の言い分だ。
アイオワ州は、来年1月に党の候補指名争いで最初の投票が行われる重要な州だ。その地で今回開かれた晩餐会には、共和党支持者1200人が出席した。そしてその聴衆を前にトランプ氏は次のように述べた。もし大統領選に再び出馬していなければ、自分は起訴されていないはずだと。そして、自分が優勢でなければ、起訴されていないはずだと。
深刻な刑事事件で起訴されていることを、自分の成功の証として利用するのは、かなり大胆不敵なことだ。しかし、それこそがトランプ前大統領らしさとも言える。そして、前大統領のそうした態度にどう反応すればいいのか、対立候補たちはひどく混乱している。
前大統領をめぐっては、大統領退任後に機密文書をフロリダ州の私邸に保管していた問題で、捜査を主導するジャック・スミス特別検察官が27日、私邸の監視カメラ映像を消去するよう従業員に圧力をかけていたなどとして、同氏を追起訴した。
修正された起訴状には、防衛情報を意図的に保持していた罪1件と、司法妨害罪2件の計3件の罪状が加えられた。
ところが、アイオワ州に集まった大半の候補者は、追起訴について無視を決め込んだ。結局、共和党の候補者指名争いで紛れもないトップランナーを前に、起訴について問いただそうとさえしなかった。
司法省の動きについて言及した対立候補はただ1人、知名度の低いウィル・ハード氏だった。元下院議員(テキサス州)で、米中央情報局(CIA)の捜査官だったハード氏は、前大統領が出馬しているのはアメリカを再び偉大にするためにではないと主張した。
「ドナルド・トランプは、2016年や2020年に自分に投票した人たちを代表するために大統領選に出馬しているのではない。ドナルド・トランプは、刑務所に行かずに済むよう、そのために出馬している」
ハード氏のその後の発言は、大きなブーイングとカトラリーを鳴らす音にかき消されそうになった。「帰れ」と叫ぶ男性もいた。同氏がこの会場で劣勢なのは明らかだった。
この会場では、多くの共和党支持者がトランプ支持のステッカーを身に着けていた。ステイシー・テイバー氏もその1人だ。彼女は私に対し、前大統領に対する罪状を何一つ信じていないと話した。そして、現政権(民主党)が「彼を排除しようとこれほど必死になるのは、つまり(前大統領が)ジョー・バイデンに勝つとおびえているからに違いない」とした。
ステイシー氏の夫ダン氏はさらに、バイデン氏と息子のハンター・バイデン氏こそ刑事裁判を受けるべきだと述べた。ダン氏をはじめ会場にいた多くの人が、ハンター氏をめぐる疑惑に繰り返し言及した。ハンター氏には外国企業とのビジネス取引や外国からの影響を受けていたとする疑惑が浮上しているが、これが事実かどうかは証明されていない(ホワイトハウス側は否定しているものの、共和党議員は調査を進めている)。
夕食会では、候補者同士が互いにやりとりする様子を見て楽しむ機会はなかった。候補者はそれぞれに用意された楽屋から登場して、10分間の演説をするだけだった。互いに顔を合わせる必要はまったくなかった。
候補者たちが顔を合わせることになる、8月23日の共和党第1回討論会では、もっと火花が散るかもしれない。ただしトランプ前大統領は、自分は世論調査であまりに優勢なので、欠席するかもしれないと話している。
ニューハンプシャー州のクリス・スヌヌ知事はトランプ支持者ではないが、最近になって、来年の大統領選に前大統領の対抗馬として出馬することはしないと発表した。
スヌヌ知事は私に対し、候補者の間に大きな政策上の違いはないため、前大統領に対抗するには、何を言うかではなくどのようにふるまうかが大事だと語った。
「エキサイティングで情熱的で、いくらか感情を見せる必要がある。それから少しばかりのユーモアとカリスマ性も必要だ」
さらに、有権者に好まれ、有権者にこの候補なら本選で勝てると思われること、それが大事なのだとスヌヌ氏は付け加えた。それだけに新人が全国規模の舞台で前大統領の知名度やスター性と張り合うのは非常に難しいことなのだと。
候補者の多くが現在、1ケタ台の支持率どまりだ。そのドングリの背比べから抜け出せそうだと28日に可能性を示した1人が、ミレニアル世代の起業家で駆け出し政治家のヴィヴェク・ラマスワミ氏だ。

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ラマスワミ氏が演説を終えると、聴衆はスタンディングオベーションで応じた。この日に同様の反応を得られたのは、前大統領と、大半の世論調査で2位につけているフロリダ州知事のロン・デサンティス候補、ラマスワミ氏だえkだった。
会場の外には、お決まりの候補者支持バッジやTシャツ、野球帽などを売る屋台が出ていた。ステージには13人の候補者が登壇したが(欠席した公式候補は、元ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏のみ)、商品に名前があったのは4人だけだった。
その4人とは、トランプ前大統領、デサンティス知事、ラマスワミ氏、そして最近少し注目を集めているティム・スコット上院議員(サウスカロライナ州)だ。
「長年この商売で生計を立ててきた」と、屋台の店主は私に話した。「何が売れるか自分にはわかる」のだと。
そして共和党の党員がかねて強く信じてきたことといえば、市場原理なのだ。








