【解説】 この異例の事態にイランは備えてきた……BBCドゥセット特派員

イラン国旗とハメネイ師の遺影を手にした黒衣の老若男女が、大勢集まっている。右手を挙げて叫ぶ人もいる。

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画像説明, 最高指導者ハメネイ師の死去に怒り嘆く人たちがエンケラブ広場に集まった(1日、イラン・テヘラン)
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リーズ・ドゥセット 主任国際特派員

これはイラン・イスラム共和国にとって決定的な瞬間だ。

2月28日の朝以来、最高指導者の安否をめぐってさまざまな報道が飛び交った。空爆の第一波で、その住まいが標的になったのは明らかだったからだ。

人工衛星画像は、アリ・ハメネイ師(86)が暮らす施設が重大な損害を受けたことを示していた。

最高指導者は安全な場所に移されたというのが、イラン当局の最初の反応だった。

続いて、ハメネイ師が国営テレビで演説するという話があったが、何も起きなかった。

夕方になると、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がテレビ演説で、最高指導者は「もはや存在しない」と示す「証拠がたくさんある」と発表した。

イスラエルとアメリカのメディアは、さまざまな匿名の当局者からの情報だとして、ハメネイ師が死亡したと示す、説得力のある証拠があると伝えていた。

この間、イラン当局はずっと否定し続けていた。

しかし、ドナルド・トランプ米大統領が自分のソーシャルメディアでハメネイ師の死を発表してから数時間後、イラン国営テレビのアナウンサーが涙ながらに、「イスラムの指導者として揺るぎない頑強な山のよう」な人が、「甘美で純粋な殉教の杯を飲み」死去したと発表した。

動画説明, イラン国営テレビの司会者、最高指導者ハメネイ師の死去を涙ながらに発表

40日間の服喪が発表され、戦争2日目の夜明けとともに最高指導者の死を悼む親政権イベントが開かれ始めた。

しかし同時に、夜のうちに、イラン国内のいくつかの都市や、世界中のイラン人コミュニティーの間で、大勢が歓喜を爆発させている様子の映像が次々と出回った。

在外イラン人の多くは、強硬姿勢のハメネイ師による統治の終わりを祝い、これがイスラム共和国の終わりを意味すると期待をあらわにしていた。

イラン革命前の「獅子と太陽」のイラン国旗を手に、笑ったり泣いたりしている人たち。

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画像説明, アメリカとイスラエルによるイラン攻撃の知らせを喜ぶ在外イラン人の集会(1日、豪シドニー)
晴天の街の一角に、イラン革命前の旗や、さまざまなプラカードを持った人たちが集まっている

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画像説明, アメリカとイスラエルによるイラン攻撃の知らせを喜ぶ人たち。「トランプ大統領、ありがとう」、「イランを再び偉大にしよう」、「シャーよ永遠に」などと書かれたプラカードも見える(2月28日、米ロサンゼルス)

イラン・イスラム共和国の波乱に満ちた歴史の中でも、今は特に重大な局面だ。しかし、強大な権力を携えて体制を支えてきた聖職者や司令官たちは、この運命の時に備えてきた。

昨年6月に起きた12日間戦争の間、イラン指導部は意識を集中させた。あの時の最初の夜だけで、攻撃の第一波で、イスラエルは9人の核科学者と複数の治安責任者を暗殺することに成功した。その後さらに、研究幹部や少なくとも30人の主要司令官が殺害された。

アメリカとイスラエルが、ハメネイ師も標的しているかもしれないことも、明らかになった。

この戦争の間、ハメネイ師は特別な地下壕(ごう)で過ごしていた。そしてその間、最高指導者は政府上層部に空白が生じるのを避けるため、即座に役割を引き継げる治安当局者のリストを作成していると報じられた。

加えて報道によると、ハメネイ師は昨年6月のこの戦争の前から、聖職者88人からなる専門家会議に、あらゆる事態に備えるよう指示していたという。最高指導者を選ぶのは、この専門家会議だ。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、ハメネイ師は自分が暗殺された場合の後継候補として、「3人の上級聖職者」を選んでいた。

誰が後を継ぐのかは、もう長年取りざたされてきた。息子のモジタバ師がそうするとの臆測もあった。

テヘランで大統領府や最高指導者事務所が攻撃されたことを示す地図

今回の攻撃で殺されたのは、ハメネイ師だけではない。標的を絞った今回の攻撃を免れた人たち、あるいは今回の攻撃の影響で昇格を余儀なくされた人たちは、政権の統治は揺るぎなく、後任への承継もよどみなく行われると、世界に示したいはずだ。

しかし、36年に及ぶ最高指導者の統治の終わりは、彼の支持者、とりわけ彼を守りイスラム革命を国内外で防衛する任務を負う精鋭イラン革命防衛隊(IRGC)の側近や協力者たちに衝撃を与えるだろう。

しかしBBCは、テヘランやカラジの街頭で、ハメネイ師の死を祝う人々の映像を確認している。

ハメネイ師は西側に、とりわけアメリカに深い不信感を抱き、イスラエルに対しては強い敵意を抱いてきた。そして、国内の改革要求や繰り返される抗議を抑え込みながら、強力に統治してきた。

イスラエルおよびアメリカとの直接的な軍事衝突が続き、国内でも変化を求める声が高まったここ数年、彼は最大の試練に直面していた。

私たちが今月初めにテヘランに滞在した際、イランはこれまでと別の国のように感じられた。歴史上最悪の弾圧で数千人のイラン人が殺害された後の、その痛みと怒りはまだ生々しかった。

ハメネイ師による統治が突然終わった今、イランは今後どうなるのかが、後継者に突き付けられることになる。政権のトップ交代が、体制樹立から47年になるイスラム共和国の方向転換につながるのかどうかも。

誰が後継者になるとしても、優先的な目標は変わらない。聖職者と強力な治安部隊を権力の座にとどめるための、体制の存続が、共和国の最優先の目的なのだ。

この戦争の終わりは、まだ到底見えない。しかし、すでに予測不能で危険な形で展開している。