【解説】あえて戦争を選択、米とイスラエルは得難い好機をつかみに行ったか

日中の道路で複数の車両が燃え、周りにがれきが散らばっている

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画像説明, テヘランで燃える車両。28日にソーシャルメディアに投稿された動画から
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ジェレミー・ボウエンBBC国際編集長

アメリカとイスラエルがイランに対して、新しい戦争に飛び込んだ。両国のこの動きは、予測不能な結果をもたらす、きわめて危険な瞬間を作り出した。イスラエルは、攻撃を正当化するために「先制」という言葉を使った。

「先制」と言うからには、差し迫った脅威があることがその前提となる。しかし、今回の攻撃は、差し迫った脅威に対する反応ではない。それは証拠が示している。その代わりに、これはあえてこうすることを選んだ上での戦争だ。

イスラエルとアメリカは、イランのイスラム体制が弱体化していると、そう計算したのだ。深刻な経済危機に直面し、年初に反政府抗議を残酷に弾圧したことの余波に揺れ、しかも昨年夏の戦争でひどく破壊された防衛力も回復していない。

つまり、イスラエルとアメリカは、今のこの好機は決して無駄にしてはならないと、そう結論したようだ。

そして、おぼつかなく揺らぐ国際法の体系が、またしても打撃を受けたのだ。

ドナルド・トランプ米大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はそれぞれの声明で、イランは自国にとって危険だと述べた。トランプ氏は、イランが世界にとって危険だと述べた。

アメリカとイスラエルの両国が、イスラム体制と激しく敵対し続けたことは紛れもない。しかし、両国とイランとでは、実力の格差はあまりに大きい。となると、自衛という法的正当性が適用できるとは、考えにくい。

青空の下に建物がぎっしり並び、写真の奥で灰色の煙が立ち上っている。そのさらに向こうにはなだらかな山が見える

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画像説明, イランの首都テヘランで大きな煙が立ち上った(28日)

戦争は政治的行為だ。武力紛争は本質的に、一度始まってしまうと制御するのが難しい。指導者は明確な目的を必要とする。

ネタニヤフ首相は何十年もの間、イランをイスラエル最大の敵と見てきた。彼にとって今のこれは、イランの政権とイランの軍事能力に、できるだけ最大限の損害を与える機会だ。加えてネタニヤフ氏は、年内に総選挙を控えている。イスラム組織ハマスとの2年間の戦争から、明らかになったことがある。イスラエルが戦争状態にある時、自分の政治的立場は強まると、ネタニヤフ氏は信じているのだ。

トランプ氏の目的は相変わらず揺れ動き、変化してきた。彼は今年1月にはイランの抗議者に向けて、「助けが向かっている」と伝えた。しかし、米海軍の多くは当時、ヴェネズエラ指導者の排除に忙しかったため、トランプ氏に軍事面での選択肢はあまりなかった。

青空の下、青い洋上の軍艦の上で撮影したと思われる写真。白煙とオレンジ色の炎を上げて、ミサイルのようなものが発射されている

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画像説明, アメリカとイスラエルによるイラン攻撃作戦に関連して米中央軍が公表した写真

アメリカがこの地域に2つの空母打撃群と相当の地上火力を展開していた間、トランプ氏はイランの核の野望の危険について、しきりに語っていた。しかし、昨夏の戦争の後、彼はイランの核開発計画が「壊滅した」と宣言していたのだ。

イランの政権は、核兵器の追求を一貫して否定してきた。しかし、原子力発電事業での民生利用などまったく不可能なレベルまで、ウランを濃縮してきた。少なくとも爆弾を作る選択肢を、イランは望んでいるように見える。ただし、イランによる核兵器製造が差し迫っていたという証拠を、イスラエルもアメリカも今のところ公表していない。

トランプ氏はイラン攻撃を宣言したビデオの中で、イラン国民に「あなた方の自由の時はそこまで訪れている」と語りかけた。ネタニヤフ氏も似た内容のことを言い、今回の戦争はイラン国民に体制打倒の機会を与えると述べた。しかし、そのような展開はまったく確実ではない。

空爆だけで体制転覆が実現したなどという、前例は存在しない。イラクのサダム・フセイン元大統領は2003年、アメリカ主導の巨大な侵攻軍によって倒された。リビアのムアンマル・カダフィ大佐を2011年に倒したのは、北大西洋条約機構(NATO)と一部のアラブ諸国から空軍支援を受けた反乱勢力だった。いずれの場合も、その結果としてもたらされたのは国家の崩壊と内戦、そして多大な人数の殺害だった。リビアは今も破綻した国家だ。イラクは今も、侵攻とその後の流血の結果に苦しんでいる。

仮に今回が、空爆のみで体制崩壊が実現する初の事例になったとしても、イスラム体制が自由と人権を守るリベラルな民主主義に置き換わることはない。待機中の亡命政府のような、「信頼できる代替勢力」は存在しない。

テヘラン市内の最高指導者事務所などが攻撃された様子を示す地図

イランの政権は約半世紀にわたり、イデオロギーと腐敗と、いざとなれば実力を情け容赦なく使う仕組みに裏打ちされた、複雑な政治システムを築いてきた。テヘランの政権は今年1月、自分たちは抗議者の殺害をためらわないのだと、その姿勢を明示した。体制に反対する市民を射殺せよと命令され、それに従う治安部隊を、政権は持っているのだ。

アメリカとイスラエルは、最高指導者のアリ・ハメネイ師を殺害しようとしているのかもしれない(訳注:本稿の英語版公開から数時間後、アメリカとイスラエルの両国首脳は、ハメネイ師を殺害したと発表。イスラエル国営メディアも現地時間3月1日早朝、ハメネイ師の死去を伝えた)。

イスラエルは、戦略のひとつとして、暗殺の力を信じている。イスラエルは過去2年の間に、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスの指導者たちを、レバノンでイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者を、そして各組織の副官たちを、次々と殺害してきた。

しかし、イランのイスラム体制は別だ。武装組織ではなく、国家を支配する政権なのだ。一人の「ワンマンショー」でもない。たとえ最高指導者が殺されたとしても、別の聖職者が代わりに後任となるだろう。そして、体制防衛を任務とするイラン革命防衛隊(IRGC)が、新しい指導者を支えるはずだ。

ダークスーツ姿でUSAの文字が書かれた白い野球帽をかぶったトランプ氏が、大統領印領のついた演台に向かい、マイクを前に演説している。背後には米国旗などがある

画像提供, Donald Trump/Truth Social

画像説明, イランへの攻撃実施を発表するトランプ氏。動画がトゥルース・ソーシャルに投稿された

トランプ氏はIRGCに、武装を解除すれば免責する、それに従わなければ死は確実だと告げた。しかし、IRGCがそれに応じる可能性は低い。イラン・イスラム共和国とイスラム教シーア派の信徒にとって、殉教はイデオロギーの中心的要素だ。

トランプ氏は、政治と人生を動かす主な力は、交換、取引だと信じている。本人の著書「取引の技術(邦題「トランプ自伝)」からも、それは明らかだ。しかし、イランと取引するには、イデオロギーと信仰の力を考慮する必要がある。イデオロギーと信仰を数値化するのは、ずっと難しい。

今年初めから危機が高まり、アメリカが艦隊を集結させる中、戦争は不可避だとイラン首脳部が認識していると、そううかがわせる材料が増えていた。イラン政府は交渉に応じてはいた。しかしそれは、昨夏にイスラエルが攻撃しアメリカが参加した際にも交渉が続いていたと、その過去の経験を念頭においてのことだった。

イランと近隣国の地図。東はアフガニスタン、西はエジプト、北はトルコ、南はイエメンまでの国々の位置が示されている

対するイランは、アメリカもイスラエルも信用していない。トランプ氏は最初の任期で、オバマ政権の外交政策の柱だったイラン核合意(JCPOA=包括的共同作業計画)から離脱した。

イランはこのところ、第二のJCPOAのような合意を、少なくとも時間稼ぎのために受け入れようとしていると、そういう兆しもあった。しかし、アメリカはどうやら、イランのミサイル開発計画や、イランがイスラエルとアメリカに敵対する周辺地域の同盟国を支援することも、厳しく制限するようを要求していたようだ。

それはイランにとって「降伏」に等しい、受け入れ難い要求だった。ミサイルと同盟国を放棄すれば、体制が最も恐れる政権転覆の危険がむしろ高まると、イラン指導部はそう認識していた可能性もある。

イランの首脳たちは今、この戦争をどう乗り切るか、どう生き残るか、そして、その結果をどう管理するか、さまざまに計算していることだろう。サウジアラビアを筆頭にした近隣諸国は、今日の出来事がもたらす巨大な不確実性と潜在的影響に動揺しているはずだ。

「問題を輸出する」能力が中東にどれだけあるかを思えば、再燃し激化した戦争は、すでに不安定で暴力的で危険なこの地域と、そして世界全体の不安定を、さらに深めることになる。