米ネットフリックス、ワーナーの映画・配信事業買収を断念 パラマウントが全事業取得へ

給水塔にワーナー・ブラザースのロゴが大きく描かれている

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ダニエル・ケイ・ビジネス記者、ナディーン・サアド記者

米配信大手ネットフリックスは26日、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)の映画事業と配信事業の買収案を撤回すると発表した。ハリウッド有数の歴史を持つスタジオをめぐる数カ月にわたる争いで、米パラマウント・スカイダンスが勝利に近づいた。

パラマウントは数日前、1株当たりの提示額を1ドル引き上げることで合意した。これについてワーナー・ブラザースは26日、パラマウントによる最新の入札が、ネットフリックスの提示条件より「優れている」と発表。一方、ネットフリックスは、提示額の引き上げはしないとした。

ネットフリックスの最高経営責任者(CEO)を共同で務めるテッド・サランドス氏とグレッグ・ピーターズ氏は声明で、「我々が交渉した取引は、規制当局の承認に至る明確な道筋を持ち、株主価値を生み出すものだった」、「しかし、我々はこれまで常に規律を重んじてきた」と述べた。

また、「この取引は常に、適正な価格なら『あると良い』ものであり、いかなる価格でも『必須』というものではなかった」とした。

この発表は、サランドス氏がホワイトハウスを訪問した数時間後に行われた。

規制当局が承認すれば、ハリウッドの構図を再び大きく変える可能性のある、数カ月にわたった劇的な展開に終止符を打つ。また、アメリカの主要なニュースブランドの一つであるCNNの今後に、重大な影響を及ぼす可能性もある。

しかし、ハリウッドのある米カリフォルニア州のロブ・ボンタ司法長官は、この合併計画は「成立した取引ではない」と念を押した。

ボンタ長官は、「このハリウッド大手2社は、規制当局の精査を通過していない。カリフォルニアの司法当局は調査を進めており、我々は厳格に審査するつもりだ」と、ソーシャルメディアに投稿した。

同長官は先に、カリフォルニアの経済にとってエンターテインメントは「重要な産業」だとし、ワーナー・ブラザースが関わるいかなる取引についても、州司法当局が審査すると述べていた。

パラマウントは、米司法省に加え、ヨーロッパの規制当局からも承認を得る必要がある。

ワーナー・ブラザースは、「カサブランカ」「風と共に去りぬ」「エクソシスト」などの名作を生みだした老舗ハリウッド・スタジオ。現在も、「ルーニー・トゥーン」「ハリー・ポッター」「フレンズ」といった人気シリーズのほか、配信事業「HBOストリーミング・ネットワーク(旧HBO MAX)」では、「セックス・アンド・ザ・シティ」「ゲーム・オブ・スローンズ」などのヒット作を持つ。

同社は昨年12月、映画事業と配信事業を720億ドル(約11兆円)で買収するネットフリックスの提案に合意した。

これは、両事業を負債を含めて830億ドル(約13兆円)と評価したもので、WBDは、CNNを含む他事業を独立会社として分離した後、売却手続きを進める見通しだった。

ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の一場面。サラ・ジェシカ・パーカー氏演じるキャリー・ブラッドショーが、一人掛けソファに座り、オレンジ色の飲み物の入ったガラスのグラスを掲げている。セットはホテルの一室のような内装

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画像説明, ワーナー・ブラザース・ディスカバリーは、「セックス・アンド・ザ・シティ」などの人気シリーズで知られる

パラマウントも、ハリウッドの大企業への転換を目指して対抗提案を行ったものの、当初はワーナー・ブラザースに拒否されていた。

パラマウントは、テクノロジー業界の富豪で米与党・共和党の献金者でもあるラリー・エリソン氏の支援を受けており、その息子デイヴィッド氏が率いている。そのため、パラマウントの提案は資金についても厳しい目が向けられてきた。

さらに、パラマウントの初期の敵対的買収案には、トランプ氏の娘婿のジャレッド・クシュナー氏が、自身の投資会社を通じて関与していたため、トランプ氏が取引に影響を及ぼすのではないかという懸念の声もあった。

クシュナー氏が所有するアフィニティー・パートナーズは、この取引への注目と監視が強まる中、昨年12月に撤退している。

CNNの今後に懸念の声も

WBD傘下のCNNについては、ネットフリックスは買収事業に含めていなかった。だがパラマウントは、CNNを含むワーナー・ブラザース全体の取得を目指している。

トランプ大統領はかねて、自身の政策報道をめぐり頻繁にCNNを批判してきた。昨年12月には、ワーナー・ブラザースに関するいかなる取引においてもCNNは売却されるべきだと発言。CNNの経営陣を「腐敗しているか無能だ」と非難し、ネットワークの運営を任せるべきではないと述べていた。

米メディアによると、CNNのマーク・トンプソン会長兼CEOは、事実上成立が確実となった取引のニュースが広がる中、従業員にメールを送り、「我々がさらなる情報を得るまで、将来について早計に結論を下さないように」と呼びかけたという。

BBCはCNNにコメントを求めいる。

昨年、エリソン氏が所有するスカイダンス・メディアとパラマウント・グローバルの合併の際にも、計画を審査するトランプ政権下の連邦通信委員会との協議が必要となった。

この合意には、パラマウント傘下のCBSニュースをめぐる、約1600万ドルの和解金支払いが含まれていた。これは、カマラ・ハリス前副大統領を取材した「60ミニッツ」の編集方法に選挙への干渉があったとして、トランプ氏がCBSを訴えていた件に関するものだった。

その後、両スタジオの合併を受け、CBSニュースでは経営陣の交代や人員整理が行われた。

ハリウッドが大きく変わる可能性

パラマウントのデイヴィッド・エリソンCEOは26日、ワーナー・ブラザースの取締役会がパラマウントの提案を支持した決定を歓迎。この提案はワーナー・ブラザースの株主に「優れた価値、確実性、そして迅速な取引完了」を提供すると、声明で述べた。

パラマウントは今回、提示額を1株当たり30ドルから31ドルに引き上げることで合意。また、この取引が破談となった場合に70億ドルを支払うことや、ワーナー・ブラザースがネットフリックスに対する取引破棄の違約金28億ドルを肩代わりすることも了承した。

合併計画が規制当局に承認されれば、パラマウントはワーナー・ブラザースの配信事業のユーザーをポートフォリオに組み入れることになる。また、CNNやフード・ネットワーク、各種スポーツ番組の所有権も取得することになる。

パラマウントの従来のネットワークには、CBSニュースのほか、児童向け作品の制作スタジオ「ニコロデオン」やコメディ・セントラルなどがある。

黒いTシャツにジャケットを着たエリソン氏が、カンファレンスで発言している。Tシャツの襟もとにマイクを装着している。背後には紫色のパネルがある。

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画像説明, パラマウント・スカイダンスのデイヴィッド・エリソンCEO

多くのハリウッド関係者は、ネットフリックスとパラマウントの間で繰り広げられた入札競争を、良い結末の見込めない闘いだと見なしてきた。

ネットフリックスとの合併は、歴史ある映画スタジオがシリコンバレーの巨大ストリーミング企業に吸収され、映画文化の衰退につながるのではないかとの懸念を生み出していた。一方、ハリウッドで最後に残る映画スタジオの一つと自負するパラマウントとの合併も、同社がトランプ政権と政治的に近いと受け止められている点が不安を招いていた。これは、CNNの将来をめぐるメディア環境にも波紋を広げている。

しかし全体として、ワーナー・ブラザースの売却は、制作費削減が続き、人員整理がほぼ確実視される中、ハリウッド全体に大きな影響を及ぼす見通しだ。

追加取材:オズモンド・チア・ビジネス記者