メキシコ最重要指名手配の麻薬王「エル・メンチョ」、軍の作戦で死亡 麻薬組織が各地で報復行為

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メキシコ国防省は22日、同国で最重要指名手配されていた、麻薬カルテル「ハリスコ新世代カルテル」(CJNG)のリーダー、「エル・メンチョ」ことネメシオ・オセゲラ・セルバンテス容疑者(59)が、逮捕を目的とした治安作戦で死亡したと発表した。CJNGは報復として、車両に火を放ち、治安部隊を襲撃するなどしている。暴力行為は少なくとも20州にまで拡大し、メキシコ政府が兵士数千人を追加派遣する事態となっている。
麻薬王「エル・メンチョ」として知られる容疑者は22日、支持者とメキシコ軍の衝突の最中に重傷を負い、首都メキシコ市へ搬送中に死亡したという。
メキシコのリカルド・トレビージャトレビージャ国防相によると、「エル・メンチョ」の恋人を部隊が追跡し、「エル・メンチョ」を拘束した。「エル・メンチョ」は、自分の護衛と軍特殊部隊の銃撃戦で重傷を負った。軍がタパルパからメキシコ市へ移送する最中に死亡したという。
メキシコ国防省は、この作戦で「エル・メンチョ」の護衛少なくとも6人が死亡し、軍人3人が負傷したと発表した。
オマル・ガルシア・ハルフチ治安担当相は、「エル・メンチョ」の死後の騒乱で刑務官1人、州検察庁職員1人、「エル・メンチョ」の犯罪組織メンバー30人が死亡したと述べたと、AFP通信は伝えている。
メキシコ国防省によると、メキシコ軍が作戦を実行し、国家警備隊と空軍が支援したという。
同省は、アメリカから提供された「補足情報」が「エル・メンチョ」拘束に役立ったとしている。ただ、メキシコ政府は23日、作戦にはアメリカ軍は関与していないと明らかにした。
CJNGは「エル・メンチョ」が殺害された報復として、複数の州で車両に火を放ち、道路を封鎖し、治安部隊を攻撃するなどした。
米国務省は、ハリスコ、タマウリパスの2州のほか、ミチョアカン、ゲレロ、ヌエボレオン各州の一部地域に滞在する米市民に対し、屋内退避勧告を発出した。
メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、「冷静さ」を保つよう国民に呼びかけた。
同大統領は、「国内のほとんどの地域では、社会活動は通常通り続いている」とソーシャルメディアに投稿した。
CJNGは、治安部隊や公職者に対する襲撃で悪名高い犯罪組織。
過去には、ロケット推進式手榴弾で軍用ヘリを撃墜したり、数十人の州政府職員を殺害している。また、複数の犠牲者の遺体を橋から吊るし、敵対勢力を威嚇する事例も確認されている。
アメリカが巨額の懸賞金、メキシコに情報提供も
「エル・メンチョ」は元警官で、コカイン、メタンフェタミン、フェンタニルを大量にアメリカへ密輸する、巨大な犯罪組織を率いていた。
米国務省は、「エル・メンチョ」の逮捕につながる情報に1500万ドル(約23億2000万円)の懸賞金をかけていた。
メキシコ国防省は声明で、今回の作戦は特殊部隊が「計画・実行」したものだと説明。メキシコ空軍機や国家警備隊も投入されたという。
作戦では、ロケットランチャーを含む複数の装甲車両や武器を押収したという。
同省の声明によると、アメリカはメキシコ側に、今回の作戦を支援する情報を提供していた。

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目撃者が撮影した動画には、サッカー男子の2026年ワールドカップ(W杯)開催都市の一つになるグアダラハラを含む複数都市で、煙が立ち上る様子が映っている。
観光地ハリスコ州プエルト・バヤルタでは、こうした騒乱のため、数千人規模の観光客が立ち往生している可能性がある。
BBCヴェリファイ(検証チーム)は、ソーシャルメディアに投稿された動画を確認した。その中には、ハリスコ州プエルト・バヤルタのホテルの上を軍用ヘリコプターが低空飛行し、その様子をプールの利用客が見つめる様子が映っている。複数の建物から煙が上っているのも確認できる。

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ハリスコ州やほかの地域では22日、銃を所持した複数の人物が路上にいるとの報告が相次いだ。
ハリスコ州のパブロ・レムス・ナバロ知事は、最高レベルの警戒態勢を取り、自宅に留まるよう住民に勧告した。同知事はまた、州内の公共交通機関の運休を発表した。
アメリカのユナイテッド航空とアメリカン航空、カナダの航空会社エア・カナダは、メキシコのプエルト・バヤルタおよびグアダラハラ行きの便を欠航。飛行機経路を示すウェブサイト「フライト・アウェア」によると、米デルタ航空のジョージア州アトランタ発グアダラハラ行きの便は、テキサス州オースティンへ迂回(うかい)した。

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麻薬王の死は「大きな進展」
かつてアメリカの駐メキシコ大使だったクリストファー・ランダウ米国務副長官は、「エル・メンチョ」は「最も血なまぐさい、最も冷酷な麻薬界の大物の一人」だと、ソーシャルメディアに投稿した。
ランダウ氏は、「エル・メンチョ」の死は「メキシコ、アメリカ、ラテンアメリカ、そして世界にとって大きな進展」だと付け加えた。
米麻薬取締局(DEA)のマイク・ヴィジル元国際作戦部長は、今回の作戦について、「麻薬取引の歴史上最も重要な行動の一つ」だと、BBCがアメリカで提携するCBSに語った。
「エル・メンチョ」殺害は、メキシコのシェインバウム大統領にとって、麻薬カルテルとの戦いにおける勝利を意味する。
また、メキシコ領内のカルテルを標的にすると脅してきたアメリカのドナルド・トランプ大統領との関係強化にも、つながる可能性がある。
トランプ氏はこのところ、カリブ海などで「麻薬密輸船」だとする船舶を相次いで攻撃している。1月には、米FOXニュースに対し、「今度は陸地を攻撃する」、「カルテルがメキシコを支配している」などと述べた。
シェインバウム氏はその後、米軍がメキシコとの国境を越えて展開することは「議題にはない」と否定した。
しかし、メキシコの治安部隊が迅速に事態を収束できなければ、カルテルの暴力的な報復によって、メキシコ政府の勝利がかすむ可能性がある。
兵士を追加派遣、国家警備隊に死者も
メキシコのトレビージャ国防相は23日、「エル・メンチョ」の死をきっかけに拡大した暴力行為に対処するため、同国西部に兵士2500人を追加派遣したと発表した。22日以降に配備された兵士の数は約9500人に上る。
メキシコの治安担当相によると、暴力行為が発生して以降、ハリスコ州では少なくとも25人の国家警備隊員が死亡している。

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シェインバウム大統領は、「エル・メンチョ」の死につながった軍の作戦を称賛し、「国全体の平和と安全の確保が優先だ」と述べた。
「平静が確保され、政府が存在し、軍隊が配備され、多くの連携が取られている」とシェインバウム氏は述べた。
「エル・メンチョ」死亡の知らせが広まるにつれ、CJNGのメンバーは勢力圏にある複数の市や町で攻撃を開始した。
いくつかの町では、路上に釘などをまき、通行を妨害した。ほかの地域では、バスなどの車両を略奪し、路上の真ん中で火を放った。
シェインバウム大統領は、道路の封鎖は23日朝までに解消されたと述べた。
しかし、カルテル・メンバーによる放火で、数十の銀行や地元企業が被害を受けた。
地元当局が住民に自宅待機を指示したため、22日は多くの町が閑散としていた。
BBCヴェリファイは、ハリスコ州の州都グアダラハラの北に位置する町サン・イシドロで、カルテル・メンバーと国家警備隊が衝突した際のものだとする複数の動画が、本物だと確認した。
動画の一つには、武装した人物が複数の車両に向けて発砲する様子が映っている。別の動画では、車両のそばに少なくとも4人の遺体があるのが確認できる。
近隣のレストランの防犯カメラは、22日午前11時ごろ、1台の車両が国家警察隊のトラックに衝突し、カルテル・メンバーがトラックに銃撃する様子を捉えた。
国家警備隊はこの事案について詳細を公表していない。











