「ウクライナのNATO加盟はない」とトランプ氏 ゼレンスキー氏との会談を前に

米大統領執務室でいすに座って近距離で言い争う両首脳。ゼレンスキー氏は黒系の服、トランプ氏は濃紺のスーツ、白いシャツ、赤いネクタイを着けている

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画像説明, ゼレンスキー氏(左)とトランプ氏の前回の会談は、激しい言い争いになった(2月28日、米ホワイトハウス)

ジュード・シーリン、BBCニュース、米ワシントン

アメリカのドナルド・トランプ大統領は17日夜、翌日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を米ワシントンに迎えて首脳会談を行うのを前に、ゼレンスキー氏が「望むなら」同氏がロシアとの戦争を終わらせることができると、自分のソーシャルメディアのトゥルース・ソーシャルに投稿した。また、和平合意の一環として「ウクライナが NATO(北大西洋条約機構)に加盟することはない」とした。

トランプ氏はさらに、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始する8年前の2014年に違法に併合したクリミア半島について、ウクライナが「取り戻すことはできない」と書いた。

トランプ氏は15日に米アラスカで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した。その結果、トランプ氏は和平交渉の前提としていた一時停戦の要求を取り下げ、代わりに恒久的な和平合意を求めている。

今回の投稿でトランプ氏は、「ウクライナのゼレンスキー大統領は、もし望むなら、ロシアとの戦争をほぼ直ちに終わらせることができる。または、戦い続けることもできる」と書いた。

そして、「これがどう始まったか思い出せ。オバマ(元米大統領)が放棄したクリミア(12年前、1発の銃弾も発射せず!)は取り戻せないし、ウクライナがNATOに加盟することはない。決して変わらないこともある!!!」と書き込んだ(訳注:太字は原文ではすべて大文字)。

一方、ゼレンスキー氏は17日遅くにアメリカに到着した。

ゼレンスキー氏はソーシャルメディアへの投稿で、「すでにワシントンに到着した」と報告。「明日はトランプ大統領と会う。明日には、欧州首脳たちとも話をする」と説明し、トランプ氏の招待に「感謝している」と書いた。「私たちは皆、この戦争を迅速かつ信用できる形で終結させたいと、強い願いを共有している。そして平和は、恒久的なものでなくてはならない」とした。

ロシアが2014年に併合したクリミアをその後の侵攻の足場にしたような事態を繰り返してはならないし、効果的な安全保障の保証が必要だと、ゼレンスキー氏は強調。「ウクライナに『安全保障の保証』が与えられたものの、実際には機能しなかった1994年のようになってはならない」と書いた。

そして、「もちろん、クリミアは当時放棄されるべきではなかった」、「2022年以降、ウクライナ人がキーウ、オデーサ、ハルキウを放棄してこなかったのと同じように」と付け加えた。

トランプ氏とゼレンスキー氏の会談は、今年2月にホワイトハウスで両氏が激しい言葉の応酬をして以来。ゼレンスキー氏は今回、支援を受けている欧州指導者らと共に訪問する。

ゼレンスキー氏の訪米に合わせ、北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長やイギリスのキア・スターマー首相らもワシントンに向かい、ロシアとの戦争を終わらせるための協議を行う。

フランスのエマニュエル・マクロン仏大統領、イタリアのジョルジャ・メローニ首相、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長もワシントンに向かう。このうち、何人がホワイトハウスに行くのかは不明。

トランプ氏は今回の投稿の前に、トゥルース・ソーシャルに、「ロシアで大きな進展。乞うご期待!」と投稿していた。ただ、詳しい説明はしなかった。

これほど多くの国家指導者らが、実質的に戦時中の危機について集まって会談するため、きわめて短時間の予告しかない状態で一斉に大西洋を渡るのは、現代では前例がないとみられる。これは、それだけ大きな影響をもたらす会談だということを示している。

外交筋によると、欧州側は、トランプ氏が15日のプーチン氏との会談を受けて、ゼレンスキーに条件面で合意するよう圧力をかけるのではないかと懸念しているという。米ロ首脳会談には、ゼレンスキー氏の参加が認められなかった。

一方、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は、ゼレンスキー氏がトランプ氏に無理やり和平合意を受け入れさせるとの見方は「愚かなメディアの語り口だ」と述べた。

動画説明, トランプ氏とヴァンス氏「感謝」要求、ゼレンスキー氏と激しい口論 マスコミの前で(今年2月28日)

NATO指導者らは、ゼレンスキー氏の米大統領執務室への訪問が、トランプ氏やJ・D・ヴァンス米副大統領らとの口論で突然終わった、今年2月末の会談の二の舞になるのを避けたい考えだとみられる。

当時の会談では、トランプ氏がゼレンスキー氏を「第3次世界大戦につながる事態でギャンブルしている」と非難。アメリカとウクライナの関係が悪化した。

以来、欧州指導者らは、舞台裏で関係修復に熱心に取り組んできた。ゼレンスキー氏には、トランプ氏の心に響く「取引」という観点での対話を指導した。

ウクライナは4月、アメリカに財政的な利益をもたらす鉱物資源協定に調印。同月のキリスト教カトリック教会の教皇フランシスコの葬儀では、始まる前にトランプ氏とゼレンスキー氏がヴァチカンで二人だけで話をした。ウクライナは、アメリカの兵器に金を支払う意思があることを明らかにした。

両首脳は7月までに電話で協議をし、ゼレンスキー氏は「これまでで最高の会話だった」と述べた。

一方、トランプ氏は、ロシアの容赦ない猛攻にいら立ちを見せ始めた。プーチン氏を「全く狂ってしまった」と言い停戦合意の期限を大幅に短縮して、ロシアに経済制裁の脅しをかけた。

こうしたなか、ロシア軍は戦場で前進を続けている。2022年2月にロシアが全面侵攻を開始してから、ロシア軍はこれまでにウクライナの領土のほぼ5分の1を占領している。

ゼレンスキー氏がウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長と並んで座っている。背後にはウクライナと欧州連合の旗がある

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画像説明, ゼレンスキー氏(左)は17日、NATOや欧州の指導者らとのオンライン会合に臨んだ

ゼレンスキー氏は17日、「有志連合」(ウクライナの和平が達成されれば、それを守ると約束したイギリス、フランス、ドイツなどの国家グループ)の指導者らとオンライン会合に臨んだ。

終了後、マクロン仏大統領は記者団に、18日のトランプ氏との会談に向け、有志連合として「統一戦線を提示する」考えだと述べた。

一方、アメリカのスティーヴ・ウィトコフ特使は17日、米CNNで、プーチン氏が15日に「ゲームチェンジャーと言えるような強固な安全保障」に合意したと話した。これについて、ゼレンスキー氏とNATO指導者らは、もっと情報を得たいとしている。

ウィトコフ氏は、このような合意によって、ヨーロッパとアメリカはNATOのような防衛協定でウクライナをさらなる侵略から守ることができると発言。

「私たちは、アメリカが(NATO条約)第5条に準ずる保護を提供できるという譲歩を獲得できた。これは、ウクライナがNATO加盟を望んでいる本当の理由の一つだ」と述べた。

プーチン氏は長らく、ウクライナのNATO加盟に反対している。ウィトコフ氏は、ウクライナ側が「それを受け入れられる」のであれば、この合意がNATO加盟の代替案になりうると述べた。

NATO条約の第5条は、加盟32カ国からなる大西洋をまたぐ軍事同盟の中核をなす原則だ。加盟国が、攻撃を受けている同盟国の防衛にあたることを定めている。

ウィトコフ氏はまた、ロシアが激しい戦闘が続いているウクライナの5地域に関して「いくらかの譲歩」をしたとCNNで話した。

欧州当局者らによると、アラスカでの米ロ首脳会談後、トランプ氏は欧州同盟国の指導者らとの電話で、プーチン氏がウクライナ東部ドンバス地方の重要地域となっているドネツク州とルハンスク州を自国領にしたいとの思いを繰り返したと伝えたという。

一方、ゼレンスキー氏は17日のNATO加盟国首脳らとのオンライン会合で、ウクライナの憲法で領土の放棄は不可能であり、ウクライナ、ロシア、アメリカの3カ国による首脳会談で話し合うべきだと強調した。

こうしたなか、ルビオ米国務長官は同日、ヨーロッパで過去80年で最も多い死者を出している紛争の終結の合意が間近だとの期待を抑えようとし、「まだまだ先の話だ」と述べた。

2025年8月12日時点のウクライナ領土の状況を示す地図。ロシアと国境を接する東部ルハンスク州のほぼ全域とドネツク州の大部分、南部のザポリッジャ州とへルソン州の大部分(沿岸部から内陸にかけて)、2014年にロシアが一方的に併合した南部クリミア半島などがロシアの占領下にある。ルハンスク州境からハルキウ州にかけての地域や、ドネツク州とザポリッジャ州の内陸部の地域などが、ロシアに一部占領されている。ロシアは、一部占領するルハンスク、ハルキウ、ドネツク、ザポリッジャ各州の内陸部の一部地域などについても、占領したと主張している