【解説】 プーチン氏、いま何を計画しているのか 東部ルハンスク州が陥落

ジョー・インウッド、BBCニュースウクライナ・キーウ

Image shows destroyed building

画像提供, Reuters

画像説明, 砲撃を受けたウクライナ東部リシチャンスク(6月)

再びロシアが前進し、再びウクライナが後退している。

ウクライナ東部ルハンスク州の都市リシチャンスクで予想されていた激しい長期戦は、同州のセルヒィ・ハイダイ知事によれば、戦略的な撤退によって回避された。

ハイダイ知事は、「ロシアは現在、大砲と弾薬で圧倒的に優位だ。離れた場所から破壊してくるので、とどまる意味はなかった」と私に言った。

この説明は、抵抗を受けずにリシチャンスクに入り、占拠したとする、ロシア側の説明と一致すると思われる。3日にソーシャルメディアに投稿された映像には、市中心部で踊るチェチェン人戦闘員らの姿が映っている。

祝いたくなるのはもっともだろう。リシチャンスクの占拠により、ロシアは実質的にルハンスク州全体を掌握したことになる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、これをウクライナ侵攻の重要な戦略目標としてきた。

これは、ドンバス地方における戦いと、さらに広範囲での戦争で、何を意味するのか。

ウクライナが最優先したのは

まず、ウクライナ側の視点で考えてみよう。ウクライナにとって重要だったのは、南部の港湾都市マリウポリで見られたような包囲網の回避だった。同市を防衛したことで、ロシアの進軍を何週間も遅らせた。だがその結果、ウクライナ兵の精鋭数千人が、殺されたり捕虜になったりした。

ウクライナは何としても、同じ事態を避けたかった。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩恒例の演説で、「私たちは壁を再建し、土地を取り戻す。しかし、何よりも人々を救わなければならない」と、国民に明確に述べた。

ハイダイ知事も、まったく同じことを私に言った。「私たちの部隊は、より強固な陣地に退いた。(中略)私たちはルハンスクの防衛を5カ月間維持した。その間に、ドネツク州に新たな要塞を建設した。部隊は今、そこに移った」。

Image shows Russian flag waving from balcony

画像提供, Russian Defence Ministry

画像説明, ロシア国防省は、リシチャンスクでバルコニーにロシア国旗が掲げられた映像を公表した

リシチャンスク陥落の数時間、ウクライナのオレクシー・アレストヴィッチ大統領顧問は、リシチャンスクとセヴェロドネツクの防衛を「見事な軍事作戦」とまで表現した。

両市にロシア国旗が掲げられていることを考えると、そうした論理は少しおかしいと思われるかもしれない。ただ、彼が言いたいのは、ウクライナは長いゲームをし、貴重な時間を稼いだということだ。

この論理を理解するには、ウクライナの抗戦における西側兵器の重要性を理解する必要がある。簡単に言えば、北大西洋条約機構(NATO)の補給がなければ、ウクライナは今以上に困難な状況に陥ってしまう。

ロシアの進軍を遅らせるほど、ウクライナはより高度なロケット砲や大砲のシステムを戦闘に導入できる。アメリカが提供するロケット砲システムHIMARSはすでに稼働しており、この紛争のバランスを大きく変えると言われている。時間を稼ぐほど供給を増やすことができ、ウクライナに有利になる。ロシアが制裁によってハードウェアの交換や弾薬の補給に苦労している状況では、なおさらそうだ。

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では、ロシアの視点でみてみよう。ロシアは、ドンバス地方の占拠(ロシアが言う「解放」)が目標だと明言している。ルハンスク州の奪取は、それに一歩近づく。

プーチン大統領は4日、ルハンスク州を攻略した指揮官を、ロシア最高の栄誉である「ロシアの英雄」に加え、その重要性を強調した。

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次はどうなるのか。ドンバス地方の残りの地域、特に最近砲撃したスラヴャンスクとクラマトルスク両市の制圧を目指すのは、ほぼ確実と思われる。スラヴャンスクは、ウクライナの分離派が2014年に最初の反乱を起こした場所であり、分離独立運動にとって特に重要とされる。

それ以上のロシアの戦略は、明確ではない。ドンバス地方を占領した場合は、ロシア軍がどんな状態にあるかに、その後の戦略は大きく依拠することになる。

プーチン大統領は4日、それを暗に認め、こう言った。「ルハンスク方面で積極的な戦闘行為に参加し、成功と勝利を収めた部隊は、きちんと休息し、戦闘能力を高めるべきだ」。

もしロシア軍がまだ急速な前進を続けているなら、ウクライナの南部全域の掌握に向けて攻撃を続けるかもしれない。主要都市ドニプロや、その先の都市の占拠を目指す可能性がある。

戦闘終了や前線固定化の可能性

しかし、多くのアナリストが予測し、プーチン氏もほのめかしているとおり、ロシア軍が疲れ果てれば、ロシアの言う「特別軍事作戦」の終了を宣言する可能性はある。

一方的に停戦することで、フランスやドイツなどが和平を求め、ウクライナに対する国際的な支持への勢いが弱まることを、ロシアは期待するかもしれない。

一方、ウクライナは間違いなく、戦いを続けるだろう。だが、安定した兵器の提供がなければ、2014~2022年のように、前線が固定する可能性がある。そうなれば、ウクライナでは混乱と不安が続き、ロシアにとって好都合となる。

現時点では双方が優勢を主張しており、確かなことは言えない。ウクライナはドンバス地方で劣勢だが、最近、黒海のズミイヌイ島を奪還するなど戦果を挙げている。同島ではいま、青と黄色の旗が再び掲げられている。

唯一確かなのは、この戦争はすぐには終わらないということだ。その影響は、次にドネツク州の人々が被ることになる。