ロシア軍、黒海のズミイヌイ島から撤退 「善意の印」

Satellite view shows smoke rising over Snake Island, Ukraine amid Russia"s attack on the country, May 8, 2022

画像提供, PLANET LABS PBC

画像説明, 黒海にあるズミイヌイ島の衛星画像。煙が上がっている(5月8日)

ロシア軍は6月30日、黒海の北西部にあるズミイヌイ(英語名スネーク)島から駐留部隊を撤退させた。同島は、ロシアがウクライナ侵攻の初日に占拠して以来、同国軍の戦略上、大きな役割を果たしてきた。

海面から岩が突き出たこの小島は、ロシアが2月24日に占拠。以来4カ月以上にわたり、ウクライナが砲撃を繰り返してきた。

ロシアは駐留部隊の撤退について、「善意の印」であり、同国が穀物輸出を妨げていないことを証明するものだとしている。

しかしウクライナは、ロシアが穀物倉庫への砲撃を続けているとし、同国の主張は当たらないとしている。

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BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長は、ズミイヌイ島の戦略的重要性と、ロシア軍がこれまでに「善意の印」を示したことがなかったことを考え合わせれば、ロシアの説明はロシア国外ではほとんど説得力をもたないと解説。

ロシア政府の主張はむしろ国内向けであり、同国政府は国民に、ロシア軍は「いいやつ」であって、「特別軍事作戦」は計画どおり順調に進んでいると信じ込ませたいのだろうと、編集長は分析している。

防衛の難しさ

ズミイヌイ島は、空と海のあらゆる方向からの攻撃にさらされやすい地理にある。小規模の守備隊(最初はウクライナ人、その後ロシア人)は、軍事専門家らから「いいカモ」と評されてきた。

ウクライナの海岸から35キロしか離れておらず、海岸からのミサイル、大砲、ドローン攻撃の射程内に十分収まっている。

ウクライナ軍は実際に、ミサイルなどによる攻撃を実行してきた。同島や、同島に部隊や重火器を運ぶ船に、壊滅的な攻撃を繰り返したとしている。

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4月には、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が沈没。同国の黒海北西部における対空戦闘能力が著しく低下した。

それを受けてロシアは、ズミイヌイ島に対空システムを配備し、無線電子戦を展開しようと躍起になった。しかし、同島は黒海におけるロシア軍の主要基地から遠く離れており、防衛に努めるロシアにとって、補給面で悪夢のような状況となった。

一方のウクライナも、攻撃を繰り返してきたが、海軍力がかなり限られていることから、同島に部隊が上陸できていない。

ウクライナの軍事アナリスト、オレフ・ジダノフ氏は、ズミイヌイ島への部隊駐留について、簡単に標的になることから、双方にとって意味がないと主張。同島に近づく標的に対する攻撃能力を維持する「火器管制」の構築を提唱している。

それにより、黒海におけるウクライナ最大の港のオデーサ港や、黒海の北西部全体の安全も確保できるとする。

重要な岩

ロシアはすでに、ウクライナの黒海沿岸の大部分と、クリミア半島、アゾフ海一帯を掌握している。ズミイヌイ島を押さえたことで、オデーサの実質的な封鎖を完了させ、ウクライナの穀物の大部分を輸出できなくしていた。

ウクライナの黒海沿岸部は、攻撃を受けやすい状態にあった。同国の軍事専門家らは、ロシアがS-400対空ミサイルなどの長距離防空システムを同島に配備することを懸念していた。

地図を見れば、ズミイヌイ島をロシアが支配することは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のルーマニアにとっても脅威であることがわかる。同国コンスタンツァの主要港と、ドナウ川河口付近の会場交通が脅かされる。

この地域は、戦略上の要衝だというだけにとどまらない。石油やガスが豊富に埋蔵されている場所でもある。

Black sea

戦況を一変させられるか

ズミイヌイ島からのロシア軍撤退は、ウクライナにとっては単なる象徴的な勝利ではなく、戦略的な成功だ。ロシアにとっては後退であり、恥ずべき敗北になる。

ただ、戦争の行方を大きく変えることはない。ロシアは現在、ウクライナ東部ドンバス地方全域の制圧と、開戦直後に掌握した南部の他の地域の保持に集中している。

Smoke billowing from Snake Island

画像提供, Andriy Yermak

画像説明, ロシアがズミイヌイ島を放棄した6月30日、同島では煙が立ち上っていた

ズミイヌイ島は黒海の要衝にあり、高度なミサイルシステムを設置するには絶好の場所かもしれない。だが、つまるところ、非常に小さな岩でしかない。

重要なのは、ロシアを追い出したウクライナが、戦争で荒れた経済を立て直そうと、穀物輸出の再開を検討できるかだ。力のある海軍がない状況では、その可能性はまだかなり低い。黒海は相変わらず、ロシアの軍艦が支配し続けている。

英ユニヴァーシティー・コレッジ・ロンドンのアンドリュー・ウィルソン教授(ウクライナ研究)は、「穀物の安全な輸出には、現実には10のことが実現しないとならない。今回の展開は、その1つでしかない」と話す。

ウクライナは、オデーサからの穀物輸送船を護衛するというロシアの申し出を拒んでいる。港の外に設置した機雷を除去する必要があるというのが理由だ。

トルコは、ロシアとウクライナの合意交渉の実現に向け積極的に関わっているが、現段階ではその見通しは立っていないようだ。

今後数週間は、ウクライナの輸出にとって極めて重要とされる。次の収穫が7月に始まるからだ。

動画説明, ウクライナの倉庫に出荷できない小麦の山、農家の目に涙 食料危機の懸念