英与党・保守党の中でトラス首相に不満 財務相解任と経済政策の一部撤回で混乱

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イギリスのリズ・トラス首相が、長く公約してきた減税策の一部を撤回し、その減税策を発表した財務相を解任するという混乱の中、与党・保守党の議員の間で首相への不満が高まっている。
政権発足から間もなく、政権の主要政策のうち2項目でUターンし、財務相の交代に至った混乱の中、保守党の閣僚経験者はBBCに対して、「こんな形でいつまでもやっていくわけにはいかない」と述べた。
別の保守党下院議員は、財務相交代についてトラス氏が首相官邸で開いた8分の記者会見について、保守党は「絶望している状態」だと話した。
トラス首相は14日、盟友のクワジ・クワーテング財務相を解任。後任には、ジェレミー・ハント元外相を据えた。首相はさらに、法人税引き上げの中止を、撤回すると発表した。ジョンソン政権が決めた法人税引き上げを、自分は取りやめると、トラス氏は保守党党首選から公約していた。
トラス政権はすでに、大型減税策の目玉だった所得税率45%撤廃案も、撤回している。政府が9月23日に発表した大型減税策に市場が動揺し、中央銀行が介入、国際通貨基金(IMF)が異例の批判を公にする事態になっていた。
トラス政権はボリス・ジョンソン前首相の辞任を機に、党首選を経て、9月6日に発足したばかり。クワーテング氏は在任38日で、イギリスの財務相としては史上2番目に短い。最も短かったのは、1970年に就任30日後に心臓発作で亡くなったイアン・マクラウド財務相。
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与党内の不満
トラス首相を支持する保守党のクリストファー・チョープ下院議員は、首相が自分の立場を十分に固めたかは「時間が教えてくれる」だろうが、首相の退陣をもくろむ勢力は「ハイエナ」だと話した。
「またしても首相を退陣に追い込むなど、まったくありえない。ともかくみんな一度落ち着いて、首相を支えなくてはならない」と、チョープ議員は述べた。
その一方、トラス氏が法人税引き上げ廃止を撤回したことについては、「成長の見通しを損なう」ことになり、党首選で言い続けたことと「まったく矛盾している」と、チョープ議員は批判した。
保守党のアンドリュー・ブリジェン下院議員は、「今から数週間のうちに、トラス氏に退陣を迫ると思う」と話す。党首選ではリシ・スーナク元財務相を支持したブリジェン議員は、「与党内の不満は、とても高い。クワーテング氏は、首相が指示した政策を実施したまでのこと。その人を解任するなど、トラス氏への忠誠心がこれで高まるとは思えない」との見方を示した。
後任を自ら指名?
解任されたクワーテング氏はワシントンで開かれていた国際通貨基金(IMF)の年次総会出席のため訪米していたが、予定を切り上げて14日朝に急きょ帰国し、首相官邸を訪問した。財務相退任の一報が伝わってから間もなく、クワーテング氏はトラス首相にあてた手紙を公表。その中で、「財務相として退くようあなたに頼まれたので、私はそれを受け入れました」と書き、解任されたことを明らかにした。
官邸はそれから間もなく、後任はハント元外相だと発表。元保健相でもあるハント氏は今年夏の保守党党首選に出馬したが、党員投票で十分な支持が得られず、早々に退いた。その後は、スーナク前財務相(当時)を支持していた。さらに、その直後に首相は官邸で記者会見し、法人税引き上げの廃止を撤回すると発表した。
こうした目まぐるしい24時間の間、自分は落胆と絶望に襲われていたのだと、複数の保守党議員が話している。
党首選で公約した減税策を次々と撤回したことで、党首選でトラス氏の「大胆」な姿勢を支持した一部の議員は、首相から離れ始めている。
トラス氏の首相としての時間はもう尽きたと考える保守党議員は、決して珍しくない。
党首選でトラス氏を支持した保守党議員の1人はBBCに対して、新しい財務相にハント氏を選んだことで、トラス氏は実質的に「自分の後任を指名」したに等しいと話す。「残念ながら、それが彼女の失脚を早めることになったと思う」。
別の保守党議員は、わずか8分で終わり、記者質問は4つしか受けなかったトラス氏の官邸での会見は「大惨事」だったと言い、「いずれ辞任するしかない。コービン(野党・労働党の前党首)よりひどい」と述べた。

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クワーテング氏を解任しながら自分は留任するのかと記者たちに繰り返し質問されたトラス氏は、イギリス経済を成長させるという自分の「使命」を果たすために、首相として続投するのだと繰り返した。
閣僚は支持
首相自身の続投意欲が強ければ、周囲が辞任に追い込むのは容易なことではない。
ジョンソン前首相の場合、その行動について与野党内での批判や辞任要求は数カ月にわたり高まり続けたものの、最終的に複数の閣僚や政府要人が一斉に抗議辞任するに至るまで、ジョンソン氏は首相の座にとどまるつもりでいた。
今のトラス内閣において、公然と首相を批判する閣僚はなく、複数の主要閣僚や閣僚経験者は、首相とハント新財務相を支持するとツイートしている。
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クワーテング氏の前にジョンソン政権最後の財務相だったザハウィ氏は、トラス氏の盟友のひとり。「イギリスを前進させるべき時だ。経済を成長させ、新型コロナウイルスの余波を振り払い、プーチンのエネルギー戦争から国民をなんとしても守る。トラス氏やハント氏をはじめチーム全員とともに、私たちはそれ以上のことを実現する」とツイートした。
トラス氏にきわめて近いテレーズ・コフィー副首相も、「この国の経済の安定を確保するために、(首相が)いま行動したのは正しかった」とツイートした。
ジェイコブ・リース=モグ・ビジネス・エネルギー相は「首相は、この国が必要とする経済の安定を提供するため、明確に行動した。政府として我々は前へ進み、将来の繁栄の基礎となる成長のための改革を実現しなくてはならない」とツイートした。

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総選挙は
こうした事態に野党の自由民主党とスコットランド国民党(SNP)は、解散総選挙を要求。最大野党・労働党のレイチェル・リーヴス影の財務相は、労働党が率いる新しい政府こそ「この国が必要としているもの」だと述べた。
しかし、トラス首相は2024年までは総選挙を行わないと言明している。
2019年12月の総選挙では保守党が圧勝し、定数650議席のうち保守党が現在325議席、労働党は197議席。そのため、野党だけで総選挙に持ち込むのはきわめて困難な情勢となっている。
保守党内では、トラス政権が発表した減税策で市場が混乱したことから、多数の保守党議員が政府に減税策の一部撤回を強く求め、その後の展開に至った。
一般党員が決定権を持ち、長期間にわたる党首選を夏にかけて行ったばかりなだけに、その繰り返しは避けるべきだという意見が多い。
夏の党首選でトラス氏と決選投票まで争ったスーナク氏や、頭角を現したペニー・モーダント氏を擁立してはどうかという意見もしばしば聞かれるものの、政権を12年間、4人の党首の下で維持してきた保守党の中には、長年の恨みつらみが多く山積している。
自分の辞任によってジョンソン政権退陣のきっかけを作ったと広く見られているスーナク氏については、多くのジョンソン支持者が、なんとしてもその党首・首相就任を阻止するつもりだと話す。
もしスーナク氏が党首になるようなら保守党は分裂すると、ジョンソン支持者の1人はBBCに話し、それを阻止するには自分が党首に名乗りを上げることも辞さないと述べた。










