英保守党党首選、閣僚経験者が次々と立候補 税金が主要争点に

Home Secretary, Sajid Javid and Foreign Secretary Jeremy Hunt

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画像説明, サジド・ジャヴィド前保健相(左)とジェレミー・ハント議員

イギリスのボリス・ジョンソン首相が7日に辞意を表明したことを受け、与党・保守党の閣僚経験者が次々と、次期党首選に立候補している。党首選の主要論点は、物価上昇の中での税率になりそうな見通し。

9日には、5日に保健相を辞任したばかりのサジド・ジャヴィド議員と、閣僚経験者のジェレミー・ハント議員が、10日にはペニー・モーダント通商政策担当相が名乗りを上げた。これで立候補者は9人になった。

ジャヴィド氏とハント氏は共に、英日曜紙サンデー・テレグラフへの寄稿で出馬を発表。ハント氏は、ジョンソン政権で閣僚になっていない「唯一の有力候補」だと自らをアピールした。

今回の党首選では税金政策が焦点となるもようで、候補者らはそれぞれに、減税に賛成か反対かを表明している。

ジャヴィド氏とハント氏は共に、法人税減税の方針を示した。ジャヴィド氏はさらに、国民保険料の引き上げを取りやめると約束した。

5日に財務相を辞任し、8日に出馬を発表したリシ・スーナク前財務相は、財務相として増税や保険料引き上げを実施したことを他の候補から批判されているが、本人は減税の前には財政状態の改善が必要だとしている。

スエラ・ブラヴァマン法務長官、スーナク氏の後任のナディム・ザハウィ財務相とグラント・シャップス運輸相も、減税を掲げてそれぞれ立候補している。

平等担当相を務めたケミ・ベイドノック議員と、トム・トゥーゲンハート下院外交委員長も出馬を表明した。

10日は、出馬が予想されていたモーダント通商政策担当相も、「執行部に変化が必要だ」として、立候補の意向を明らかにした。

日曜紙メイル・オン・サンデーによると、リズ・トラス外相も出馬する意向。スーナク氏が国民保健サービス(NHS)や社会福祉の財源として4月から実施した健康・社会福祉税(所得に対する1.25%)について、撤廃を公約するという。

一方、保守党員からの支持が最も厚いとみられているベン・ウォレス国防相は9日、党首選には立候補しないと発表した。

Bookmakers' Odds
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党首選の結果を賭けにしているブックメーカー各社の予想では、9日時点でスーナク氏が他を大きく引き離し、オッズ(確率)トップとなっている。

これにモーダント通商政策担当相、トラス外相、トゥーゲンハート下院外交委員長、ハント議員が続く。

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2人の保健相経験者

ハント氏は2012~2018年、デイヴィッド・キャメロン政権とテリーザ・メイ政権で保健相を務めた後、2018~2019年はジョンソン氏の後任として外相となった。2019年の党首選ではジョンソン氏と決選投票で争った

ハント氏は、ジョンソン政権下で入閣しなかったことで自分は、「弁護しようのないものを弁護」してこなかったと発言。他の候補者とは一線を画していると強調した。また、「他の有力候補が言い出すずっと前から、間違っている者は間違っていると自分は指摘てきた」と話した。

今回は、国内で最も経済が停滞している地域で事業税を5年間廃止する計画のほか、法人税を現行の19%から15%に引き下げる方針を掲げた。

また、ジョンソン政権が進めていた経済格差是正の「レベリング・アップ(平準化、地域活性化)」政策は、「あまりにもニュー・レイバーだ」と批判した(New Labourとは「新しい労働党」の意味。労働党のトニー・ブレア党首が1990年代に掲げた、市場経済重視の当時の新路線)。

英海軍将校の息子としてロンドンで生まれ、オックスフォード大学を経て経営コンサルタントや日本で英語教師を経験。2005年に初当選した。

Tory leadership race
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一方、ジャヴィド前保健相はスーナク氏への明らかな批判として、自分が財務相だったなら、スーナク氏がしたように国民保険料を引き上げたかどうか分からないと発言。自分はジョンソン政権下では自分の職務に「集中」しており、「誰かの仕事を肩代わりしようとはしなかった」と話した。

ジャヴィド氏はまた、法人税を1年に1ポイントずつ下げ、現在の19%から15%に引き下げたいと発表。ジョンソン政権は来年4月から法人税を19%から25%に引き上げる方針のため、ハント氏の公約と同様、すでに決まっている政策の見直しを意味する。

ジャヴィド氏はさらに、生活費危機への対応の一環として、ガソリン税の一時的な減税も掲げた。

動画説明, 「もうたくさん」、スキャンダルは「政府トップから始まる」=イギリス前保健相
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ジャヴィド氏は、「生活費や低成長が、喫緊の課題だ(中略)就任初日から経済計画を持つ人が必要だ」と述べた。

10日にはBBC番組「サンデー・モーニング」に出演し、自分の経済政策においては減税が優先されると言明。減税しなければ、経済は成長せず、公的サービスは必要な資金を得られないと、スーナク氏とは逆の見解を示した。

ジャヴィド氏は2021年6月から先週まで、ジョンソン首相のもとで保健相を務めた。今月5日、スーナク氏の辞任の数分前に自らの辞任を発表した。

2019年7月~2020年2月まではジョンソン政権の財務相だったが、財務省と首相官邸の運営改革で対立。ジョンソン氏の首相顧問だったドミニク・カミングス氏との権力争いに敗れる形で、辞任した。

ジャヴィド氏はパキスタン移民の両親のもと、北部マンチェスター近郊ロッチデイルに生まれた。1961年にパキスタンの村からイギリスへ渡り、バスの車掌になった父親は、渡英当時の所持金はわずか5ポンドだったという。ジャヴィド氏は英エクセター大学を経て、金融業界に入り、ドイツ銀行の幹部になった。

ブックメーカーの「本命」

Rishi Sunak

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画像説明, リシ・スーナク前財務相

スーナク氏はジャヴィド氏と前後してジョンソン政権を抗議辞任した。2人の主要閣僚の辞任は、数十人の政府要職者の相次ぐ辞任のきっかけとなり、結果的にジョンソン首相に引導を渡した形になった。

スーナク氏は8日、完成度の高い動画をソーシャルメディアに発表し、党首選出馬を発表。「信頼を回復し、経済を立て直し、国を再びひとつにまとめる」ことが自分の願いだとして、「愛国と公平と勤勉」の価値観のもと「この国を正しい方向に導く」と約束した。

さらに、新型コロナウイルスの「悪夢に直面した最も厳しい時代に、政府で最も厳しい省」を束ねたとして、自分の指導力を強調した。

税金と財政については、他の候補が素早い減税実施を公約するのを見越して、「今のこの時に、正直に、真剣に、決意をもって立ち向かうのか、それとも一瞬だけ気持ちが良くなるその場しのぎのおとぎ話を口にして、子供たちの未来を悪化させるのか」と問いかけた。

すでに複数の保守党重鎮がスーナク氏支持を表明し、「Ready for Rishi(リシを党首にする準備万端)」と、スローガンを広めている。

出馬表明ビデオでスーナク氏は、インド系の母親が1960年代にアフリカ東部からイギリスに移民し、やがて英南部サウサンプトンで自分の調剤薬局を持つようになったと話した。総合診療医の父親とは、その仕事を通じて知り合ったという。

「自分たちは夢見ることしかできなかった機会を、家族は私に与えてくれた」とスーナク氏は話した。

スーナク氏は有名私立のウィンチェスター校に通った。英オックスフォード大学や米スタンフォード大学を経て、金融業界に入った。ゴールドマン・サックスやヘッジファンドで財を築いたのち、2015年に初当選した。

2020年2月にジャヴィド氏の後任として財務相になり、新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンや感染対策の中、休業補償の支払いや景気浮揚策などへの取り組みが迫られた。昨年末からは所得税増税と国民保険料引き上げなど歳入確保策を進めつつ、家計費上昇への対策をとる必要に追われた。

ジョンソン氏の後任の有力候補と以前から目されていたが、ジョンソン氏への辞表では、「経済に関する来週の共同演説を準備する中で、私たちアプローチが根本的に大きく違うことが明らかになった」、「国民は当然ながら、政府の政権運営が適切に、有能に、真剣に行われるよう期待している」と書いていた。また財政については以前から、生活費の高騰から法人税などの現在を早急に実施したいジョンソン氏と、財政健全化を重視する立場から意見が異なっていた。

他方、感染対策のロックダウン中に首相官邸などの政府機関で数々のパーティーが開催されていた問題に絡み、ジョンソン首相と共にスーナク氏にも罰金が科せられたことや、インド出身の妻アクシャタ・ムルティさんが巨額の海外資産についてイギリスの所得税を納めていなかったことなどから、スーナク氏の党首、そして首相への道を危ぶむ声も出ていた。