【解説】 中国が嫌う台湾の次期総統、頼清徳氏はどう進むのか

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、アジア特派員(台湾)

台湾の次期総統、頼清徳氏

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中国政府はこれまで、頼清徳氏のことを「トラブルメーカー」や危険な「分離主義者」と呼んできた。その頼氏は今や、台湾の次期総統だ。

台湾をめぐる中国の言い分は目新しいものではない。中国は台湾の自国の一部とみており、習近平国家主席は統一を目標としている。ただし、台湾に対する脅威はこの1年の間に拡大してきた。

しかも中国は今回の選挙に向けて、台湾の与党・民主進歩党(民進党)に投票しないよう警告を重ねた。それでもなお、何百万人もの台湾の人々は13日、晴れた暖かい空の下、民進党の頼候補に票を入れた。

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ぎくしゃくする中国との関係の中で台湾を率いる人物として、台湾の人々は、内科医から政治家に転身し、現在は蔡英文政権の副総統を務める頼氏を選んだのだ。

今回の勝利を受けて、民進党政権は前例のない3期目に突入する。中国は同党が、台湾独立に近寄りすぎだと見ている。そして中国にとって台湾独立は、決して認められない一線だ。

頼氏はどのように中国に対応するのか。そして中国がそれにどう反応するのか。これが、頼政権のあり方を決定するはずだ。

蔡英文3.0なのか、新たなスタートなのか

頼氏は、新政権は8年間にわたる蔡政権を受け継ぐものになると約束している。

13日の勝利演説の中でさえ、慎重に言葉を選び、対話と協力が必要だと話した。

選挙期間中に頼氏は繰り返し、「台湾はすでに独立した主権国家なのだから、独立を宣言する必要はない。その名前は中華民国、つまり台湾だ」という、蔡氏の方程式を繰り返していた。

しかし、頼氏は長年、慎重派の蔡氏よりもさらに大胆で挑発的な政治家だとみなされてきた。

頼次期総統(左)と副総統に選ばれた蕭美琴氏(右)は、蔡英文総統(中央)の政策を踏襲するとしている

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頼氏は、民進党の会派「新潮流」の一員として頭角を現した。新潮流は、台湾独立の正式宣言を提唱している。

頼氏と、副総統に選ばれた蕭美琴氏は、中国政府から嫌われ、信用されていない。中国は、2人が大陸や香港へ渡航することを禁止している。

アメリカ人の母親と台湾人の父親を持つ蕭氏は最近まで、台湾の駐米代表を務めていた。

こうしたことから、中国がこの新総統との対話に合意する可能性は極めて低い。中国と台湾は2016年以来、正式なコミュニケーションを取っていない。中国は当時、台湾が大陸の一部だと蔡総統が認めないことに激怒し、やりとりを断った。

台湾海峡の情勢はすでに、非常に緊張している。13日の選挙結果はまた、この状態が続くことも意味する。同海峡ではほぼ毎日、中国の船舶や軍用機が侵入を繰り返している。

2022年にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が訪台した時のように、中国政府は大規模な軍事力の誇示で不満を示す可能性がある。台湾はその時、中国が台湾をほぼ封鎖するような真似をしたと非難した。

中国はまた、台湾を承認し続ける一握りの小国をさらに自陣に取り込もうとしたり、さらに多くの台湾の企業、製品、人々を制裁したりすることで、台湾への経済的・外交的な圧力を拡大する可能性もある。

中国の軍事的脅威に対抗するための頼氏の戦略は、蔡政権の政策の継続だ。

頼氏は軍事費の増額や、自前の潜水艦建造計画の継続のほか、アメリカや日本、欧州との関係深化を約束している。前任の蔡氏は特に、アメリカ政府との間に強い関係を築いた。

しかしアメリカには、独立派政治家としての経歴を持つ頼氏の政権は、蔡政権よりも挑発的なものになり得るとの懸念もあるだろう。

一方で、副大統領の蕭氏はジョー・バイデン政権にとって心強い存在だ。頼氏は決して中国を挑発などしないと、蕭氏が率先してアメリカを説得するはずだ。

台湾の選挙で「習近平黙っているべき」

頼氏がどれほど慎重に動いたとしても、頼氏の勝利そのものが発するメッセージを、中国政府は無視できない。

事前の世論調査では接戦が予想されていたが、民進党は予想よりもはるかに大差をつけて勝利した。

動画説明, 民進党の頼清徳氏が勝利、台湾総統選で見えた人々の思いは

勝利が確実となった時、若い支持者の1人はBBCにこう話した。

「台湾の人々は中国に、もう言うことは聞かないと、自分たちの未来は自分たちで決めると言っている。私たちの選挙中に黙っているべきだと、習近平は学んだほうがいい」

最大野党・国民党の侯友宜候補は、中国が台湾を攻撃するのではないかという、人々が現実に抱いている恐怖心をあおる選挙活動を展開した。

もし国民党が勝利していたら、中国は台湾への物言いや軍事的な威圧をやわらげていたかもしれない。また、侯氏との対話に合意していた可能性も非常に高い。

習国家主席は2015年、当時の馬英九総統(国民党)と会談している。台湾と中国の首脳が顔を合わせたのは、1949年の国共内戦終結以来のことだった。

しかし、国民党に反対する人々は、同党が中国に屈した態度をとり、台湾の防衛を真剣に考えていないと批判する。同党はこれまで、国防費の増額を阻止したり、兵役をわずか4カ月に短縮したりしている。

また、国民党政権が誕生すれば、台湾がより脆弱(ぜいじゃく)になるという懸念もあった。台湾に武器などを提供しているアメリカをはじめとする強力な同盟諸国は、台湾が自衛に真剣に取り組まないなら、なぜ自分たちが台湾防衛を約束しなくてはならないのか、疑問視するはずだ。

台湾は現在、国内総生産(GDP)の約2.5%を防衛に充てている。これはアメリカや、同じアジアで深刻な安保情勢下にある韓国などと比べて、はるかに少ない。

つまり、有権者は今回、はっきりと選択したようだ。有権者は中国による危険を認識しているし、中国との対話を望んでいる。しかし、台湾の若い有権者は今や、自分は中国人よりも台湾人だと自認するようになっており、そういう人々に国民党は支持されなかった。

国民党は現在、統一や「一つの中国」を口にすることはほとんどなく、中国との関係改善を通じて台湾の平和と安全を守りたいという姿勢だ。それにもかかわらず、有権者は国民党から遠ざかった。

加えて、台湾にとって何が最大の損失になるのかも、ここ数カ月で明確になったかもしれない。台湾の選挙はにぎやかで、その民主主義はまだ若々しく、投票への熱意が実感できる。

その同じ民主主義は同時に、民進党への不満も明らかにした。住宅価格の上昇や賃金の伸び悩み、雇用機会の減少が、若い有権者を遠ざけた。

民進党が立法院(議会)で過半数議席を失う見込みなのは、そのためだ。国民党は第3党の台湾民衆党と連立を組んで議席を確保し、立法を掌握し、頼氏の政策を食い止める機会を得る可能性が高い。

頼次期総統の道のりは、平坦とは言いがたい。その任期は、自らの政権や、それに反感を抱く巨大な隣国だけでなく、地球の反対側での選挙にも左右されるだろう。

もし今年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が勝利した場合、頼氏はこれまでとは全く異なるタイプの同盟相手に備えなくてはならない。