【解説】 台湾総統選、立候補者はどんな人物か 中国への姿勢は

ケリー・アン、BBCニュース

(左から)台湾総統選に出馬している柯文哲氏、侯友宜氏、頼清徳氏

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画像説明, (左から)台湾総統選に立候補している柯文哲氏、侯友宜氏、頼清徳氏

台湾で13日、総統選挙が行われる。中国との関係を再定義するかもしれない重要な選挙だ。

中国は、独立国家を自認している台湾を自国から分離した省だと考えており、総統選には1996年の第1回から影を落としている。

蔡英文総統の後任をめぐる今年の選挙戦は、台湾が米中間の重要な火種として浮上している最中に行われている。地政学以外では、低賃金や住宅価格の高騰が、有権者に重くのしかかっている国内問題となっている。

立候補者は、与党・民主進歩党(民進党)の現職の副総統、最大野党・中国国民党(国民党)の元警察トップ、そして台湾民衆党(民衆党)の元台北市長の3人だ。また、立法院(議会)の立法委員(議員)選挙も同時に行われる。

総統選の立候補者と、副総統候補を紹介する。

最有力候補:頼清徳氏(民進党)

William Lai

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蔡政権の副総統である頼氏は、物腰は柔らかいものの、台湾の自治権を断固として擁護している。中国国営紙・環球時報は、反分裂国家法に基づいて頼氏を訴追するよう求めている。

頼氏は2017~2019年に行政院長(首相)を務めた。その際には自身を、「台湾独立のための現実的な労働者」だと説明した。

頼氏は2歳の時に事故で父親を亡くした。母親が6人の子供を育てるのを見て、自分の倫理観は育ったのだと話している。米ハーヴァード大学で公衆衛生学の修士号を取得し、1990年代に政界入りするまで腎臓内科医として働いていた。

台南市で議員となった後、2010年に同市市長に当選。得票率73%という前例のない支持を得て2014年まで同職に就いていた。

総統選において頼氏は、台湾は中国と「友人」になるのを望んでいると繰り返し述べている。昨年8月にはブルームバーグの取材で、「敵にはなりたくない。友人になれるはずだ。そして中国が台湾のように民主主義と自由を謳歌(おうか)するのが見たい」と語った。

一方の中国政府は、頼氏を「トラブルメーカー」と呼んでいる。

しかし、中国をさらに怒らせているのは、頼氏の副総統候補となっている蕭美琴氏の存在だ。日本生まれアメリカ育ちで、それら台湾の強力な同盟国2カ国とつながりをもつ。日米は、中国にとってもっとも難しい外交相手だ。

中国は蕭氏を、「熱烈な台湾独立分離主義者」と呼んでいる。著名な外交官である蕭氏に対し、中国に入国できないよう2度にわたって制裁したほか、同氏に関係する投資家や企業が中国の組織と協力することも禁じている。

蕭氏は、頼氏陣営に豊富な外交政策経験をもたらす。同氏は過去3年間、台湾の駐米代表を務めた。この役割を担った最初の女性でもある。

国家運営に関しては、蕭氏は自らを「戦猫」と呼ぶ。これは、中国が最近まで奨励していた攻撃的な外交アプローチ「戦狼(せんろう)」外交に対する反論だ。

昨年12月の英誌エコノミストの取材で、蕭氏は「猫は狼(おおかみ)よりもずっと愛嬌(あいきょう)がある。外交とは友達を作ることだ」と語った。「外交とは、自分を愛される存在にすることだ」。

静かな対立候補:侯友宜氏(国民党)

KMT presidential candidate Hou Yu-ih

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侯氏は子供の頃、豚を捕まえたり、地元の市場で豚肉の屋台を手伝ったりして、家業を支えていた。

侯氏は、この頃の豚を捕まえた経験が、警察官としての自分のキャリアを助けたと語ったことがある。凶悪殺人犯の逮捕に尽力したほか、2004年には陳水扁総統(当時)狙撃事件を担当した。2006年に、史上最年少の40代で内政部警政署長(警察庁長官)となった。

2010年に政界入りし、2018年には台湾最多の人口を有する新北市の市長となる。2022年にも地滑り的勝利で再選を果たした。

侯氏は有能な警察官として、また人気のある市長としての実績から、国民党が8年ぶりに台湾の政権を奪還するための最有力候補となった。侯氏はもう一人の野党候補、柯文哲氏と野党候補一本化を狙ったが、失敗に終わった。

侯氏は台湾独立に反対しているが、今回の選挙戦では中国に対する態度をほとんど口にしておらず、この不透明性が批判を呼んでいる。2023年6月に参加したある大学での集会では、中国政府が掲げる「一個中国(一つの中国)」政策に関する質問をかわしたため、危うさを伴う外交に関する手腕が疑問視された。

侯氏はその後、「台湾海峡の両岸の関係は明確だ。混乱してはならない。それは完全に中華民国の憲法に基づいている」と述べている。

国民党の副総統候補は、著名な政治コメンテーターで、一時は「新党」の党首だった趙少康氏だ。

長年、台湾と中国の「再統一」を支持している趙氏だが、最近では、反対派との間に大きな相違があることを踏まえ、副総統になってもこの道を追求することはないだろうと述べている。

趙氏は1991年、国民党政権で環境相を務めた。2年後に中国との統一を目指す「新党」を共同結成し、国民党から分離した。

1996年に政界を引退した後は、メディアの世界に転向。親中ケーブルテレビ局「連利媒体(TVBS)」の政論番組の司会として有名になった。2021年2月に政界に復帰した。

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ワイルドカード:柯文哲氏(民衆党)

TPP presidential candidate Ko Wen-je

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外科医から政治家に転身した柯氏は、中国を挑発するか、中国に従うかの間に位置する有権者にとっての「第3の選択肢」だと、自らを位置付けている。台北市長在任中には、市民に「物事を正しく行う」よう促すラップ動画を投稿した、一風変わった側面も持つ。

民衆党の党首でもある柯氏は、若い有権者の支持を得ている。

著名な外傷外科医だった柯氏は、10年前に白衣を脱いで政界入りした。2014年には、中国の影響拡大に反対した学生らが立法院を占拠した「太陽花学生運動(ひまわり学生運動)」を支持。その年の台北市長選で当選した。政治家としての経験はなかったものの、ひまわり学生運動の活動家や民進党から支持を取り付けた。

柯氏の政治はその後8年間で変化し、上海市をはじめとする中国各地と台北市との関係を拡大した。

2019年には、民進党と国民党の代わりとなる政党として民衆党を結成。2020年の立法院選挙では133議席中5議席を獲得し、第3党となった。

辛辣(しんらつ)な物言いで知られ、民進党からは台湾を危険にさらす「親戦争派」だと非難される一方、国民党からは「従順すぎる」との批判を浴びている。

副総統候補の呉欣盈氏は、現職の立法委員であり、台湾最大のコングロマリットの一つ「新光集団」の共同創業者一族の出身。呉氏が副総統候補に選ばれたのは、その資産が理由だとの指摘もある。

アメリカで生まれ大学まで教育を受けた後、英ロンドンで米メリル・リンチの投資アナリストとしてキャリアをスタート。その後、新光集団に参加した。現在は同グループの慈善事業部門の最高経営責任者を務めている。

アナリストらは、柯氏と呉氏はエリートの富裕層と見られているため、雇用や経済も鑑みて投票する、より広い有権者とのつながりを築くのは難しいかもしれないとみている。