【解説】 香港メディアの大物の国安法違反裁判始まる 香港司法の行方は
フランシス・マオ、BBCニュース

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香港メディア界の大物で民主化活動家の黎智英(ジミー・ライ)氏がついに、3年半の刑務所での収容を経て、法廷に立った。18日、同氏が香港国家安全維持法(国安法)違反の罪に問われた裁判が始まった。
黎氏はこの日、裏口から裁判所に入った。そのため、中国政府が「悪名高い反中勢力」と呼ぶこの民主主義の擁護者の姿は、法廷内に入った人しか見られなかった。
明らかにやせてやつれた76歳の黎氏は、今後数カ月にわたり、自分の運命を決める3人の判事と相対することになる。
黎氏は罪状を全て否認し、自分は香港の自由を擁護しているのだと主張している。
現在の香港では、当局は逆のことを言うだろうが、黎氏が公正な裁判を受けられる見込みはないと、ロンドンにいる黎氏の弁護団はBBCに語った。
「見かけ上の制度はまだあり、建物もあり、裁判官も弁護士もいる。しかし実際には、法の支配という基本原則は損なわれている」と、ジョナサン・プライス弁護士は述べた。黎氏の国際弁護団は、香港で黎氏の弁護人を務められない。
「誰もが、たった一つの結果しかないと分かっている。明白なことだ」と、プライス氏は語った。

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黎氏は、2020年以降に国家安全保障を脅かしたとして逮捕された、少なくとも250人の香港人の1人だ。
他の多くの被告同様、黎氏も保釈を却下され、陪審裁判を受ける権利や、弁護人を自ら選ぶ権利も否定された。
香港当局はなお、イギリスから受け継いだコモン・ローの法体系による法の支配に支えられていると主張している。香港が国際的な金融の中心地になったのはそのためであり、香港はこのイメージを保持し、外国からの投資を求め続けている。
しかし、2019~2020年の民主化デモを打破し、反体制派を罰する国安法を制定した中国政府の全体主義的な統治により、香港はいやおうなしに変わってしまったと批判する声もある。
国安法違反で有罪となれば、黎氏は終身刑を受ける可能性がある。プライス弁護士は、黎氏は「香港に起こったことの全体像」を体現していると語った。
黎氏は民主派タブロイド紙・蘋果日報(アップルデイリー)の社主だったが、同紙は当局によって廃刊に追い込まれ、自身も社屋を違法に利用した詐欺や国安法違反の疑いなどで逮捕された。
国安法関連では「外国勢力との結託」や国家転覆の罪で起訴されている。
検察当局は、香港の将来に疑問を投げかけたり、当局への国際制裁を求めたりする記事が、これに当たるとしている。
また、昨年12月に詐欺罪で6年近い禁錮刑を受けたほか、一昨年12月には天安門事件の追悼集会に参加したとして13カ月の禁錮刑が言い渡されている。
香港で最も率直な実業家の一人が引きずりおろされた衝撃の瞬間だった。黎氏はポロシャツチェーンの「ジョルダーノ」で巨万の富を築いた後、天安門事件の影響を受けてメディア業界に参入。アップルデイリーを創刊した。
2019年の民主化デモでは、催涙ガスを浴びせられる群衆に入り、抗議者の声を聞いてからオフィスに戻り、指示を飛ばした。
メディア界の大物だった黎氏には、国家の手が届かないと思われていた。
しかし実際のところ、黎氏のケースこそ、香港で民主主義を主張する者がいかに脆弱(ぜいじゃく)かを示していると、法学者は言う。
保釈を認められなかったことだけではない。イギリス国籍を持つ黎氏はイギリスの人権派弁護士ティモシー・オウエン勅撰弁護士を指名したものの、香港政府はこれを却下した。
香港では何十年にもわたり、外国人弁護士が働いてきたが、香港政府は昨年、外国人弁護士が安全保障上のリスクになるとして、国安法の裁判での活動を禁じた。

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黎氏は陪審裁判も受けられない。ただしこれは、香港で終身刑が言い渡される可能性のあるこれまでの刑事訴訟でもあることだった。
国安法の下では、政府は陪審員を拒否し、3人の裁判官からなる合議体を任命する権限を持っている。これまで、国安法違反に問われている被告について、すべてそうしている。
香港の律政司(司法省)はBBCに対し、これは「被告人が公正な裁判を受ける権利を損なうのではなく、むしろ保護しようとするもの」だと述べた。しかし黎氏の弁護団は、裁判官が香港の指導者の手によって選ばれたと主張し、上訴した。
香港の法律学者、黎恩灝(エリック・ライ)教授は、国安法は長年の法的原則を一夜にして覆したと話した。「我々は、非常にあいまいで広範にわたる法律を扱っている。そして多くの手続き上の安全措置が一掃されてしまった」。
また、国安法違反罪で起訴された人々は「現在では、保釈の権利はないと推定されている」と、黎教授は述べた。
そのため被告人は、検察が被告人を勾留する責任を負うのとは対照的に、身柄を釈放されるべきだと主張しなければならない。
司法を監視している人たちによれば、5人に4人近くが保釈を拒否されているという。
当局は、国安法関連の保釈の判断は「公正に処理され、公平に裁定された」ものだとしている。律政司はBBCに対し、「国安法をめぐる保釈により厳しい条件を課すのは(中略)国家安全保障を守ることが極めて重要だからだ」と述べた。
しかし、香港で長年、法廷弁護士や講師として働いていたアルビン・チャン氏は、「政府の戦略の要点は、公判前勾留という法的に宙ぶらりんな状態でできるだけ長く留置しておくことだ」と言う。チャン氏は現在、香港を離れている。

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以前、国安法違反の疑いで収容されていた人々はBBCに対し、自分達を疲弊させ、士気をくじく戦略のように感じたと話した。
チャン教授は、それこそ香港当局がやっていることだと話す。「初日に裁判をしたかと思えば、別のことで罪を問い、それを何度も繰り返す」。
香港政府はまた、これまでの国安法での有罪率が100%だと自賛している。しかし法律の専門家によれば、これは厳しい統計だという。
プライス弁護士は「まともな司法体系がある環境では有罪率は100%にならない。正しいわけがない。独裁者が98%の支持率があるというような、いかさまの民主主義を思わせる」
当局が共謀や国家転覆を標的にしていると言う国安法は、これまでに民主化運動を率いてきたポップスターや弁護士、政治家に適用されてきた。
目立ったケースでは、2020年の立法会(議会)選挙に先立ち、民主派が非公式に行った「予備選」に関わった47人が起訴された。

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しかし、当局がイギリス植民地時代の扇動法を復活させたことで、一般市民もこの包囲網に捕まっている。黎氏もこの法律違反で裁判を受けている。
今年11月には、日本留学中にインスタグラムで「私は香港人だ。香港独立を主張する」などと投稿したとして、静婷氏(23)が禁錮2カ月の実刑判決を受けた。
同氏は当初、国安法違反の疑いで拘束されたものの、その後、扇動法違反に切り替えられた。国外での活動で有罪となったのは同氏が初めてだった。
6月には、シングルマザーの羅愛華氏が、Facebookに民主派のスローガンを投稿したとして有罪となった。羅氏は保釈を却下され、判決言い渡しの際には12歳の息子が釈放を嘆願した。しかし、同氏は禁錮4カ月となった。
香港中文大学のマイケル・フィッシャー教授(法学)は、「こうした人たちは、革命のために爆弾を投げているわけではない。違った考えを表明したかっただけの人たちだ。しかし今ではそれも危険なことになった」と述べた。フィッシャー氏は今年、香港を離れている。
「表現の自由や集会の自由など、5年前には当たり前だったものが、実質的に損なわれたり破壊されたりした」
1997年にイギリスが香港を返還した際、政治的な自由や権利を50年間維持するという取り決めが交わされた。
香港特別行政区基本法ではなお、公正な裁判を受ける権利などの市民権が守られている。しかし専門家らは、国安法がこうした権利を上回っていると指摘する。
こうした事態を受け、香港では法律の専門家が減っているという。いくつかの統計では、2020年以降に約10万人が香港を離れたが、弁護士や判事も含まれている。
香港大学法学部の学部長を務めていた陳文敏氏は、「任命された弁護士に対する信頼がないため、弁護士なしで裁判を進めることにした被告もいる」と話した。陳氏は2021年に学部長を辞任してアメリカに移住した。
一方、資金力のない被告は、検察官を国選弁護人として受け入れなければならなかったという。

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弁護士会である香港大律師公会の元会長も辞任し、イギリス最高裁の判事2人を含む外国人裁判官3人が、兼任していた香港終審法院(最高裁)の判事を辞めた。
ロバート・リード卿とパトリック・ホッジ卿は2022年、香港の裁判所は「法の支配へのコミットメントにおいて国際的に尊敬され続けている」が、イギリス政府の見解としては、「政治的自由や表現の自由という価値観から遠く離れた行政を認めるそぶりを見せなければ、職務を継続できなくなってしまった」と説明した。
黎氏の裁判が行われた西九龍裁判所で外でも、それは明らかだった。
以前の公判では群衆が集まり、プラカードや「アップル・デイリー」紙を手に列を作っていたが、18日には一人のベテラン抗議者が声を上げただけだった。
「王婆婆(ウォンおばあちゃん)」と呼ばれている王鳳瑤氏は、香港の古いイギリス国旗を振りながら、「黎智英を支持しろ! 真実のために立ち上がれ!」と叫んだ。
彼女はすぐに取り囲まれ、警察に連行された。







