EU、アメリカとの貿易協定の承認を凍結

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ジョナサン・ジョーセフス、アダム・ハンコック、アーチー・ミッチェル 経済記者
欧州連合(EU)の欧州議会は21日、アメリカのドナルド・トランプ大統領がデンマーク自治領グリーンランドの取得を要求したことに抗議し、昨年7月にアメリカと合意した重要な貿易協定の承認を凍結した。フランス・ストラスブールの欧州議会本会議で発表した。トランプ氏は同日、スイス・ダヴォスで開かれている世界経済フォーラム年次総会で演説した数時間後、グリーンランドの将来について「枠組み」合意が得られたとソーシャルメディアに投稿し、アメリカのグリーンランド取得に反対する北大西洋条約機構(NATO)加盟8カ国に対する追加関税の脅しは実行しないと書いた。
欧州議会の決定は、トランプ氏がグリーンランド取得を今年に入り声高に強調するようになったのを受けてのもの。米欧間の関係悪化は金融市場を動揺させ、貿易戦争や対米報復措置の可能性が懸念されていた。
貿易と関税をめぐるアメリカと欧州の緊張関係は、昨年7月にトランプ氏が英スコットランドに持つターンベリー・ゴルフ場で双方が貿易協定の枠組みに合意して以来、緩和していた。
アメリカは当時、欧州製品の大半への関税を当初の30%から15%へ引き下げることに合意した。トランプ氏は4月に「解放の日」関税を発表し、5月には欧州連合(EU)の対米輸入品全てに50%の関税を課すと警告していた。
7月の合意の見返りとして、ヨーロッパは対米投資を約束するほか、アメリカの対EU輸出拡大につながると見込まれる変更を、域内で実施すると約束していた。
この協定が正式なものとなるには、欧州議会の承認が必要だった。
しかし、トランプ氏が17日にグリーンランドをめぐる関税発動を警告したことを受け、欧州議会のベルント・ランゲ国際貿易委員長は、グリーンランドをめぐる脅しを前に、「ターンベリー関連の2法案について作業を凍結する以外に選択肢はない」と述べた。
ランゲ委員長は、アメリカが「対立ではなく協力の道に戻るまで」貿易協定に関する作業は停止すると述べた。
EUは昨年、トランプ氏の「解放の日」関税への対応として、最大930億ユーロ(約17兆2000億円)相当のアメリカ製品に関税を課す可能性を公表したが、協議が進む間、この計画を保留していた。貿易協定の承認手続き凍結が決まったことで、この関税発動に再び取り組む可能性がある。
EUが、関税の保留措置を延長するか新協定を承認しない限り、この関税は2月7日に発動する。
ランゲ委員長は、トランプ氏が「枠組み」について合意が得られたとソーシャルメディアに書き、欧州8カ国に追加関税は実施しないと述べる前に、トランプ氏の脅しが終わるまでは「妥協の可能性はない」と述べた。
委員長はさらに、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が対米対抗措置として発動を促す、いわゆる「貿易バズーカ」とも呼ばれる「反威圧措置(ACI)」の使用の可能性にも言及した。
トランプ氏の発表後、ランゲ委員長はBBCに対して、これが協定を救えるかどうかについて明言を避け、トランプ氏の発表の影響を理解するには「しばらく時間が必要だ」と話した。
「このいわゆる解決策が何を意味するのか、見極める必要がある」とも、委員長は述べた。
EU首脳部の間では、トランプ氏が立場を後退させるのは不可避だったとの見方が広がっている様子。
交渉経緯を良く知る立場のEU消息筋に、追加関税発動を見送るというトランプ氏の発言についてBBCニュースがコメントを求めたところ、返ってきたのは「あきれた様子で上を見上げる」絵文字だけだった。
金融市場はこの1年、トランプ大統領のさまざまな政策発表について、市況にどう影響するかという懸念をその都度退け、「TACO(Trump Always Chickens Outの頭文字、トランプはいつもしり込みしてやめる、の意味)」という略語を頼みにしてきた。
トランプ氏は脅しを実行しないという認識は、各国首脳の間にも浸透しているようだ。
21日のダヴォス演説でトランプ氏は、アメリカはデンマークからグリーンランドを取得すると改めて強調したが、「武力を使う必要はない。武力を使いたくないし、武力を使わない」と述べた。
大統領は演説で、グリーンランド領有の方法についてデンマークと「直ちに交渉」に入ることを求めた。将来的な協定の「枠組み」で合意したとソーシャルメディアで発表したのは、その数時間後のことだった。
トランプ氏の演説を受けて、大西洋の両側でこのところ下落していた金融市場は落ち着きを回復した。枠組み合意の発表を受けてアメリカでは株価がさらに上昇し、ダウ平均、S&P500、ナスダックの各指標は21日午後の取引で1%以上上昇した。イギリスでも、FTSE100がわずかに上昇して取引を終えた。
他方、金価格は上昇を続け、初めて1オンス4842ドル(約76万7000円)を超えた。銀価格は19日に過去最高値の1オンス95ドル(約1万5000円)をつけていたが、21日にはそこからわずかに下がり、94ドル前後で推移した。
情勢が不確実な時には、貴金属は安全資産とみなされる。過去1年の間に、金と銀の価格は共に急騰している。
アメリカと、27カ国が加盟するEUは、互いに最大の貿易相手同士だ。ヨーロッパの統計によると、2024年には1兆6000億ユーロ(約296兆円)超のモノとサービスが取引されている。これは世界全体の貿易のほぼ3割に相当する。
トランプ氏が昨年春に関税を発表し始めると、ヨーロッパを含む各国首脳が報復措置をとると警告した。
しかし、最終的には、多くの国が交渉を選んだ。
中国とカナダだけがアメリカ製品に重い関税をかけるという脅しを貫徹したが、カナダは昨年9月、自国経済への影響を懸念し、その大半を静かに撤回した。
カナダのマーク・カーニー首相は20日、ダヴォスでの演説で、大国同士が競い合う「力こそ正義」だという世界が浮上しつつあると警告し、それに対抗するために「中堅国」の結束を呼びかけた。
「覇権国を相手に単独で2国間交渉に臨むと、我々は弱い立場で交渉することになる。提示されたものを受け入れるしかない。覇権国の意向に一番添える国になろうと、競い合ってしまう」と、カーニー首相は警告し、「これは主権ではない。これは、従属を受け入れながら、主権国家のふりをしているに過ぎない」と強調した。
トランプ政権はこれまで、技術や金属関税をめぐる継続的な対立の中で、欧州の協定承認の進展に不満を示してきた。
他方、トランプ氏のダヴォス到着に先立ち、トランプ政権のスコット・ベッセント財務長官は欧州首脳に対し、報復措置をとらないよう繰り返し警告し、「先入観にとらわれない」よう促していた。
「みなさんにこう申し上げる。どっしりと構えて深呼吸してほしい。報復はしないように。大統領は明日ここに来て、自分のメッセージを伝える」と、財務長官は述べた。
各国の貿易関係が緊張する間、アメリカではトランプ氏が昨年発表した多くの関税が合法かどうか、米連邦最高裁が近く判断を示すとされている。








