古い秩序は「戻って来ない」とカナダ首相、中堅国の団結うながす ダヴォス会議

スーツ姿で白い演壇の前に立ち、演説しているカーニー首相。背景の青いパネルには英語で「ダヴォス2026年次総会」と書かれている

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画像説明, カナダのマーク・カーニー首相(20日、ダヴォス)

ナディーン・ユーシフ・カナダ担当上級記者

カナダのマーク・カーニー首相は20日、スイス・ダヴォスで開かれている世界経済フォーラムの年次総会で演説し、「古い秩序は戻ってこない」と述べた。そのうえで「これまでより良いもの、より強いもの、より公平なものを築くことができる」と強調し、カナダを含めた中堅国の団結を呼びかけた。

カーニー首相は、「中堅国は一緒にまとまって行動しなくてはならない。なぜなら、意思決定するテーブルに着いていなければ、われわれはメニューに載る側になってしまうからだ」と発言。強大な国々は望むものを手に入れるため、経済的な強制力を駆使しているとの認識も示した。

カーニー首相がさらに、グリーンランドとデンマーク、そして北大西洋条約機構(NATO)への支持を改めて表明すると、会場からは拍手が起きた。

名指しは避けたものの、カーニー氏のこうした発言は、デンマークの自治領グリーンランドを領有しようとするトランプ米政権の動きを踏まえたものと受け止められる内容だった。首相の発言の一部は、アメリカによるグリーンランド領有に反対する欧州諸国に関税を課すと脅している、トランプ大統領に向けられたものに思えた。

動画説明, 同盟国の領土を求めるトランプ氏、各国首脳は「力こそ正義」に反発

外交の場では、国連安全保障理事会の常任理事国である中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカを「大国(グレート・パワー)」と呼ぶことが多く、その経済力と軍事力の優位性を示している。

一方、カナダ、オーストラリア、アルゼンチン、韓国、ブラジルといった中堅国は、経済規模がより小さいにもかかわらず、国際政治において依然として大きな影響力を及ぼしている。

カーニー氏はこの日の演説で、世界はいま「移行の過程ではなく、断絶のさなかにある」と述べた。

カーニー氏はまた、「大国は経済的統合を武器として、関税をてことして、金融インフラを強制手段として、サプライチェーンを付け込むべき脆弱性として利用し始めている」と言い、地理的条件や歴史的な同盟関係がもはや安全や繁栄を保証しないという「警鐘を、いち早く耳にした国の一つがカナダだ」と述べた。

「カナダ国民は、これまで当然のものと考えてきた、地理的条件や同盟への加盟が自動的に繁栄と安全保障をもたらすという前提が、もはや成り立たないことを理解している」とも、首相は話した。

トランプ氏は大統領に返り咲いた後、カナダをたびたび「51番目の州」と呼び、「経済的な力」でカナダとアメリカを結び付けると脅した。アメリカはその後、北側で国境を接する主要な貿易相手国であるカナダに、高関税を課した。

最近では、グリーンランド掌握に向けた動きにカナダを加えた。こうした言動はこのところ一段と強力に、かつあからさまなになっており、先にはソーシャルメディアに、アメリカとカナダ、グリーンランドにアメリカの国旗の画像を重ねた地図を投稿した。

カーニー氏は、カナダはNATOの加盟国として、グリーンランドおよびデンマークと断固として連帯し、「グリーンランドの将来を自ら決定するという固有の権利」を支持していると述べた。

さらに、NATO条約の中の、加盟国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなすとする条項にも言及。「第5条に対するわれわれの関与は揺るぎないものだ」と付け加えた。

首相はさらに、カナダの姿勢は「価値に基づく現実主義」だと説明。主権と領土保全、国連憲章に合致する場合を除き武力行使を禁じるという原則、人権の尊重という原理原則を重視しつつ、国際社会においてはさまざまな利害関係があり、「すべてのパートナーが私たちの価値を共有するわけではないことを認識する点においては実務的」だとした。

「私たちは幅広く、戦略的に、そして現実を直視して関わっていく。望ましい世界が訪れるのを待つのではなく、今ある世界に積極的に向き合っていく」、「カナダは各国との関係性の深さが、自分たちの価値観を反映するよう調整している。世界秩序が流動的で、それに伴うリスクと、そして次に何が起きるかが非常に重要だということを踏まえ、私たちは影響力を最大化するため、幅広く関与していくことを優先する」とも首相は話した。

「古い秩序は戻ってこない。それを追悼するべきではない。ノスタルジアは戦略ではない」とカーニー首相は言い、「しかし断絶から、私たちはこれまでより良いもの、より強いもの、より公平なものを築くことができる。それこそが、中堅国の役割だ。要塞(ようさい)からなる世界で失うものが最も多く、真の協力の世界から得るものが最も多い、中堅国の役割だ」と強調した。

カナダは「安定的で信頼できる」パートナーだと

カナダの複数の報道機関は今週初め、カナダ政府がグリーンランドでの軍事演習に参加するため、デンマークや他の欧州諸国の部隊に合流する形で、少数部隊の派遣を検討していると報じた。

ダヴォスでこの件について問われたカナダのアニタ・アナンド外相は、「我々は定期的にNATOの演習に参加している。また、カナダ軍が主導する演習にも参加している」と述べた。そのうえで、将来の派遣についての決定は国防相と国防参謀総長が行うと付け加えた。

BBCは、この件についてカナダ国防省にコメントを求めている。

カーニー氏は演説で、変化する地政学に適応するため、カナダは現在、他国との関係を深め、「共通の価値観と利害に基づく課題ごとの連合」を構築することに重点を置いていると述べた。

また、カナダを「安定的で信頼できる」パートナーだと位置づけ、中国やカタールと最近締結した通商・投資協定や、昨年に欧州連合(EU)と署名した防衛調達に関する協定にも言及した。

世界経済フォーラムでは、カーニー首相を含む複数の世界指導者が演説を行うのが慣例。トランプ氏の演説は21日に予定されている。