香港当局は私を沈黙させるために父親を投獄した……指名手配中の在外民主活動家が語る

黒い髪を一つにまとめ、黒いTシャツを着た女性が、毅然とした表情で前を向いている。Tシャツの胸元には「HONGKONGER(香港人)」という刺繍がしてある。背後に白い雲が浮かぶ青い空が写っている

画像提供, Reuters

画像説明, 香港出身の民主派活動家、郭鳳儀(アナ・クウォック)氏
この記事は約 11 分で読めます

コー・ユー記者

香港出身の民主派活動家、郭鳳儀(アナ・クウォック)氏は、自分の父親が国家安全法(国安法)違反で香港で逮捕されたと知った時、ショックを受けた。しかし一方で、「いつかこうなると分かっていたという感覚もある」と話した。

現在29歳の郭氏は2020年に香港を離れた。しかし、アメリカに拠点を置く「香港民主委員会」の会長を務める同氏には、香港当局が100万香港ドル(約2000万円)の懸賞金をかけており、今も指名手配されている。

香港の裁判所は2月26日、郭氏の父、郭賢生氏(69)に対し、国家安全法違反で8カ月の禁錮刑を言い渡した。国外にいる指名手配中の活動家の家族が、国安法の対象となったのは初めてだった。

賢生氏は2月初めに、逃亡中の指名手配犯の金融資産を扱おうとした罪で有罪判決を受けた。娘が2歳の時に、彼女のために加入した保険から、約1万1000ドルを引き出そうとしたことが理由とされている。

国安法を批判する人々は、賢生氏への有罪判決と量刑が、在外活動家に対する香港政府の圧力が拡大している証拠だと主張。大陸における中国政府の弾圧に、ますます似通ってきていると指摘している。

香港政府はこうした見方を否定している。同政府報道官はBBCの問い合わせに対し、捜査当局と裁判所が個人に対して取る措置は「その人の政治的立場、背景、職業とは無関係だ」と述べた。

郭氏は、香港警察の国家安全部門が指名手配している34人の活動家の1人。2019年に香港で起きた大規模な民主化デモに参加した後、外国勢力と共謀し、国安法に違反したとされている。

郭氏の父親と兄は昨年、同氏の金融資産を扱った疑いで逮捕された。兄は釈放されたが、父親は国安法を補完する香港の国家安全条例によって起訴された。父親は無罪を主張した。

当局は、国家反逆や分離独立といった行為を対象とするこれらの法律が、香港の安定のために必要だと主張している。一方、これらの法律が反体制派の意見を封じ込めるために利用されているとの声もある。

2人の人物が映っている。2人とも、黒いジャケットに顔を隠す黒いサンバイザーを着けている。背が高い方の人物が背の低い方の人物に傘を指している

画像提供, Reuters

画像説明, 郭鳳儀氏の父親の郭賢生氏は、娘のために契約した保険から資金を引き出そうとした罪で、禁錮8カ月を言い渡された

郭氏は父親の訴追について、海外で活動する自分を沈黙させる狙いがあると話す。郭氏は香港民主委員会の会長として、米連邦議会に対し、アメリカ国内にある香港の経済貿易代表部の運営を再検討するよう働きかけてきた。

「父の裁判は、香港の政治的自由がさらに縮小したことを示している」と、郭氏は述べた。

「そして、香港政府が中国政府から学び、香港市民が試みるあらゆる自由や運動を抑圧しようとしていることも、示している」

香港警察はBBCに対し、自分たちは「法に従って行動している」とし、「警察を中傷し、世論の不安をあおろうとする悪意ある企てを非難する」と述べた。

中国政府の常とう手段?

香港の在外民主活動家で、家族が警察に呼び出されたのは郭氏だけではない。

報道を基にした集計によると、2023年以降、警察は19人の「潜逃者」の家族少なくとも50人に事情聴取を行ったことが明らかになっている。「潜逃者」とは、香港当局が国安法違反で指名手配した人物を指す言葉。

呼び出されているのは、直系の家族から、いとこ、義理の親族まで多岐にわたる。

中国政府寄りとみなされる人物も、その対象に含まれている。2023年には、親中派議員だった容海恩(ユーニス・ヤン)氏が、国安法違反で指名手配されているアメリカ在住の義父、袁弓夷(エルマー・ユエン)氏について、警察から事情聴取を受けた。容氏は当時すでに、義父との絶縁を公表し、警察に協力したし、警察の対応を支持すると述べていた。

昨年2月には、イギリス在住の元民主派区議、劉珈汶(カーメン・ラウ)氏のおば2人とおじが、捜査協力のために香港の国家安全警察に連行されたと報じられた。当時、警察はAFP通信に対し、潜逃者とつながりのある人物から情報を集めるのは通常の対応だと説明していた。

しかし劉氏は、親族に起きたことは、自分の活動を威圧するためだった可能性が高いと話す。劉氏は、中国がロンドン中心部に巨大な大使館を新設する計画に抗議していた。

同じ頃、イギリスに住む劉氏の近隣住民は、中国大使館に同氏を引き渡せば9万5000ポンド(約2000万円)の報奨金を支払うとする文書を受け取っていた。これはイギリスに住む別の香港民主活動家に対して送られたものと同様の内容だった。

英米両政府は、こうした懸賞金制度を「国を越えた弾圧」の一形態だと非難している。

一方、香港政府はBBCに対し、当局には「海外に逃亡したとしても、国家安全を脅かす犯罪を行った疑いのある人物を追及する責任がある」と述べた。

Y字型の大通りを人が埋め尽くしているのを上から撮った写真

画像提供, Getty Images

画像説明, 2019年から2020年にかけての抗議運動は、香港史上でも最大規模のものだった(2019年12月撮影)

劉氏は昨年12月、自分の性的なディープフェイク画像が近隣住民に送りつけられたと話した。これは、同氏が香港を離れて以降に直面してきた威圧の最新の形だ。

「これは確実に、私たちに自主規制させ、黙らせようとするものだ。さらに、私地に感情的な揺さぶりをかけて脅すためのものだ」と劉氏はBBCに話した。

「(香港の)警察はしばしば私たちに、香港へ戻り法の裁きを受けろと言う。だから、それが当局の狙いなのだと思う」

在外活動家らは、こうした手口はまさに中国の常とう手段だと言う。人権擁護団体は長年、中国当局が国外へ逃れた反体制派の家族を威圧したり拘束したりしていると非難してきた。

こうした状況は、香港人の在外コミュニティーに萎縮(いしゅく)効果をもたらしていると、劉氏は話す。同氏によると、一部の人は香港に残る家族への影響を懸念し、亡命した民主活動家が開催するイベントに参加しなくなっているという。

「声を上げるのをやめさせようと」

香港では2019年、数十万人の市民が、犯罪容疑者を香港から中国当局に引き渡せるようにする改正法案に反対し、街頭に繰り出した。この動きは民主化運動へと発展し、1997年の香港返還以来で最も深刻な政府への挑戦となった。

中国政府は2020年6月、香港の安定を維持するために不可欠だとして国安法を導入した。しかし人権団体などは、同法が政治活動や政府批判を違法化し、恐怖の雰囲気を生み出し、香港の活気ある市民社会を抑え込んだと指摘している。

香港ではそれ以前にも、多くの抗議者が違法な集会や治安妨害などの理由で起訴されていたが、国安法では、終身刑を含むより厳しい刑罰が科されることになった。

これまでに元議員や著名な民主派活動家を含む数百人が国安法違反で逮捕されている。今年2月には、香港メディア界の大物で民主化活動家の実業家、黎智英(ジミー・ライ)氏が禁錮20年の実刑判決を受けた

米ジョージタウン大学アジア法律センターの黎恩灏(エリック・ライ)上級研究員はBBCに対し、「ここ数年も国際社会は、香港政府が政治的抑圧のために裁判所や法律を武器化してきたと認識するようになっている」と述べた。

グレーのジャケットを着て黒髪を一つにまとめた女性が、屋外に建てられたマイクの前で話している。背後には生垣と、その前に立つ別の女性がぼやけて写っている

画像提供, AFP via Getty Images

画像説明, 米連邦議会議事堂で記者会見する劉氏(2024年11月、米首都ワシントン)

黎研究員はまた、郭氏の父親の事件はその最新の一例にすぎないと指摘した。

「この事件の根本的な問題は、そもそも『潜逃者』を犯罪者と見なすべきではないという点だ」

黎氏はこう言い、国外で言論の自由を行使する「非暴力の提言者」に対して発行された懸賞金付きの令状は、「国際的な人権基準に適合していない」と話した。

香港政府は声明の中で、「刑事犯罪で訴追されたすべての人物に公正な審理を受ける権利がある」と述べた。

また「潜逃者」が指名手配されているのは「『表現の自由を行使した』ためではなく、外国に香港および中国本土に対する『制裁』を要請するなど、国家の安全を脅かす行為に公然と関与し続けているため」だと説明した。

しかし郭氏は、5日に父親に言い渡された量刑について、香港当局が自分と家族を見せしめにしようとしているのだと述べた。

「確かに、罪悪感に向かわなくてはならない」と同氏は述べながら、自分にはさらに大きい使命もあるのだと説明。「私が示そうとしているのは、単純なことだ。たとえ同じことが自分に起きたとしても、みんな行動し続けなくてはならないと、私は示そうとしている」のだと強調した。

「香港政府は間違いなく、私を黙らせようとしている。私が声を上げるのを、やめさせようとしている。そしてもちろん、もちろん彼らは失敗した。私は今、こうしてあなたに話しているので」

(追加取材:BBC中国語)