ジョコヴィッチ選手、コソヴォめぐり政治的メッセージ 仏スポーツ相が批判

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男子テニスのノヴァク・ジョコヴィッチ選手(36、セルビア)が、出場中の全仏オープンでの試合後、緊張が高まっているコソヴォに関して政治的なメッセージを発した。フランスのスポーツ担当相は5月31日、「適切ではない」、「二度とあってはならない」と苦言を呈した。
ジョコヴィッチ選手は5月29日のシングルス1回戦で、アレクサンダー・コヴァチェヴィッチ選手(アメリカ)に勝利した後、テレビカメラのレンズに「コソヴォはセルビアの中心だ。暴力を止めろ」と書いた。
バルカン半島のコソヴォではこのところ、北部でアルバニア系の市長が相次ぎ誕生したのをきっかけに、セルビア系住民らが抗議デモを繰り広げ、警察や北大西洋条約機構(NATO)平和維持部隊と衝突する事態となっている。
コソヴォは2008年にセルビアから独立を宣言しているが、セルビアはこれを認めていない。
ジョコヴィッチ選手のメッセージは、こうした状況に言及したものとみられる。
アメリー・ウデア=カステラ仏スポーツ相は、「プレーの場における中立性の原則」が保たれる必要があると述べた。
一方、国際テニス連盟は、4大大会(グランドスラム)のルールブックでは政治的発言が禁止されていないため、ジョコヴィッチ選手の発言は違反行為ではないとしている。
ウクライナと同レベルではないと仏大臣
ウデア=カステラ氏は、仏放送局フランス2でジョコヴィッチ選手の行為についてコメントした。
人権擁護や普遍的な価値に関するメッセージならば、スポーツ選手は自由に表現できるとした一方で、「今回のは非常に活動家的で、非常に政治的なメッセージだった。現状を考えれば特に、関わるべきではないし、二度とあってはならない」と述べた。
また、ウクライナ支援のメッセージは別だとし、コソヴォとウクライナは「同じレベル」ではないとの考えを示した。
全仏オープンでは5月28日の女子シングルスで、ウクライナのマルタ・コスチュク選手が、対戦したベラルーシのアリーナ・サバレンカ選手との試合後の握手を拒み、観客からブーイングを受けた。ベラルーシはロシアの同盟国。
ウデア=カステラ氏は、コスチュク選手の態度について、「理解できる。人々は常にフェアプレーを求め、それには握手も含まれるだろうが、痛みがあるし、私はそれを尊重する」と話した。
ウクライナのエリナ・スヴィトリナ選手は女子シングルス1回戦で勝利後、「私たちは自由な世界に生きているのだから、自分の意見を言ってもいいのではないか」と述べ、ジョコヴィッチ選手の意見表明は認められるべきだとした。スヴィトリナ選手は、ロシアの侵攻に対するテニス界の対応について繰り返し発言している。
「多くの理由がある」とジョコヴィッチ選手
ジョコヴィッチ選手はセルビアの記者団に対し、「戦争、暴力、あらゆる紛争に反対」だと表明。だが、コソヴォの状況は「国際法の前例」となるものだとし、次のように述べた。
「とりわけ私は、コソヴォで生まれた男性の息子だ。そのため、同胞とセルビア全体を支持しなくてはと感じている」
「コソヴォは私たちの揺りかごで、よりどころで、私たちの国にとって最も重要なものの中心だ。カメラにあのように書いたのには、理由がたくさんある」
「もちろん、コソヴォで起きていることや、私たちの国民が市庁舎から事実上追放されているのを見て、セルビア人としてとても心を痛めている。私にできたのはこれくらいだった」
コソヴォ側は反発
コソヴォ・オリンピック委員会は、ジョコヴィッチ選手が政治的緊張をあおったとし、国際オリンピック委員会(IOC)に懲戒手続きの開始を求めている。
コソヴォ・オリンピック委員会のイスメト・クラスニキ会長は、「ノヴァク・ジョコヴィッチはまたもセルビア民族主義者のプロパガンダを推進し、その目的でテニスの場を利用した」とした。
コソヴォのテニス連盟は5月30日、ジョコヴィッチ選手の行動が、2国間の緊張悪化という「直接的な結果」を生むだろうと述べた。
全仏オープンを主催する仏テニス連盟は、4大大会での選手の発言に関するルールはないと説明。一方で、今回の出来事が国際ニュースとなったことは「理解できる」とした。
BBCのガイ・デローニー・バルカン半島特派員は、コソヴォはセルビアの南西周縁部に位置するだけに、「コソヴォはセルビアの中心だ」というジョコヴィッチ選手の言葉は奇妙に思えるかもしれないと指摘。
しかし、コソヴォは歴史や宗教的な背景などから、多くのセルビア人にとって非常に重要な象徴的な意味があるとし、コソヴォにルーツをもつセルビア人は特に、コソヴォの独立をセルビアが承認しないよう望んでいると解説した。










