米政府、プーチン氏の娘など制裁対象に キーウ周辺からはロシア軍撤退完了と

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ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアについて、アメリカ政府は6日、ウラジーミル・プーチン大統領の娘2人を含め、政府幹部の近親者の資産凍結を含む追加制裁を発表した。米政府筋は同日、首都キーウ周辺からのロシア軍は全面的に撤退したと話した。この間、ロシア軍が後退した首都キーウ(ロシア語でキエフ)近郊ボロジャンカでも、激しい破壊の様子が次第に明らかになっている。
アメリカ国防総省の関係者は6日、「首都キーウとチェルニヒウ周辺のロシア軍は、ベラルーシとロシア領内で再編と再装備にとりかかるため、撤退を完了させた」と記者団に話した。この後、同省のポール・カービー報道官も、「ロシア軍はキーウ周辺でもチェルニヒウ周辺でも活動していない」と述べ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「戦略的目標をなにひとつ実現していない」と話した。
「実際に制圧できたのは小規模の人口集中地のみだ(中略)ハルキウも奪っていない」とカービー報道官は述べた。
ロシア軍は3月下旬、今後はウクライナ東部に注力すると発表している。
匿名を条件に発言した国防総省幹部は、ロシア軍が将来的にキーウに戻る可能性はあるが、現在後退中の同じ部隊が戻るかは不明だと述べた。

米シンクタンク戦争研究所は、キーウ周辺から後退している部隊が「戦闘態勢を回復するには、かなり時間がかかる」と指摘する。ウクライナに派遣されたロシア軍の130大隊のうち、ウクライナに残るのは80以上だという。
AP通信は米国防関係者の話として、後退中のロシア軍の兵士は少なくとも2万4000人だと伝えた。
BBCのポール・アダムズ外交担当編集委員は、西側当局者の話として、ロシアがウクライナの軍事作戦において「完全に主導権を失」っており、ロシア政府は「成功」の定義を検討中かもしれないと伝えた。
伝統的にモスクワで対独戦勝を祝う軍事パレードが行われる5月9日には、何らかの「勝利」を宣言したいとプーチン政権は考えているかもしれないものの、時間があまりないだけに、政治的な要請と現地の戦場で可能なことの間に軋轢(あつれき)が生まれる可能性があると、アダムズ編集委員は指摘する。
一方、ウクライナ東部ルハンスクで取材するBBCのジョナサン・ビール防衛担当編集委員によると、東部地域ではロシア軍の砲撃や銃撃の音が以前より頻繁に、近くで聞こえるようになり、西へ避難する民間人の車も増えている。また東の前線へ近づくと、ウクライナ軍が新しい塹壕(ざんごう)を掘るなどして、防衛の足場を強化しようとしている光景が増えていくという。
こうしたことからも、東部でのロシア軍の攻勢強化はすでに実感できるようになっているとビール記者は報告する。


ボロジャンカでも激しい被害
ロシア軍がキーウ周辺から後退するのに伴い、解放された地域では民間人の遺体が路上などに多数残されている様子が見つかった。キーウから北西約60キロのボロジャンカでも、集合住宅が全壊するなど、激しい破壊の様子が徐々に明らかになっている。
現地に入ったBBCのジェレミー・ボウエン中東編集長は、ボロジャンカ中心部の破壊について、イルピンやブチャを含めても、自分が被害を見てきたキーウ周辺の自治体の中で特に被害が激しいと話す。
ウクライナとベラルーシの国境に近いボロジャンカは、キーウを制圧しようとするロシア軍の主要侵攻ルートの途中にあり、激しい攻撃を受けたもよう。民家を含めた多数の建物や、車両が破壊されている様子から、ボウエン編集長は「これは数回きりの砲撃によるものではない。これだけ破壊するには徹底的な攻撃が必要だ」と指摘している。

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複数の住民はBBCに、崩壊した建物下から生存者を救出しようとすると、ロシア兵に銃を向けられてやめるよう脅されたと話した。
ウクライナ政府関係者は、ロシア軍はブチャで行ったよりもひどい残虐行為をボロジャンカで実施した可能性があると話している。
現時点では、ロシア占領下のボロジャンカで民間人にどのような被害があったのかは、はっきりしない。
一方、ボロジャンカより約40キロ首都に近いブチャでは、両手を縛られ処刑されたとみられる民間人の遺体が路上などで多数見つかり、数百人が集団埋葬されたことも確認された。
ロシア政府はブチャなどの民間人被害について、いずれもウクライナ政府による捏造(ねつぞう)だと主張するものの、人工衛星画像や現地住民の証言、ブチャなど現地に入ったBBCをはじめとする西側報道機関の取材によって、確かにロシア軍の占領中に複数の民間人が殺害されていたことが確認されている。
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プーチン大統領は6日、ロシア軍による住民虐殺について、「キエフ政権による粗雑で冷笑的な挑発」だと反論した。
これに対してジョー・バイデン米大統領は同日、「大規模な戦争犯罪以外の何物でもない」と非難し、「しっかりした各国は団結して、加害者に責任をとらせなくてはならない」と呼びかけた。
米政府、プーチン氏の娘たちも制裁対象に

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なぜプーチン氏の娘たちを制裁対象にするのか質問されたバイデン政権幹部は、娘たちが父親の資産の一部を管理している可能性があるからだと答えた。
「プーチンとその仲間の多く、さらにはオリガルヒ(ロシア政府支持の大富豪)も、資産隠しに家族を使い、家族はその資産や富をアメリカの金融システムなど、世界各地に分散させていると考えるだけの根拠がある」と、米政府高官は説明した。
「プーチンの資産の多くは家族名義で隠されていると我々は考えているので、家族を制裁対象にすることにした」のだという。
アメリカ政府が発表した対ロ追加制裁の対象の一部は次の通り――。
- ロシアへの新規投資禁止
- ロシア最大の民間銀行アルファバンクと最大手銀行ズベルバンク
- 主要国有企業
- ロシア政府関係者とその家族
イギリス政府も、ズベルバンクやモスクワ信用銀行なロシアの複数の金融機関と、オリガルヒ8人への追加制裁を発表した。欧州連合(EU)は追加制裁として、ロシアの石炭禁輸を検討している。
欧州はロシアの石油・ガスをどうするのか
これとは別に、EUの外交トップ、ジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は6日、2月24日の軍事侵攻開始以来、EUは10億ユーロ(約1350億円)の軍事支援をウクライナに提供してきたものの、その一方で欧州はロシアに毎日10億ユーロを支払い燃料を調達しているのだと指摘した。
ドイツを含め一部のEU加盟国はロシア産の石油・天然ガスに大きく依存しており、エネルギー産業を直接の制裁対象にすることに躊躇(ちゅうちょ)してきた。
しかし欧州委員会は5日に初めて、年間40億ユーロ(約5400億円)に相当するロシア産石炭の輸入禁止を提案。27の全加盟国の合意を目指す。
ブチャなどからロシアによる戦争犯罪の証拠とされるものが次々と浮上したことから、欧州諸国での姿勢に変化が出たもよう。

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EU加盟諸国はさらに、ロシアの銀行4行との取引を「全面禁止」し、木材、セメント、海産物、酒類など55億ユーロ相当に上る、ロシアとベラルーシからの輸入品を禁止する見通し。
また、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、EUの港をロシア船に対して閉鎖し、ロシアとベラルーシの陸上輸送業者をEU域内から排除する方針を示した。
委員長は、ロシアがウクライナの民間人に対して「残酷で冷酷な戦争を仕掛けている」と非難し、EUは「この重大な局面でプーチン大統領とロシア政府に対して最大限の圧力をかけ続ける」必要があると述べた。
しかし、リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相は5日夜、EUの制裁案を「弱腰」で「一層の残虐行為を招くもの」だと批判した。
「石炭、4つの銀行、港や国境の制限(例外あり)は、明らかになる大虐殺に対する適切な制裁パッケージとは言えない」と、ランズベルギス氏はツイッターに書いた。
「弱い制裁はロシアへの攻撃許可」=ゼレンスキー氏

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ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、フェイスブックに投稿した演説動画で、各国が対ロシア制裁を強化しなければ、ウクライナへの攻撃続行をロシアに「許可」するに等しいと述べた。
「西側諸国は今日、ロシア連邦への追加制裁を発表した。見た目は素晴らしいが、これでは足りない」として、「世界がブチャで目にした凶悪な行為に見合う内容だとは到底言えない。マリウポリでもハルキウの砲撃でも悪行は続き、ロシアはドンバスでは新たに流血の攻勢をしかけようとしている」のだと、大統領は強調した。
ウクライナは引き続き、ロシアの金融体制の「全面封鎖」を強く求め、世界中の民主国家がロシアの石油を買うことをやめるよう求めていくと、ゼレンスキー大統領は述べた。
また、いまだにロシアに立ち向かうだけの「気骨が見当たらない」一部の西側首脳について、「一部の政治家はいまだに、自分の国の経済を危険にさらしたくないため、石油取引でロシアにドルとユーロが流れ込むのをどうやって制限したらいいのか、考えがまとまらないようだ」と指摘。
「ロシアの石油への禁輸措置はいずれどうせ実施される。方法はいずれ見つかる。あなた方が、一部の政治家が、それが誰かこちらは承知しているが、どこかから少しだけ決断力を借りてくるまで、ロシア軍はいったい何人のウクライナ人を殺すことになるのか、それが唯一の問題だ」と、ゼレンスキー氏は決断を求めた。










