【検証】 ウクライナ・ブチャの住民虐殺 衛星画像がロシアの主張を否定

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Bucha bodies

画像提供, BBC/Maxar

ウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)近郊のブチャで民間人の遺体が多数見つかった問題で、ロシア軍による無差別殺人だとするウクライナ政府や西側メディアの主張をロシア政府は否定するが、人工衛星画像をはじめとする複数の証拠がロシアの主張を覆している。

ブチャ上空からの衛星画像からは、ロシア軍がブチャを離れるより2週間の時点で、街なかの道路に複数の遺体が横たわっていた様子がうかがえる。

4日の米紙ニューヨーク・タイムズが最初に伝え、BBCが確認した3月19日の衛星画像は、ブチャの民間人殺害に関するロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相の言い分を、真っ向から否定している。ラヴロフ外相は3日の会見で、複数の遺体を映したブチャ発の最近の映像は、ロシア軍が後退した後に「でっちあげ」られたものだと述べた。

しかし、米マクサー社の人工衛星がとらえた画像では、首都キーウの北西約24キロにあるブチャにウクライナ軍が入った時点で発見された複数の遺体が、3月19日にもまったく同じ場所にあった様子を映しているもよう。

動画説明, ウクライナで住民虐殺と非難され……ロシア政府や教会の反応は
Presentational white space

道路の別の場所を映した衛星画像では、ほかにも複数の遺体が路上に倒れているように見える。

Maxar Bucha

このほかにも、3月11日撮影のマクサーによる衛星画像がある。同じ場所に遺体が映っているように見えるものの、3月19日の映像に比べるとはっきり映っていない。

ウクライナ軍によると、ロシア軍は3月31日未明にブチャから撤退した。ロシア側は、3月30日に離脱したとしている。

ロシア政府はこのほかにも、ブチャで撮影された複数の映像・写真について、裏付けのない反論や否定を繰り返している。実際に得られている証拠に照らして、検証してみる。

注意: この先にはショッキングな写真が複数掲載されています。

ロシアの主張:「遺体はフェイク」→衛星画像や報道写真で反証

ロシア軍がブチャを離れた後、市内を走る車から撮影された映像には、道路の両側に放置された遺体が映っていた。

在カナダのロシア大使館はその動画をツイートし、「キエフ近郊のブチャで、遺体を偽装したやらせビデオ」と書いた。映っているのは本物の遺体ではないと主張した。

BBCは、ロシアがブチャを占領していた3月19日時点の衛星画像と、車両から撮影された動画をした。

その結果、衛星画像でも車両からの動画でも、複数の遺体が道路の同じ場所(上の写真で赤く囲った部分)、同じ車体(黄色で囲った部分)の近くに倒れていた。

Reality check Bucha

親ロシア派のソーシャルメディア(SNS)アカウントはこれに加えて、スローモーションにしたこの動画を広く拡散し、遺体のひとつの腕が動いたと繰り返した。

動画の画像は粗いが、詳しく分析すると、ロシア大使館などが「遺体の腕が動いた」と主張するのは実際には、車のフロントグラスの右下にある何かの形だということが分かる。

動画説明, 【検証】 路上の遺体が「動いた」と親ロシア派は言うが……実際には雨粒か泥か

BBCが作成した上の検証動画内で、雨粒か泥のかけらに見えるこの形を円で囲った。同じ動画内のこれより早い時点で、フロントグラスに見える同様の形も囲った。

親ロシア派はさらに、この動画の別の細部についても指摘する。動画を撮影している車は、別の遺体を通過する。遺体は、赤と黄色の敷石が敷かれた歩道と壊れた茶色の柵の隣に、横たわっている。

車が前進すると共に、右手のサイドミラーに遺体が一瞬だけ映る。親ロシア派のSNSアカウントは、その時に遺体が「起き上がる」と主張する。

しかし、動画の速度を落として確認すると、サイドミラーが明らかに遺体の反射や背景の家並みをゆがめているのが、はっきり見て取れる。

Still of video

画像提供, Ukraine Defence Ministry

画像説明, ブチャを走る車内から撮影した動画で、車のサイドミラーに遺体が映っていた

同様に、インターネットに投稿された複数のサイドミラー映像でも、同じ現象が起きている。

4月2日に投稿されたビデオ内の遺体2つを、BBCは4月3日にゲッティーとAFP通信が提供した高画質写真の内容と合致させた。

Still of video

画像提供, BBC/Getty

動画では、一つ目の遺体は白と黄色の敷石の近くで、あおむけに横たわっている。遺体の右にある歩道は、半分がアスファルトで半分は芝だ。歩道には、白い策を前にトランクが開いた銀色の乗用車が見える。

ゲッティ/AFPの写真でも、同じ乗用車、敷石、歩道、そして柵が確認できる。

Still comparison

画像提供, BBC/Getty

2つ目の遺体は黒いジャケットを着て、右腕に血で染まった包帯か止血帯をしているように見える。壊れた茶色い柵の前、歩道の赤と黄色の敷石の隣で、横向きに倒れている。

黒いジャケットも、包帯もしくは止血帯も、歩道も柵も、どれもゲッティ/AFPの写真に写る遺体の写真と合致する。

ロシアの主張:遺体が「硬直していない」 →すでに硬直が解ける時期と専門家

ロシア外務省はブチャで見つかった遺体について、「キエフ政権が発表した写真では、4日もたつのに写っている人の遺体が硬直していない。これは特に懸念される」とツイートした。

人間が死亡してから数時間、人体はいわゆる「死後硬直」状態になり、筋肉がこわばる。

死後4日の遺体が「硬直」しているものなのか、私たちは法医病理学者に質問してみた。戦争犯罪捜査でコソヴォやルワンダなどの現場経験があるこの人物は、匿名を希望した上でBBCに対して、死後4日たてば通常は、死後硬直状態は「緩解」しているものだと話した。

Body bags in Bucha

画像提供, Getty Images

画像説明, ブチャで路上の遺体を運び人たち

前述のロシア外務省のツイートはさらに、遺体に「典型的な死体の染みがない」と書いた。

これが何を意味するのかはっきりしないが、私たちが意見を聞いた病理学者によると、銃創をはじめとする暴力行為で死亡した遺体の外見は、使用された武器、あるいは撃たれた距離などによって、大きく異なるのが常だという。

銃で撃たれて死亡したからといって、大量の血が遺体の周囲に見えるとも限らない。出血は遺体の下にたまることもあるし、被害者が寒冷期の服装をしていれば服に吸収されることもある。

ロシア外務省のツイートは、「死斑」の話をしているのかもしれない。これは、血流の停止に伴い血液が遺体の下位に集まり、外部からは暗赤色や暗紫赤色に見えることを言う。

しかし、横たわった遺体の場合、この血液の沈下とそれによって外部から見える皮膚下の色は、周囲から撮影した写真だけでは見えないことがあり得る。

ロシアの主張: 「現地住民は誰一人として暴力行為で苦しんでいない」→複数住民が否定

ロシア国防省は、ロシア占領中下のブチャで、 「現地住民は誰一人として暴力行為で苦しんでいない」と主張した。

しかしこの主張は、複数の現地住民の目撃証言によって否定されている。

動画説明, ウクライナ首都郊外に残された数々の遺体 ロシア軍車列の残骸も

地元の教師は3月4日、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチに対して、ロシア軍が住民男性5人を連行して、そのうち1人を処刑したと話している。

ロシア語調査サイト「The Insider」に話をした地元住民も、同様の証言をしている。「ひどい毎日だった。自分の中庭も自宅も自分の命そのものも、自分のものではない日々だった。電気も水道もガスもない。外出は禁止されている。外に出れば、射殺される」と、住民のクリスティナさんは同サイトに話した

現地の人たちはBBCに対しても、ロシア兵が組織的に集合住宅の玄関をひとつひとつ押し破り、各家庭の貴重品や食べ物を盗み、住民はその間、地下室に押し込められていたのだと話している。

取材:ジェイク・ホートン、シャヤン・サルダリザデ、レイチェル・シュレア、オルガ・ロビンソン、アリステア・コールマン、ダニエレ・パランボ動画:サラ・グラッティ、ジャクリーン・ガルヴィン