「死を偽装している」との誤った主張、イスラエル・ガザ戦争で急増 和平実現に影響も
オルガ・ロビンソン、シャヤン・サルダリザデ、BBCヴェリファイ(検証チーム)

画像提供, Getty Images
パレスチナ自治区ガザ地区で今月1日、イスラエルとイスラム組織ハマスの間で7日間続いた戦闘休止が終了した。病院の前では、生後5か月で死亡したパレスチナ人のムハンマド・ハニ・アルザハルくんの遺体を、母親と祖父が抱いていた。
しかし、赤ちゃんの遺体を抱きながら悲嘆に暮れる家族をとらえた映像がソーシャルメディアで拡散されると、映っているのは本物の赤ちゃんではなく単なる人形だとの主張が、多数投稿された。
これらの主張は、イスラエルの有力紙「エルサレム・ポスト」が記事にしたことで増幅された。同紙は死後硬直したアルザハルくんの画像を載せ、これが人形であることが証明されたと書いた。その後、反発を受け、同紙はウェブサイトから記事を削除。「誤った情報源に基づく報道だった」とソーシャルメディアに投稿した。
この数週間前には、イスラエル人のロテム・マティアスさん(16)とその姉妹シャクケドさん、シルさんの3人に関する動画がオンライン上で拡散された。ロテムさんは10月7日、ガザ地区との境界に近いイスラエル南部のキブツ(農業共同体)にある自宅で身を潜めていた際に、両親がハマス戦闘員に殺害されるのを目撃した。
拡散された動画は、きょうだいがハマス奇襲の数日後に米ABCとCNNのインタビューに応じた際のクリップを編集したものだった。動画は3人が「クライシス・アクター(緊急事態を偽装するために雇われた俳優)」で、両親の死についてうそをつき、カメラの前で笑いをこらえるのに必死だったと、誤った主張をしている。

画像提供, ABC News
いずれの動画も、数百万回再生されている。これらは、イスラエル・ガザ戦争におけるソーシャルメディア上の分断を示す二つの例に過ぎない。この戦争に関するオンラインでの議論で表面化しているのは、残虐行為や人々の苦しみの否定だ。
被害を過小評価
ガザ地区で人々が受けている苦しみを否定あるいは過小評価するのに使われる重要な言葉の一つに「パリウッド(Pallywood)」がある。「パレスチナ」と「ハリウッド」を組み合わせた軽蔑的な造語だ。これを広めようとする人たちは、パレスチナ人「クライシス・アクター」が本物の民間人犠牲者を装い、そのフェイク映像や演出された映像が定期的にオンラインで共有され、世界のメディアを欺いていると主張している。
BBCヴェリファイ(検証チーム)の分析では、米ソーシャルメディア「X」(旧ツイッター)上だけでも、「パリウッド」という言葉への言及がこの10年間で最も急増したことが分かる。
イスラエルとパレスチナの紛争が再燃した2014年、2018年、2021年には、「パリウッド」に言及する投稿が1カ月あたり9500~1万3000件みられた。今年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲後の11月には、それが22万件に達した。
BBCヴェリファイは、Xやフェイスブック、インスタグラムといったソーシャルメディアでこの数カ月間に「パリウッド」という言葉をシェアしていた人たちの中に、イスラエルの政府関係者やセレブ、イスラエルとアメリカの人気ブロガーたちが含まれていたことを発見した。
一方で、パレスチナ側を支持する人々には、10月7日にハマスが行った残虐行為を否定するのに使う単語はない。だが、残虐行為を否定する内容の投稿は、日常的に何百万回も閲覧されている。中には、ハマスがあの日、民間人を殺害していないとしたり、民間人死傷者の規模が大幅に誇張されているとしたりする、誤った主張もある。さらには、犠牲者の大半が実際にはハマスではなくイスラエル国防軍(IDF)に殺害されたという虚偽の主張をする人さえいる。
和解努力の専門家たちは、相手側の苦しみを否定する偽情報の拡大は人間性を奪い取るようなもので、被害を受けたコミュニティー同士の関係修復の長期的な見通しに影響するかもしれないと懸念している。

「最大のリスクは信頼の損失と共感の損失だと、私は考える」と、紛争や政治的暴力、テロ行為の被害者を支援する慈善団体「ティム・パリー・アンド・ジョナサン・ボール平和財団」のハリエット・ヴィッカーズさんは述べた。
「これは、和解努力へのアプローチを開始する能力さえも損なうものだ」
さらに、虚偽の話や人間性を奪うレトリックは、「暴力行為の直接的な影響を受けている人々以外にも大きな影響を及ぼし、実際にこうした個人が受けている傷をさらに悪化させる可能性がある」と付け加えた。
「クライシス・アクター」
「クライシス・アクター」や「残虐行為の否定」に関する虚偽の話は、偽情報の研究者にとっては目新しいものではない。
とりわけ、特定の悲劇や災害について当事者を装ったり金銭を受け取って演じたりする「クライシス・アクター」という概念は、陰謀論を推進する人々の間で長年にわたり広く好まれてきた。
2012年に米コネチカット州のサンディーフック小学校で26人が殺害された銃撃事件をめぐっては、死亡した子供たちの親が悲劇を偽っているとの主張があった。事件はうそだと主張し続けた著名司会者は、410万ドル(約5億5000万円)の損害賠償を遺族に支払うよう命じられた。
ここ数年では、ロシアによる侵攻が続くウクライナのブチャで起きた民間人の虐殺や、シリアでの戦闘の被害についても、同様の主張が拡散された。
しかし、イスラエル・ガザ戦争の最中に投稿された人間性を奪うレトリックの多さに対しては、こうしたコンテンツを日常的に扱う人々さえ驚いている。
近年、シリアとウクライナでの戦争を報じてきた調査サイト「べリングキャット」の創設者エリオット・ヒギンズさんは、現在のイスラエル・ガザ戦争における偽情報の量について、「この戦争特有」だと指摘する。
「私はシリアやウクライナについても同じような有害性の強さや卑劣な反応、偽情報、女性や子供の扱い方、そのほかの多くのものを見てきた。だが(イスラエル・ガザ戦争では)そういうことをする人がより多い」と、ヒギンズさんはBBCに語った。

画像提供, Mahmoud Ramzi
<関連記事>
多くの人が長年にわたるイスラエルとパレスチナの紛争当事者のいずれか一方について非常に強い意見を持っているため、「感情的に共鳴して何かをシェアする人がより多くみられる」のだと、ヒギンズさんは付け加えた。
「それが真実かどうかは彼らにはまったくどうでもよくて、彼らはただそれを真実らしいと感じている」
11月には、子役の顔に血に見える化粧をする様子を映した動画が、イスラエル首相府のオフィル・ゲンデルマン報道官によってソーシャルメディア「X」に投稿された。
「負傷者を偽装し、カメラの前で『負傷した』市民を避難させているのをご覧ください。パリウッドがまたつかまった」と、ゲンデルマン報道官は書いた。この動画は数百万回再生され、その後削除された。
実はこの動画は、10月にオンライン上に投稿された、45秒間のレバノン映画の舞台裏映像だった。同映画はガザ市民に敬意を表して制作されたものだった。
マフムド・ラムジ監督はインスタグラムで自身の映画をめぐる虚偽の主張を否定。イスラエル側が発信した偽情報が結局は裏目に出て、この映画がはるかに大勢の観客に届くことになったかもしれないと、BBCに述べた。
BBCはゲンデルマン報道官にコメントを求めたが、反応はなかった。

画像提供, Getty Images
オンライン上での偽情報合戦の渦中にある、現実の人たちを憂慮する声もある。ロテムさんたちをインタビューした米ABCのジェイムズ・ロングマン特派員は、ロテムさんが両親の死を語るのを見て、自分とカメラマンは涙を流したのだと語った。
「彼(ロテムさん)も姉妹も涙を流し、一緒にいた彼らの祖父も泣いていた。私たちのカメラマンも、病院のポーターも、看護師も医者も、そして私も泣いていた。彼の話をあの場所で聞いていた私たち全員が泣いていた」と、ロングマン氏はBBCに述べた。
「彼(ロテムさん)が何が起こったのかを説明する中で、彼の言葉を聞き、彼の反応を見るというのは並大抵のことではなかった」
ロングマン特派員はロテムさんきょうだいに関する虚偽の主張がオンライン上で共有されているのを見てショックを受け、こうした主張を否定するためにXに投稿したという。その投稿は広く共有され、きょうだいに関する拡散されたメッセージの少なくとも一つは、その後、投稿者によって削除された。
「だからといって、ロテムさん一家にとって恐ろしい状況であることに変わりはない」と、ロングマン特派員は述べた。








