サムスンの「皇太子」が復権へ 韓国政府はなぜ恩赦を認めたのか

A protester holds up a placard with Samsun heir Lee Jae-yong's face on it in an anti-government corruption protest in 2o017

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画像説明, サムスン電子の李在鎔氏の顔が載ったプラカードを掲げる抗議者(2017年)

韓国政府は12日、2017年に贈賄や横領などの罪で有罪判決を受けたサムスン電子の後継者で事実上トップの、李在鎔(イ・ジェヨン)副会長について、15日に実施する大統領による特別赦免(恩赦)の対象にすると発表した。

李氏は、韓国で最も有力なホワイトカラーの犯罪者の1人だ。韓国大統領を罷免された朴槿恵(パク・クネ)元大統領への贈賄罪で2度収監されている。

韓国政府は、国内最大企業の事実上のリーダーは、新型コロナウイルスのパンデミック後の経済回復の先頭に立って、再び指揮を執る必要があるとして、特別赦免を正当化した。

特別赦免の決定は、6年前に大規模な抗議活動が首都ソウルを占拠し、朴氏を大統領の座から追放して以来激しさを増してきた、国の運営方法をめぐる闘争での新たな揺り戻しとなった。

贈賄で多くの国民が抗議

李氏の犯罪は、2013年から2017年まで在任した朴元大統領の投獄につながった汚職スキャンダルと直接的な結びつきがあった。

李氏は抗議者から「サムスンの皇太子」と呼ばれていた。一族によるサムスン帝国における自分の支配力を強化するため、株主が反対するサムスングループ傘下の2社の合併について政府の支持を得ようと、朴氏とその仲間に800万ドルもの賄賂を渡した。

このことが明らかになると、何百万人もの国民が2016年暮れから2017年にかけての冬の毎週末、ろうそくをともして抗議した。

Protesters pack the forecourt outside the Presidential Palace in Seoul during the 2016/2017 anti-corruption protests

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画像説明, 朴氏と汚職に対する抗議行動には数百万人が参加した。画像は青瓦台(大統領府)前に詰めかけた抗議者たち

朴氏は2016年12月に弾劾訴追案が韓国国会で可決され、2017年3月に罷免された。

後任の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、この混乱を一掃する任務を負って大統領に就任したが、大きな前進はなかった。文氏は任期満了が迫る中、朴氏の赦免を決めた。

それから8カ月後、今度は尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領から同じように、李氏も赦免を受けることとなった。

この決定は、汚職と闘ってきた人々を落胆させる一撃になったといえる。

「これは後退だ。韓国がろうそくデモ以前に後退してしまうことを意味する」と、ソウル大学で経済・産業政策を研究するパク・サンイン教授は指摘した。

「たこ足型」企業の影響力

韓国では一族経営の巨大財閥(チェボル)が同国経済を牛耳っており、上位10社で国内総生産(GDP)の約8割を占めている。LG、現代自動車、ロッテ、SKなどがそれにあたる。

その中で最も巨大かつ強力な企業がサムスンだ。

Lee Jae-yong

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画像説明, 李氏(右)は2017年に贈賄と汚職の罪で初めて収監された。その後、2度にわたり釈放された

世界最大のスマートフォンメーカーとして、国際的エレクトロニクスのブランドを確立している。しかし韓国国内では、病院やホテル、保険、広告、さらには造船所やテーマパークの運営など、さらに手広くビジネスを展開している。

そして、その触手は長い間、韓国政治の最高レベルにまで入り込んできた。2016年の抗議活動の場にいたというトロント大学の政治社会学者イ・ユンギョン氏は、怒りの大半は朴氏の個人的な行動に向けられていたが、労働活動家などはチェボルが政府に与える並外れた影響力について強調しようとしていたと語った。

朝鮮戦争の後、チェボルは政府から多大な支援を受けてきた。安価な電力や税制優遇、「バイ・コリア」政策、さらには組合運動の弾圧でも協力を得た。

しかし、その結果として誕生した独占企業は競争を押しつぶし、労働運動を抑制した。こうしたやり方が数十年にわたる贈賄や汚職事件を生み出した。

裁判では多くの場合、チェボルの経営陣に対しては軽い刑や執行猶予が言い渡されると、トロント大学のイ教授は述べた。チェボルのリーダーが活動停止に追い込まれれば経済が悪化する可能性があると、裁判官が述べたケースもあったという。

実際、李氏の父親の李健煕(イ・ゴンヒ)氏はサムスンの会長だった1990年代に贈賄と詐欺の罪で有罪判決を受けたが、1日たりとも刑務所に入らなかった。

そのため、2017年に息子が懲役5年の有罪判決を受けて独房に連行された際には、この事件が転機になることを活動家たちは期待した。

収監、そして釈放

しかし、歓喜は長くは続かなかった。李氏の法廷闘争は最もドラマチックな韓国の連続ドラマに匹敵する紆余(うよ)曲折を経て、何年も引き延ばされた。

控訴審では釈放が認められ、その後再審が命じられると、再び有罪となり収監された。

しかし、2度目の収監からわずか数カ月後には、国益のためだとして、文政権が仮釈放を決めた。

以降はサムスンの顔として復帰し、今年5月には訪韓したジョー・バイデン米大統領を出迎えた。

Lee

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画像説明, 5月に訪韓したジョー・バイデン米大統領(右)と握手を交わす李氏

李氏は現在も、企業評価の不正操作や不正会計、判決に反してサムスンの経営判断を行ったなどとして刑事責任を問われている。赦免を受けることで、今後は経営責任者としての職務を完全に再開できるようになる。

この流れは、有罪判決を受けたチェボルのリーダーが過去の出来事を帳消しにされるという、これまでのパターンと一緒だ。

「正式な権力ということになると、大統領府と国会(立法府)で、彼らが法律を制定している」とイ教授は言う。

「しかし、政治的影響力や文化的影響力、あるいは韓国社会におけるチェボルの重要性について人々がどう考えるかということになると、互いに利害関係のある保守的な政財界エリートの連合体が、権力を握っていることになる」

賛否

ソウル大学のパク教授は、「チェボルの支配者に赦免を与えることは、歴史的に見ても経済成長や経済の転換には寄与していない」と述べた。

複数のアナリストは、サムスンは李氏が刑務所に入ったり出たりしている間、完璧に機能していたと指摘している。改革論者は、韓国は何年も成長が鈍化しているチェボルへの依存を終わらせる必要があると主張している。

一方で、最近の世論調査では、李氏の赦免を支持すると答えた人は70%に達している。

イ教授は、「サムスンがうまくいけば、韓国もうまくいくという、核となる信念がある。韓国人は何十年もこの神話とともに生きてきたので、それから抜け出すのは本当に難しい」と説明する。

「今現在、経済が低迷している中で、人々は自分たちが前進していることを示す具体的な兆候を見たいと思っている。彼らにとって李氏の釈放はそうした兆候なのだ」

取材協力:BBCコリア語