【東京五輪】 オリンピックを彩るライバルたちの物語

Kyle Snyder, MyKayla Skinner, Rafael Aghayev, Sifan Hassan

平和、連帯、リスペクト。人類の普遍的価値の象徴として存在するオリンピックは、一方で、一流のアスリートたちが火花を散らす戦いの場でもある。

戦いのスパイスとなってドラマを生み出すのが、しのぎを削るライバルの対決だ。

世界最大級の祭典での、見る人も巻き込まれるようなライバルたちの物語を紹介しよう。

リリー・キング(アメリカ)とユリア・エフィモワ(ロシア)=競泳女子100m平泳ぎ

Lilly King and Yulia Efimova

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画像説明, リリー・キング(左)とユリア・エフィモワ

テレビがあおり、仕立て上げたライバル関係だ。

2016年のリオデジャネイロ五輪。予選レースに臨む19歳のリリー・キングは、自身の出番を待つ待機場で、1組前のレースを注意深く見守っていた。その視線の先にいた選手こそ、前年の世界選手権王者、ロシアのユリア・エフィモワだった。

ロシアはこのとき、国家ぐるみでドーピングをしていた実態が世界反ドーピング機関の調査によって明らかになり、国際的な批判を浴びていた。

エフィモワは13年に禁止薬物のステロイドを使用したとして16カ月間の出場停止処分を受けている。

予選レースが始まり、1着でゴールしたエフィモワは人差し指を高々と掲げた。自分こそがナンバーワンだとそう宣言するかのように。

これに反応したのが待機場のキングだった。エフィモワのナンバーワン宣言を打ち消すように指を左右に振るその姿が、テレビカメラに捉えられて会場のスクリーンに映し出される。

メディアがこれに飛びつき、キングは予選レース直後のインタビューでエフィモワがドーピングしていた過去を蒸し返して非難した。

注目の決勝レースを制し、金メダルを獲得したのはキングだった。観客のブーイングを浴びながら泳いだエフィモワは2着で銀メダルに終わった。

それから5年がたった今、2人の関係はそこまで険悪なものではないが、それでも互いへの悪感情は消えていない。今年6月、ウェブメディア『ジ・アスレティック』のインタビューに応えたキングは、ライバルについて語っている。

「お互いが好きかって? それはない。でも、今は礼儀正しくできるし、同じ部屋にだっていられる」と言うと、こう続けた。

「体内に何を摂取するかは、自分で管理するもの。ミスだったのかもしれないが、摂取したのは彼女自身。私はそれを許すつもりはない」

ラファエル・アガエフ(アゼルバイジャン)とルイジ・ブーザ(イタリア)=空手男子組手75kg級

Rafael Aghayev and Luigi Busa

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画像説明, ラファエル・アガエフ(左)とルイジ・ブーザ

発端は、2012年のあの一件だった。

パリであった世界選手権の決勝で両者は対戦し、ルイジ・ブーザが優勝した。足首の骨折を押して戦い、前年の決勝で敗れた王者ラファエル・アガエフを倒したうれしさから、ブーザは2万人のファンの前で武道の礼を失してしまう。

試合後の握手とお辞儀をしなかったばかりか、腰をくねらせて踊り始めたのである。世界的に大流行していたヒットソング『江南スタイル』の振り付けだった。

世界王者に5度輝き、当時の世界空手連盟会長から「空手界のディエゴ・マラドーナ」とたたえられていたほどのアガエフは、ブーザの非礼な振る舞いは許し難いものだったと憤る。

「私の目の前でダンスを始めた。いい気持ちはしなかった。それから6〜7カ月、私は閉じこもりがちになった」

ブーザは、「アガエフと親しい間柄でないことは確かだ」と認める。

「彼を侮辱するつもりはなかった。自分の中に湧き上がる喜びを素直に表現しただけだ。彼のことはとても尊敬している。やり返すというなら、それはそれで仕方ない」

アガエフはどんなダンスを用意しているだろう。マカレナ? ソルジャー・ボーイ? それともドギー・ダンス?

シファン・ハッサン(オランダ)とローラ・ミューア(イギリス)=陸上女子1500m

Sifan Hassan and Laura Muir

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画像説明, シファン・ハッサン(左)とローラ・ミューア

2019年の世界陸上ドーハ大会で、シファン・ハッサンは歴代6位の好タイムで優勝した。この結果は素直に受け止められないと、疑問の声を上げたのが、このとき5着に終わったローラ・ミューアだった。

レースの4日前だった。ハッサンのコーチを務めるアルベルト・サラザール氏が、ドーピングに関与していたとして4年間の資格停止処分を受けたのだ。

「(サラザール氏の)ニュースがあったから、灰色の雲がかかっている。それは当然のこと」とミューアは話した。

ハッサンはこの疑惑を否定した。「否定」は控え目な表現だが。

レース後のインタビューで、彼女はかなり激しい言葉で反論した。中継した『BBC』は何度かピー音を入れなければならなかったほどに。

ハッサンは最高の状態で東京五輪に臨もうとしている。今年6月、1万メートルの世界記録を樹立した。ただ、この記録は2日後、エチオピアのレテセンベト・ギデイにすぐに更新されてしまった。

ハッサンは1500メートル、5000メートル、1万メートルの3種目でオランダの代表に選ばれた。対するミューアは800メートルを断念して1500メートルだけに絞った。

「公正に戦いたい、それだけ。自分でコントロールできることは限られている」とミューアは言う。

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シモーン・バイルス(アメリカ)とミカイラ・スキナー(アメリカ)=体操女子跳馬

Simone Biles and MyKayla Skinner

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画像説明, シモーン・バイルス(左)とミカイラ・スキナー

シモーン・バイルスは説明不要のスーパースターだ。19歳で挑んだ前回のリオデジャネイロ五輪で4つの金メダルを手にし、世界選手権でも多数のタイトルを獲得している。すでに史上最高の体操選手の一人と言われるほどだ。

バイルスとは同い年ながら、その背中をずっと追いかけてきたのがミカイラ・スキナーだった(誕生日はバイルズから遅れること3カ月)。ナショナルチームに名を連ねていても、どの種目でも代表の座を勝ち取ることができず、リオ五輪はリザーブメンバーとしての参加だった。「毎晩泣いていたかもしれない」とスキナーは当時を振り返る。

帰国後のスキナーはナショナルチームの強化プログラムを離れ、ユタ大学に入学する。すると、たちまちのうちにカレッジ体操界を席巻した。

今年6月の全米選手権でスキナーは跳馬でバイルスに次ぐ2位となり、続く代表選考会で最後5人目の代表の座をつかみ取った。

はい上がって夢をかなえたスキナーの物語は、だれからも共感を集めるわけではない。笑顔が基本の体操界で、彼女はしかめっ面をする。思ったことを口にする。正当に評価されていないと、ジャッジにかみついたこともある。試合の場で、あるいはソーシャルメディアで。

リオ五輪のリザーブに決まったときも、ツイッターで過激なリアクションをした。代表選考に批判的な、つまり自身の肩を持つ投稿をリツイートしたその中に、人種差別的な絵文字付きの投稿や、ロンドン五輪の金メダリストでアフリカ系のガビー・ダグラスの顔をスキナーの顔に入れ替えた加工写真付きの投稿を選んでいたのだ。スキナーは後日、謝罪してそれらのリツイートを削除している。

カイル・スナイダー(アメリカ)とアブドゥルラシド・サドゥラエフ(ロシア)=レスリング男子フリースタイル96kg級

Kyle Snyder and Abdulrashid Sadulaev

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画像説明, カイル・スナイダー(左)とアブドゥルラシド・サドゥラエフ

「友好的だよ」

カイル・スナイダーは、アブドゥルラシド・サドゥラエフとのライバル関係をそう説明しながらも、次のように言葉を継いだ。

「でも、マットの上では彼をたたきつぶす」

リオデジャネイロ五輪の86kg級で金メダルを獲得したサドゥラエフが、その後、スナイダーの96kg級に階級を上げてから、2人は直接ぶつかり合う宿敵同士となった。

ロシア・ダゲスタン共和国の山岳地帯で生まれ育ったサドゥラエフは、飾らない人柄がにじみ出るインスタグラムが大人気だ。土地を耕したり、祈りを捧げたり、馬に乗ったり、列車に乗ったり。そんな日常の何気ない風景を切り取った投稿が評判を呼び、フォロワーは100万人を超す。

一方の米メリーランド州出身のスナイダーは、高校時代からレスリングの花形選手。リオ五輪の金メダルなど功績がたたえられ、2018年のドナルド・トランプ政権下で大統領フィットネス・スポーツ・栄養審議会の委員に任命された。

両者の直接対決は、過去に2度ある。17年世界選手権の決勝では、スナイダーが試合終盤にポイントを逆転して劇的な勝利を収めた。18年世界選手権の決勝は、サドゥラエフの雪辱の舞台に。開始からわずか70秒でフォール勝ちを収めた。

3度目は、おそらく東京五輪の決勝。実現すれば、未来に語り継がれる名勝負になるはずだ。

ジーナ・アベリナ(ロシア)とマリーナ・アベリナ(ロシア)=新体操個人総合

Dina and Arina Averina

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画像説明, ジーナ・アベリナとマリーナ・アベリナ

ライバルというより、家族のストーリーだ。ジーナとマリーナは姉妹、それも一卵性双生児で、ともに新体操の道に進み、ともに金メダルを目指してきた。

より才能に恵まれているのは妹のジーナのほうだ。2017年から19年まで世界選手権を3連覇した。

ジーナより20分早く生まれた姉のアリーナは、所作の美しさに定評がある。今年6月の欧州選手権ではジーナを抑えて優勝した。

ジーナは動きがダイナミック、アリーナは手具を扱う技術が確か。

ジーナは自身の演技スタイルを「血も涙もない」と表現する。「ファンからは戦車とか、ターミネーターとか呼ばれる」と言う。

アリーナは選手としてのジーナを「私よりもタフ」と認めながら、自分自身も決して悠長に構えているわけではないと、対抗心をのぞかせる。

「普段は心穏やかに生活していても、練習中の私は違う。だれも近づきたがらないでしょうね。自分の性格をわざと違って見せたりもする」

アリーナに「リトル・タイガー」のニックネームを付けたのはジーナで、その名前でスマートフォンに登録している。アリーナは言う。「子どもの頃はけんかばかりしていた。理由なんてなかった」

長じた2人はけんかすることもなく、「ライバル心もない」とジーナは言う。「自分よりアリーナことを大切に思うし、その気持ちはアリーナも同じ」

はたしてそうだろうか。東京五輪の金メダルがどちらか一方の手に渡ることになっても、姉妹の美しいハーモニーは乱れることがないのだろうか。