戦争がベイルート中心部に拡大 イスラエルが高級ホテル攻撃、現場の様子は

多層階の建物のクリーム色の外壁が破壊され、レンガがむき出しになっている。ヤシの木も映っている

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画像説明, イスラエルによる攻撃で損傷したラマダプラザ・ホテル(8日、レバノン首都ベイルート)
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アリス・カディ上級国際担当記者(ベイルート)

8日午前1時30分ごろ、レバノンの首都ベイルート中心部ラウシェ地区で、大きな爆発音が響き渡った。

戦争が始まって以来、イスラエルの爆撃がベイルート中心部を直撃したのは初めてだった。レストランやホテルが立ち並ぶ活気ある海沿いの地域でのことだ。

空爆されたのは、四つ星のラマダプラザ・ホテルだった。

イスラエル軍は、ホテル内でイランの工作員たちが秘密会合を開いていたと主張した。イラン政府はこれを否定している。

攻撃は予告なしに行われ、地元住民や避難者は何が起きたのか確かめようと窓やバルコニーに駆け寄った。ラマダン(イスラム教の断食月)期間中でまだにぎわっていた通りにいた人々は、身をかがめて避難した。

イランが支援する武装組織で政治勢力でもあるイスラム教シーア派組織ヒズボラと、イスラエルが戦闘を再開してから、この日で1週間だった。その間、レバノンはイスラエルに何百回も攻撃された。公式発表によると、攻撃の多くで建物が丸ごと倒壊し、約500人が死亡している。

当初の攻撃は主にレバノン南部、東部のベカー渓谷、そしてヒズボラとシーア派住民が主に住むベイルート南郊に集中していた。

しかし、ベイルート・ラウシェに対するイスラエルのドローン攻撃は、それまでの対象地域から大きく離れ、高層ホテルの4階を狙った。案内サイトによると、ラマダプラザ・ホテルは、「世界水準のサービスで(客を)セレブリティのようにもてなす」ことを売りにしている。

17階のベージュ色のコンクリート製高層ホテルの建物が、青空を背に立っている。四角い窓が規則的に並ぶ格子状の外観。建物下部の中央寄り、4階付近の一部が損傷し、窓は吹き飛び、その周囲のコンクリートは黒く焦げて変色している。白い長方形の枠がこの損傷箇所を囲み、「8日午前1時半に4階部分が被弾した」と説明書きが添えられている。

レバノン保健省の当初の発表では、8日の攻撃で4人が死亡し10人が負傷した。身元は明らかにされていない。

イスラエル国防軍(IDF)は、攻撃で死亡したのは男性5人で、イラン革命防衛隊の海外作戦を担当する精鋭コッズ部隊のメンバーだったと発表した。ヒズボラへ資金を移転する役割を持つ幹部や、情報収集を専門とする指揮官が含まれていたと、IDFは述べた。

この攻撃についてイランは当初コメントしていなかったが、米ニューヨークのイラン国連代表部が10日夜になって書簡を公表。イスラエルが「イラン・イスラム共和国の外交官4人を卑劣なテロ殺害によって暗殺した」と非難した。

ヒズボラは攻撃や標的についてコメントしていない。

ホテルの敷地は広く、この攻撃は一角のみを狙ったものだったが、通行人も負傷した。戦争が自分たちのところまで到達したと、首都中心部の住民の間に恐怖が広がった。

「ここでこんなことが起きるなんて、ここがそういう地域だなんて思ってもみなかった。もちろん怖い」。47歳のヤヒヤ氏は9日、近所のスターバックスでコーヒーを待ちながら話した。

「中にずっといると頭がおかしくなりそうだったので外に出てきたけど、怖いです。隣に立っているのがどういう人か、隣のビルに誰がいるのか分からない。爆撃は多くの場合、事前の警告があるけれども、暗殺の場合は警告なんてないし、イスラエルは周りの通行人のことなんか気にしないので」

海沿いのマンションに住むヤヒヤ氏は、ベイルート南部が攻撃される音は自宅からはほとんど聞こえなかったと話す。しかし、8日未明の爆発音は家や商店を揺らすほど響き渡り、彼をたたき起こしたのだという。

窓が割れた車がラマダ・プラザ・ホテルの近くに停まっている。

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画像説明, ホテル攻撃の衝撃で、近くに駐車してあった車の窓ガラスが割れた

ホテルの真下にある駐車場では、ムーサ・ホドール氏(33)がコーヒー売店で働いていた。

レバノンでは、イスラエルのドローンが頭上でうなる音は日常茶飯事だったため、8日未明の当時にその音がしても、特に気にしなかったという。しかし、爆発音が鳴り響くと同時に、床に伏せた。

「ものすごい衝撃だった。あたり一帯が揺れた。自分の子ども4人が(駐車場の端の簡易小屋で)寝ていたので、駆け寄って無事を確認した。けががなくて本当に良かった。子どもたちは泣いてた」

子どもたちは無事だったが、いとこで同名のムーサ氏(30)が飛んできた破片で負傷した。

シリア出身のムーサ氏は9日夜に退院した直後、BBCの取材に応じた。

「ヒヨコ豆ほどの大きさ」の破片が脚を貫いたのだという。「爆発音と、ガラスが降ってきたことしか覚えていない。とても痛かった」。

彼は祖国での戦争を逃れるため、2013年にレバノンに避難してきた。しかし、今ではレバノンも安全に思えないという。

「ラウシェ以外なら、どこでもこういうことはあり得ると、その覚悟はあった。脚で済んで本当に良かった」

地中海沿岸のベイルート中心部を斜め上から撮影した全景写真。ラマダプラザ・ホテルの輪郭が白く囲われ、名前が書かれている

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一方、今回の事態を意外に思わないラウシェの住民もいる。

この地域の高級ホテルは、通常なら観光客やビジネスマンで埋まる。しかし、現在はイスラエルが出した大規模な避難命令を受けて、自宅を追われた家族たちで占められている。

国連推計では、イスラエルとヒズボラの戦闘再開によりレバノン国内で約70万人が避難を余儀なくされた。イスラエルとアメリカによる戦争の開始時にイランの最高指導者が殺害されたことに対して、ヒズボラがロケット攻撃で報復し、これを引き金にイスラエルがレバノン攻撃を開始した。

2024年11月にイスラエルとヒズボラの間で停戦合意が発効した後も、イスラエルはレバノン全域でヒズボラに対して連日のように攻撃を続けていた

現在避難している多くは、ベイルート南郊を逃れ、首都の北側へ移動してきた人たちだ。

地元から避難してラマダ・ホテルに子どもと滞在していた女性は、攻撃後に煙が部屋に充満したため、家族で非常階段を使って脱出したと話した。

ホテル近くの道路では、レバノン南部ティールから避難してきた47歳の男性が、吹き飛ばされた車のフロントガラスにビニール袋を貼り付けていた。

「これまでいろいろな経験をしてきたので、こういうことには慣れている。(中略)怖くはない」とこの男性が言うと、隣で息子が勢いよくうなずいた。

「イラン人が標的だったと言われているが、本当のところは分からない」

頭上では、ホテル4階の外壁が黒く焦げていた。その壁の奥では警察と軍関係者が、攻撃から数日を経てもなお、捜査を続けていた。

コンクリートの床に寝具などが散乱している。紺のパーカーを着た男性が、血の付いた掛布団を手にしている

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画像説明, ホテル近くの駐車場に家族と避難していた男性は、飛散した破片で子どもたちがけがをしたと話した

ホテルの経営陣はBBCの取材に対して、コメントを控えると答えた。

しかし、従業員の1人はBBCに対し、3階と4階は警察の捜査のため閉鎖されており、そこに滞在していた避難者は移動させられたと話した。ホテルは大きく利用者も多いため、自分も同僚たちも、攻撃された部屋に誰が滞在していたのか分からないが、ニュースは知っているとも、この従業員は話した。

当局関係者はBBCに対し、攻撃の標的となった男性らが使用していた3階と4階の部屋は、レバノン国籍の3人が予約していたと明らかにした。

この関係者によると、ホテルは3回攻撃されたが、うち2発の弾薬は爆発しなかった。

IDFは声明で、この攻撃はコッズ部隊のレバノン部隊およびパレスチナ部隊に所属する幹部が「民間のホテルに隠れている」という、「IDFが得た正確な情報」に基づいて海軍が実施したものだと説明した。

IDFは、攻撃で殺害した「主要な司令官」は、「レバノン国内にいる(イスラエルの)代理勢力に資金を移転していた」マジド・ハッサーニ、情報機関高官のアリレザー・ビアザール、アフマド・ラスーリの3氏だと発表。さらに、コッズ部隊のホセイン・アフマドルーとアブ・モハマド・アリの両氏も殺害したとした。

IDFは、この5人を「排除」したことは、レバノンにおけるイランとヒズボラに対して「重大で必要な打撃」だと述べた。

これに対して、イランのアミール・サイエド・イラヴァニ国連大使は10日、国連事務総長に宛てた書簡で、ハッサーニ、ビアザール、ラスーリ、アフマドルー各氏が殺害されたことを認めた。

しかし、イラヴァニ大使は彼らについて、在ベイルート・イラン大使館の二等書記官、三等書記官、専門職員、大使館関係者だと書き、イスラエルによる攻撃を「凶悪な犯罪」と非難した。

イラヴァニ大使は、「主権国家の公式代表として他国領内で勤務していた4人のイラン外交官を狙い殺害することは、重大なテロ行為で、国際法の深刻な侵害である」と書いた。

3月1日以降に発生したイスラエルの空爆地点および爆発の報告地点を示すベイルートの地図。地図の上端には海岸線があり、その近くに港が表示され、左下には国際空港が表示されている。地図上には、確認された空爆を示す赤い円と、報告された爆発や空爆を示す紫の円が点在している。攻撃の大半は、市内南部と空港周辺に集中しており、いくつかは東部や南東部に点在している。それとは別に、首都北西の海岸近くに、ラマダプラザ・ホテルへの空爆が赤いラベルで示されている。

最近のベイルートでは、ホテルが標的になるのはラマダプラザ・ホテルへの攻撃で2回目だった。攻撃に先立ちイスラエル軍はレバノンにいるイラン政府関係者に対し、「標的にされる前に直ちに退去」するよう警告していた。

レバノンのナワフ・サラーム首相は5日、レバノンで軍事活動を行っているイラン革命防衛隊員を逮捕し、国外追放するよう当局に命じた。

レバノンの治安関係筋は7日、ロイター通信に対し、外交官やその家族を含む150人以上のイラン国籍者が、イスラエル軍の脅威を逃れるためレバノンを離れたと述べた。

イラヴァニ大使は、ハッサーニ、ビアザール、ラスーリ、アフマドルー各氏が、イスラエル軍の攻撃から避難するため、公邸からラマダプラザ・ホテルに一時移動していたのだと説明。このことは、レバノン外務省にも通知していたと大使は述べた。

IDFはラウシェ地区空爆後の声明で、今後も「イランのテロ体制の要員がレバノンで勢力を築くことを許さず、活動地域を問わず正確に排除し続ける」と述べた。

壁に攻撃された跡が残るホテルを見上げる、黒衣の女性2人。ヒジャブで髪を覆っている。

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画像説明, 攻撃されたホテルの外では、不安な日常が続いている

ラウシェ地区では、ホテルの外で不安な日常が続いている。近くを通る車に乗った人々は、破壊の跡を見上げていた。

理髪師モハメド・アッバス氏は、レバノン南部で4回にわたり攻撃に遭遇し、その後ラウシェに避難した。

「レバノンには安全な場所などない。イスラエルには、越えてはならない一線などない。イスラエルはどこだろうと思いのままに、攻撃して殺す。今回のことは、その証拠だ」

ラウシェに避難してきた人の中には、この戦争からは逃れられないという現実を、今回の攻撃によって突き付けられたと受け止める人もいた。

「南部の家は前の戦争で破壊され、(ベイルート南部)ダーヒエの家は今回の戦争で破壊された」。ラマダプラザ・ホテル近くに立っていた23歳の男性は話した。

「戦争はますます拡大している」

(追加取材:アンジー・ムラード)