イラン国歌斉唱拒んだサッカー女子代表5選手に人道ビザ、豪政府が発給 帰国を危ぶむ声が出る中

6人が横並びに立っている。バーク氏はダークスーツ姿、選手らはそろいのグレーのシャツを着ている。全員、ほほ笑んでいる。選手らは互いの背中に手を伸ばしている

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画像説明, オーストラリアのトニー・バーク内相(右から3人目)と、人道ビザが発給されたイランのサッカー女子代表選手5人
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オーストラリアで開催中のサッカー女子の国際大会「アジアカップ」で、イラン代表選手らが2日の韓国との試合の際に、開始前の国歌斉唱を拒んだ。これを受け、イランでは厳しい批判が噴出。選手らが帰国すれば、身の安全が確実ではないとの見方も出ている。そうしたなか、豪政府は10日、イラン選手5人に人道ビザ(査証)を発給したと明らかにした。5人以外の選手らは同日昼の時点でオーストラリアに残っており、動向が注目されている。

イランでは、代表選手らが国歌を歌わなかったことについて、イランの保守派コメンテーターが「戦時における裏切り者」と選手らを非難し、厳しい処罰を求めるなど、批判の声が上がっている。

イラン代表選手らは、韓国戦のあとの5日にあったオーストラリア戦と、8日にあったフィリピン戦では、試合前に国歌を歌い、右手を上げて敬礼した。

これについては、チームに同行しているイラン政府関係者から強制されたとする批判的な見方が出ている。

イラン代表チームは、グループステージ(予選)の3試合で全敗。決勝ステージに進めず、帰国の途につく予定となっていた。

だが、サポーターらから、選手らの安全を危ぶむ声が出ている。

第3戦を終えた8日夜には、豪東海岸の都市ゴールドコーストのスタジアムを出る代表チームのバスを数百人のサポーターが取り囲み、「私たちの娘たちを救え」のかけ声が響いた。

赤いユニホームを着た選手らがピッチの上で前後2列に並んでいる。ゴールキーパーだけ黄色のユニホームを着ている

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画像説明, フィリピンとの試合を前に写真撮影をするイラン代表選手たち(8日)

9日には、アメリカのドナルド・トランプ大統領が自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、豪政府は選手らの「亡命を認める」べきだと投稿。「(オーストラリアが)受け入れないなら、アメリカが引き取る」と付け加えた。

その約1時間後にトランプ氏は再び投稿し、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相と話をしたと報告。「5人についてはすでに対応が取られており、残りの人たちも続く」とした。

オーストラリアの移民政策を担当するトニー・バーク内相は9日、「オーストラリアに残ることを希望する女性が、5人いることが明らかになった」と説明。5人はその日のうちに、滞在していたホテルを出て、警察の案内で安全な場所に移動した。

バーク氏は、その場所で女性たちと面会し、人道ビザの申請を承認した。この手続きは、10日午前1時30分ごろ完了したという。

バーク氏は、「チームの他のメンバーにも、同じチャンスがあると言いたい。オーストラリアはイラン女子サッカーチームを心から受け入れている。彼女たちはオーストラリアで非常に人気がある」と発言。

「しかし、彼女たちが決断するにあたって、ひどく難しい状況にあると、私たちは理解している」とも述べた。

オーストラリアのアルバニージー首相もその後、選手5人に人道ビザが発給されたと明らかにした。

オーストラリアの人道ビザは、難民や人道的支援を必要とする人々に恒久的な保護を与える。保持者は同国での居住、就労、就学が可能になる。

バーク氏は10日、5選手が氏名の公表に喜んで同意していると説明。ファテメ・パサンディデ、ザフラ・ガンバリ、ザフラ・サルバリ、アテフェ・ラマザンザデ、モナ・ハムーディの各選手だと発表した。

そして、「自分たちは政治活動家ではないと、このことをはっきりさせておきたいというのが、彼女たちの意向だ。彼女たちは安全を望むアスリートだ」と述べた。また、協議は数日間にわたって続けられてきたとした。

人道ビザが発給された5人以外の選手たちは、ゴールドコースト空港に移動した。10日夜にシドニーに向かう予定となっている。

移動の際、チームのバスは一時、数十人の活動家らによって止められた。活動家らは、乗っている選手らに、オーストラリアに残るよう説得しようとした。一部の抗議者は地面に横たわり、バスが進むのを妨害した。選手らはバスの中からその様子を見守っていた。

観客席で多数のサポーターらが、緑・白・赤の横三色の、中央にライオンが描かれた旗を広げている

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画像説明, イランとフィリピンの試合中、イランのサポーターらはイラン革命前の「獅子と太陽」旗を振って応援した

イラン代表チームのマルジエ・ジャファリ監督は、8日の試合後の記者会見で、「私たちは帰国を今か今かと待っている。個人的には、できるだけ早く自分の国に戻り、同胞や家族と一緒にいたいと思っている」と述べていた。

選手らを乗せたバスが同日夜にスタジアムを出発する際には、サポーターらが「オーストラリアで安全なままでいよう。警察に相談して」、「あなたの家が安全でないなら、私の家にどうぞ」などと書かれた横断幕を広げた。

一部のサポーターらは、警察をかわしながら、スタジアム周辺の狭い道でバスが進むのを妨害しようとした。

選手らは車内の座席から、雨が降る中で展開される劇的な状況を見ていた。窓ごしにスマートフォンで撮影する選手もいた。笑顔や手を振る選手がいた一方、重々しい表情の選手もいた。

人権団体「アムネスティ・インターナショナル・オーストラリア」の難民権利擁護担当のザキ・ハイダリ氏は、「豪政府はここで道義的リーダーシップを発揮すべきだ」と述べている。

8日夜にスタジアムにいたサポーターらも、同じ思いでいる。

そのうちの1人、メリカ・ジャハニアン氏は、「彼女たちにとどまるよう呼びかけているが、同時に、彼女たちの家族が危険にさらされていることもわかっている」としたうえで、こう話した。

「彼女たちがどう決断しても、悲惨なことになる。だからこそ、豪政府の支援が必要だ」