政府批判めぐるリネカー氏の一時降板で番組編成混乱、BBC会長は視聴者に謝罪

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サッカーの元イングランド代表主将、ギャリー・リネカー氏による政府批判ツイートがBBCの不偏原則に抵触するとして、BBCがサッカー解説番組からリネカー氏を一時降板させたのを受け、多くのスポーツ関係者がリネカー氏に連帯して番組出演をボイコットしたため、BBCの11日のスポーツ番組編成が混乱した。BBC会長のティム・デイヴィー氏は同日、BBCのインタビューを受け、これについて視聴者に謝罪した。
ワシントン訪問中のデイヴィー会長は、BBCのノミア・イクバル北米特派員のインタビューを受け、11日のスポーツ番組編成に混乱が生じたことを視聴者に謝罪した。そのうえで、自分が辞任することは「絶対にない」としつつ、「BBCにとって厳しい」事態だと認めた。
デイヴィー会長は、リネカー氏が「政党政治の問題にかかわった」ため「いったん退く」よう求められたのだと説明。その上で、「自分にとって成功とはギャリーが番組に戻ることだ」と述べ、リネカー氏のようなフリーランスの出演者に適用される不偏のルールがどうあるべきか検討する用意があると話した。
リネカー氏の政府批判ツイートをめぐりBBCが首相官邸や閣僚から圧力を受け、屈したのではないかと複数の野党が批判する中、デイヴィー会長は特定の政党に「ごまをする」ようなことは一切なかったと強調。政府からの圧力はないと言明した。
さらにBBCにとって「厳しい1日」だったと認めながら、「事態解決に向けて懸命に努力している」と話した。

サッカーの元イングランド代表主将で、BBCの番組司会者としても広く知られるリネカー氏はこのところ、自身のツイッターアカウントで、イギリス政府の難民政策を批判する発言を繰り返していた。
スエラ・ブラヴァマン英内相が、不法入国者の亡命申請を一切認めない新たな方針を示したのを受けたもので、リネカー氏は政府方針について、「1930年代のドイツが使ったのと変わらない言葉で、最も弱い立場の人々に向けられた、計り知れないほど残酷な政策」だとツイートした。その発言はSNS上で大勢に支持され、「声なき人たちのために発言し続ける」と書いたツイートは25万8000近くの「いいね」を獲得している。
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BBCは10日、リネカー氏の「最近のSNSでの活動が、我々のガイドラインに違反している」と言明。「彼のSNS利用について、明確な方針で合意が得られるまで」、同氏に一時的な降板を要請したと発表した。
これを受けて、リネカー氏が司会するサッカー・プレミアリーグのハイライト番組「マッチ・オブ・ザ・デイ」にレギュラー出演する他のサッカー界の大物も次々と、リネカー氏に連帯して番組欠席を表明。11日夜放送の「マッチ・オブ・ザ・デイ」は、通常は80分番組のところが20分に短縮され、アラン・シアラー元イングランド代表主将やイアン・ライト元イングランド代表など番組レギュラーの解説者は不在だった。代理の出演者もなかった。
ボイコットでサッカー番組の代わりに再放送
他のサッカー番組もスタッフや出演者のボイコットによる影響を受けた。11日は土曜日とあって朝から晩までテレビやラジオでサッカー番組が相次ぎ放送されたはずが、BBCは過去の番組の再放送やラジオではポッドキャストを放送することで、編成の空白を埋める羽目になった。
サッカー番組「フットボール・フォーカス」は正午放送の予定だったが、司会者のアレックス・スコット氏が放送開始30分前に「今日の番組をそのままやるのは、適切ではないと思う」とツイート。この日の番組は放送中止となった。
サッカー番組「ファイナル・スコア」も、司会のジェイソン・モハマド氏がBBCにこの日の出演を拒否すると伝えたことから、午後4時の放送が中止となった。
BBCラジオ5ライブで毎週土曜朝に放送される「ファイティング・トーク」は、スタッフのボイコットを受けて放送が中止になった。司会者コリン・マリー氏は、「自分とチーム全員」による判断だと説明した。
午後の試合結果を知るためBBCテレビをつけた視聴者が目にしたのは、骨とう品の掘り出し物を買ったり、家にある骨とう品を修理したりするリアリティー番組の再放送だった。ラジオ5ライブも、過去の素材の再放送を余儀なくされた。
テレビのBBC Oneが午後10時20分から「マッチ・オブ・ザ・デイ」の放送を開始する直前には、アナウンサーが「今夜は、解説を含めた通常の番組を放送することができない」と視聴者に謝罪した上で、「本日のプレミア・リーグの試合から名場面をお見せします」と説明した。
イギリスでおなじみのテーマソングや冒頭のクレジットは流れず、番組はいきなりその日の「ボーンマス対リヴァプール」の試合の一部を放送した。
政界などの反応は
リシ・スーナク英首相は11日夜に声明で、リネカー氏を「有能な司会者」と呼びつつ、政府が関与することではないとの姿勢を示した。
「首相として私は、自分が正しいと信じることをやらなくてはならない。全員が常に賛成してくれるわけでないことは、尊重しつつ。だからこそ私は、(不法移民を乗せて英仏海峡を渡りイギリスを目指す)小型ボートを阻止するため、断固たる姿勢をとっている」と、スーナク首相は述べた。
イギリスでは昨年、小型ボートでイギリスを目指す人数が急増した。2022年にイギリスに難民申請した人数は8万9000人以上。そのうち45%が小型ボートで英仏海峡を越えた。その方法で昨年イギリスに到着した人数は、4万5755人に上る。これは2018年の統計開始以来、最多だった。
スーナク首相はさらに、「ギャリー・リネカーは素晴らしいサッカー選手だったし、才能ある司会者だ。ギャリー・リネカーとBBCの現在状況が速やかに解消することを望んでいるが、これは当然ながら政府ではなく、BBCが取り組むことだ」とも述べた。
英文化・メディア・スポーツ省の報道官は「個別の案件はBBCが扱うべきこと」だとしている。しかし、首相官邸や複数の有力閣僚はこのところ、声高にリネカー氏を批判していた。
政府の反移民法案について政府の言葉遣いがナチス・ドイツを想起させるとリネカー氏がツイートしたことを、スエラ・ブラヴァマン内相とルーシー・フレイザー文化相は共に、「怠慢で何の役にも立たない」と厳しく批判した。
他方、野党からはリネカー氏を支持する声が相次いでいる。
最大野党・労働党の党首サー・キア・スターマーは、リネカー氏について「文句を言い続ける」よりも政府は難民受け入れ制度を改善すべきだと批判。さらにBBC幹部が閣僚からの圧力に屈したと非難した。
野党・自由民主党の党首、サー・エド・デイヴィーは、BBC理事長のリチャード・シャープ氏が辞任するべきだと主張。現在の混乱はBBC「上層部の問題」を露呈したと述べた。
「このイギリスの誇り高い価値観を守り、混乱が続く現在の政治や保守党の威圧やいじめに耐えられる、そうした指導部がBBCには必要だ」と、デイヴィー党首は述べた。
シャープ理事長をめぐっては、就任前に当時のボリス・ジョンソン首相(保守党)のためにローンの保証人を手配したことを、理事長選考段階で利益相反にあたるかもしれないと申告しなかったことが批判されている。シャープ氏は、ジョンソン氏のためのローンに自分がかかわったことはないと説明している。
2000年から2004年にかけてBBC会長だったグレッグ・ダイク氏は11日、今回の対応でBBCが「自らの信用を傷つけた」と批判。シャープ理事長の疑惑が続く中で、保守党政権を批判したリネカー氏を降板させたことで、「BBCが政府の圧力に屈した」という印象を与えかねないと指摘した。
2013年までBBCテレビニュースやBBCスポーツなどの統括を歴任したロジャー・モージー氏は、シャープ理事長が「BBCの信用を傷つけた」として、理事長の辞任が必要だと書いた。
シャープ理事長については英紙サンデー・タイムズが1月、シャープ氏が理事長就任前の2020年12月に当時のジョンソン首相のため最大80万ポンド(約1億2800万円)のローンの保証人を手配したと報道した。シャープ氏はこれを否定している。
BBC理事長は、BBC理事会のトップ。理事会はBBCの方向性を決定し、その独立性の維持を使命とする。理事長は任期4年で年俸は16万ポンド(約2500万円)。こうした公職ポストの候補者は、利益相反の有無を申告する必要がある。
シャープ氏の選考については、議会の公職人事コミッショナーが調査に着手している。シャープ氏にBBC理事長として何か利益相反があり得るかは、BBCも独自に調べている。

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他方、イギリス通信業界の独立監視機関、放送通信庁(Ofcom、オフコム)の会員で、BBCの元編集方針審査委員のリチャード・エア氏は、BBCには「他に選択肢」がなかったとの見解を示した。
デイヴィー会長がリネカー氏と合意しようと「努力したのは明らか」だが、それができなかったのだとエア氏は指摘。その上で、「BBCが『政府の命令に従って動いた』と、批判の渦に巻き込まれるのは、もはや避けられないだろう」と述べた。
リネカー氏は1999年から「マッチ・オブ・ザ・デイ」の司会を務めており、BBCで最高額の報酬を得ている。2020~2021年の報酬は135万ポンド(約2億2000万円)だった。リネカー氏は、BBCとはフリーランス契約を結んでいる。
BBCの従業員は政治問題について不偏公平の姿勢を維持することが求められ、ソーシャルメディア上では厳しいガイドラインに沿って行動しなくてはならない。しかしこうした決まりが、報道部門以外のスタッフにどう適用されるべきかについては、かなりの議論がある。
BBCニュースの取材によると、「マッチ・オブ・ザ・デイ」の制作チームは、リネカー氏降板の決定について事前に知らされていなかったという。
リネカー氏は11日の展開についてコメントしていない。同日には、レスターシティーのホーム試合を観戦していた。










