BBC、リネカー氏に番組司会を一時降板させる 政府批判が不偏公平違反と問題視され

Gary Lineker looks on prior to The Emirates FA Cup Semi-Final match between Manchester City and Liverpool at Wembley Stadium on April 16, 2022 in London, England

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画像説明, サッカーの元イングランド代表主将、ギャリー・リネカー氏は、1999年からBBCの英プレミアリーグ・ハイライト番組「マッチ・オブ・ザ・デイ」の司会を務めている

BBCは10日、英サッカー・プレミアリーグのハイライト番組「マッチ・オブ・ザ・デイ」のギャリー・リネカー司会者に、一時的な降板を要請した。リネカー氏が、政府の移民政策をめぐり、BBCの不偏公平原則に違反したかが問題となっている。

サッカーの元イングランド代表主将で、BBCの番組司会者としても広く知られるリネカー氏はこのところ、自身のツイッターアカウントで、イギリス政府の難民政策を批判する発言を繰り返していた。その発言はSNS上で大勢に支持され、「声なき人たちのために発言し続ける」と書いたツイートは24万6000以上の「いいね」を獲得している。

同番組に解説者として出演する複数の英サッカー界の大物も、リネカー氏に連帯を示して次々と出演を拒否。11日の放送は、司会者も解説者もいないものになる見込みだという。

BBCは、リネカー氏の「最近のSNSでの活動が、我々のガイドラインに違反している」と言明。「リネカー氏とそのチームとここ数日、長い議論を交わした」上で、「彼のSNS利用について、明確な方針で合意が得られるまで」、同番組の出演を控えるよう求めたと説明した。

一方でBBCは、「BBCのサッカーとスポーツ報道を主導する立場として、リネカー氏は唯一無二だ」と述べた。

「BBCはギャリーに、何の意見も言ってはならないと言ったことはないし、自分にとって重要な問題について自分の見解を持ってはいけないと言ったこともない。だが、政党政治に関する問題や政治的論争で、立場を表明することは控えるべきだとは言ってきた」と、BBCは説明している。

イギリス政府の難民政策とは

スエラ・ブラヴァマン英内相は7日、不法入国者の亡命申請を一切認めない新たな方針を明らかにした。イギリスはかねて、英仏海峡を小さなボートで渡ってくる難民の問題に直面している。

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Presentational white space

リネカー氏はこれについて、「1930年代のドイツが使ったのと変わらない言葉で、最も弱い立場の人々に向けられた、計り知れないほど残酷な政策」だとツイートした。

ブラヴァマン内相はこれに対して、ホロコーストという「言葉にできないほどの悲劇を矮小化(わいしょうか)するものだ」と反論している。

リネカー氏は以前、亡命申請者に住まいを提供していたことがあるほか、難民の権利と保護拡大を訴えてきた。また、イギリスの欧州連合(EU)離脱についても、与党・保守党政権を批判している。

リネカー氏は1999年から「マッチ・オブ・ザ・デイ」の司会を務めており、BBCで最高額の報酬を得ている。2020~2021年の報酬は135万ポンド(約2億2000万円)だった。リネカー氏は、BBCとはフリーランス契約を結んでいる。

リネカー氏は今回の件について公にコメントを発表していない。しかし民放5ニュースのダン・ウォーカー司会者は番組中、リネカー氏とのテキストメッセージのやりとりを読み上げた。

ウォーカー氏が「何があった? 降板するのか?」と尋ねると、リネカー氏は「違う、BBCが降板するべきだと言ったんだ」と返したという。

イギリス通信業界の独立監視機関、放送通信庁(Ofcom、オフコム)の会員で、BBCの元編集方針審査委員のリチャード・エア氏は、BBCには「他に選択肢」がなかったとの見解を示した。

BBCのラジオ番組に出演したエア氏は、「これは避けられない事態だったと思う。リネカー氏はその額にBBCの文字が書かれているのに、その日一番の論争になっていたニュースに飛び込んできた」と語った。

その上で、「BBCが『政府の命令に従って動いた』と、批判の渦に巻き込まれるのは、もはや避けられないだろう」と述べた。

司会者も解説者もいない番組に

Image shows Alan Shearer and Ian Wright

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画像説明, 元サッカー選手で評論家のアラン・シアラー氏(左)とイアン・ライト氏は、共に「マッチ・オブ・ザ・デイ」への出演を拒否した

こうしたなか、「マッチ・オブ・ザ・デイ」の他の出演者がリネカー氏に連帯し、番組への出演を拒否している。

これまでに、イングランド・サッカー界の大物で、「マッチ・オブ・ザ・デイ」レギュラー解説者のイアン・ライト氏、アラン・シアラー氏、マイカ・リチャーズ氏、ジャーメイン・ジェナス氏が番組に出演しないと発表。アレックス・スコット氏も、同様の対応を示唆した。

BBCは、11日の放送は「試合の内容にフォーカスした」ものになるとしている。

また、プロサッカー選手の労働組合PFAに所属する多くの選手が、同番組の試合後のインタビューを拒否することで、リネカー氏らに連帯するつもりだと、BBCスポーツは聞いている。PFAは、この行動を支持しているという。

BBCの決定については、野党などからも批判の声が上がっている。

最大野党・労働党の関係筋は、BBCは決定を「再考」すべきだと指摘。「ギャリー・リネカーを放送から外すというBBCの臆病な判断は、政治的圧力に直面した言論の自由に対する攻撃だ」と述べた。

「政府の政策に反対する人々を解雇にしようとロビー活動をする保守党の政治家は、笑いものにされるべきで、迎合されるべきではない」

スコットランドのニコラ・スタージョン第一首相もツイッターで、BBCの決定は「擁護できない」と語り、「BBCは政治的圧力の前に、表現の自由を損なった。BBCが屈するのは決まって、右翼から圧力を受けた時のようだ」と批判した。

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<解説>保守党に近いBBC理事長への批判も――ケイティー・ラゼルBBC文化・メディア担当編集長

この事態をBBCが意図していたとは思えない。

BBC司会者の中でもとりわけ有名で愛されていた人物が、出演しないことになった。しかも、当人とBBCのどちらにも、明確な出口戦略のない対決が続いているように見える。

英政府の難民政策とそれにまつわる言葉遣いと、リネカー氏がそれをツイッターで激しく非難したことで、BBCで一番人気のサッカー番組がこんなことになるとは、だれが予想しただろう。

BBCのティム・デイヴィー会長はこれまで何度も、自分が掲げる戦略の根幹にあるのは中立性だと繰り返してきた。

それは、保守党政府からの圧力を受けてのことだろうという意見もある。

しかし、視聴者の受信料によって成り立つBBCがあらゆる人のための存在であり続けるには、不偏公平性が何より大事だと、自分はそう確信しているのだと、デイヴィー会長が繰り返し強調してきたことは紛れもない事実だ。

BBCのスタッフも出演者も、自分の個人的意見はBBCの入り口の外に置いてくるよう言われる。ただしそこには陰影もある。

BBCの報道関係者ではなく、別の立場でBBCに出演する人が、個人として政治的意見をツイートしてはならないと、本当にそう言っているのか――と、BBCの決定に批判的な人たちは言う。これにキリはあるのかと。

ゲーム番組の司会者が、政府方針について意見を持ってはいけないのか。有名なBBCドラマに深くかかわる俳優は? コメディアンは?

さらに重大な指摘もある。時の政権と意見が異なる人だけが、今回のように「不偏公平原則」をたてに降板させられたりするのではないか? そうした意見も出ている。

さらに、BBCにおける表現の自由の扱いがどうなっているのかこうして注目されている中、BBCは二重基準を使っているのではないかという批判もある。与党・保守党に近い理事長が、批判を受けながらも留まっているのは、BBCが政治的圧力を受けているからではないかと。

リチャード・シャープBBC理事長は、就任前に当時のボリス・ジョンソン首相(保守党)のためにローンの保証人を手配したことを、理事長選考段階で利益相反にあたるかもしれないと申告しなかったことが批判されている。シャープ氏は、ジョンソン氏のためのローンに自分がかかわったことはないと説明している。

投資銀行ゴールドマンサックス出身のシャープ理事長は、自分のこの件がBBCの評判を落としたことを認めつつ、「ルールを確実に守るため誠実に行動した」と強調している。

野党・労働党のルーシー・パウエル影の文化相は、リネカー氏の件とシャープ理事長の件を結びつけてBBCを批判。「BBC理事長は、当時の首相との友人関係について特定の内容について開示しなかったが、その時はBBCから『公平中立性』を求める叫び声はまったく聞こえなかった」と、パウエル氏は述べている。

BBC理事長の選考についてBBCそのものには発言権がないと、BBCが主張するのは理にかなっている。BBC理事長は政府が選ぶからだ。シャープ氏の選考については、議会の公職人事コミッショナーが調査に着手している。シャープ氏にBBC理事長として何か利益相反があり得るかは、BBCも独自に調べている。

しかし、見た目は大事だ。BBCは、リネカー氏による政府批判をめぐり厳しい態度を示した。そしてその一方で、疑惑の渦中にあり過去に保守党に献金している理事長は今もBBCにとどまっている。

理事長は、ニュースや番組の内容に関与しない。そういう反論もあり得る。

しかし、「ギャリー・リネカーだってそうだ」と大勢が言うだろう。リネカー氏はBBC番組で、政治問題について、編集上の発言権をいっさい持たない。彼の専門分野はスポーツで、BBCもスポーツ司会者として「リネカー氏は唯一無二だ」とコメントしている。

しかし、そのリネカー氏が(少なくとも今週末は)その傑出したスポーツ司会者ぶりをBBCで発揮することはなくなった。

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