英仏首脳、英から仏へ対策費用提供で合意 小型ボート使う不法入国めぐり

Rishi Sunak and Emmanuel Macron

画像提供, EPA

画像説明, 移民対策で合意したスーナク英首相とマクロン仏大統領(10日、パリ)

小型ボートを使って英仏海峡を渡りイギリスに不法入国する移民の問題をめぐり、英仏首脳は10日、イギリスの資金提供による対策強化で合意した。イギリスが3年間で約5億ポンド(約810億円)を提供し、フランスはそれを不法移民収容所の新設などに充てる。イギリスでは、政府が提示した移民取締法案への批判が高まっている。

パリで行われた英仏首脳会談で、リシ・スーナク英首相とエマニュエル・マクロン仏大統領は、不法移民対策の強化を宣言。イギリスがフランスに対策資金を提供するほか、フランスも予算措置を講じる方針という。

イギリス側が提供する約5億ポンドは、取締官500人の増員とフランス国内での新しい不法移民収容所の設置に充てられる。ただし、新しい収容所が全面稼働するのは早くても2026年末になるという。

イギリス政府はすでに今年、約6300万ポンドを移民対策費としてフランスに提供する予定だった。今回合意された金額はその倍以上で、イギリス政府は今年から来年にかけてフランスに1億2000万ポンドを提供すると約束した。

フランスも、不法移民取り締まりを強化するため予算を増額するとしているが、具体的な額は示していない。

イギリスのスーナク政権はこれに先立ち7日、小型ボートで海峡を渡り不法入国する移民が急増しているとして、不法移民を拘束し国外追放するための新法案を発表。この不法移民法のもとでは、不法入国した者はだれでも28日以内に強制退去させられるほか、将来的にイギリスに入ることも、難民申請などで市民権を申請することも不可能になる。

この法案については、国連難民高等弁務官事務所が強い懸念を示すほか、イギリス国内でも批判の声が上がっている。BBCのサッカー解説者として人気の元イングランド代表、ギャリー・リネカー氏がツイッターで、政府方針を発表するスエラ・ブラヴァマン内相政府方針を厳しく非難したことから、BBCの公平中立原則に抵触する可能性が指摘されるようになり、レギュラー番組への出演が一時見合わせられるなど、余波が生じている。

A group of migrants on a beach near a boat

画像提供, PA Media

画像説明, イギリスの王立救命艇協会(RNLI)が英仏海峡で救助した移民たち(2022年12月、英南東部ケント・ダンジネス)

「人命売買の商売を終わらせる」

パリのエリゼ宮で共同記者会見したマクロン大統領は、英仏の協力で小型ボートによる不法移民は減少していると主張。両国の合同チームは過去1年間で、3万件の小型ボートによる海峡移動を阻止し、500人を逮捕したと明らかにした。

スーナク首相は、英政府が提供する資金が、「人命を売り買いするこの不快きわまりない商売を終わらせる」ことにつながると述べた。「英仏の協力を通じて、両国の制度を悪用されないようにする」とも強調した。

スーナク氏は、両首脳の合意によって、新たに500人のフランス取締官がドローンなど「増強された技術」を使い、イギリスを目指して海峡を渡る不法移民ボートを阻止することになると説明した。

加えて、フランスにはすでに26カ所の不法移民収容所があるが、イギリスからの資金でさらに1カ所を新設するという。

英首相官邸は、収容所の増設によって「フランスの沿岸部から(さらに多くの不法移民を)遠ざける」ことができると説明した。

「英仏協力の再開」

両首脳は、パリでの会談は英仏関係の新しい始まりだと強調。マクロン大統領は「結びつきを再開した瞬間」だとして、スーナク首相は「英仏協力の再開」だと述べた。

マクロン氏は、近年の両国関係悪化につながっていたのはブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)だったという姿勢を明示し、スーナク氏の前任の英首相3人を言外に批判した。

一方で、共同記者会見では友好関係を強調し、マクロン氏はスーナク氏を「親愛なるリシ」と呼び、スーナク氏はマクロン氏を「モナミ(私の友人)」とフランス語で返した。さらに両首脳は、共同記者会見を抱擁(ほうよう)で締めくくった。

スーナク政権にとって国内問題

イギリスでは昨年、小型ボートでイギリスを目指す人数が急増した。2022年にイギリスに難民申請した人数は8万9000人以上。出身国としてはアルバニアが最多だった。

そのうち45%が小型ボートで英仏海峡を越えた。その方法で昨年イギリスに到着した人数は、4万5755人に上る。これは2018年の統計開始以来、最多だった。

Channel crossings
Presentational white space

スーナク首相は、海峡を渡ってくる不法移民ボートの取り締まりを、自らの政権の主要課題のひとつにしている。2023年冒頭の所信表明でスーナク氏は、小型ボート対策は優先課題の一つだと言明した。

他方、イギリスでは議員任期から、遅くとも2025年1月までに総選挙が行われなくてはならない。

フランスで新設されることになった収容所が2026年末まで、全面稼働されないとなると、選挙前には完成していないことになる。

最大野党・労働党のエミリー・ソーンベリー影の法相は、与党・保守党が「相変わらず一つの危機から次の危機へ、その場しのぎのばんそうこうを貼ってやりすごすだけの政策で、ぐらぐらとよろめいている」と批判。「この危機の対策のためリシ・スーナクがフランス当局に追加の資金を送る前に、すでにこの国がフランスに提供した何百万もの資金で何が実現したのか、そしてなぜそれでも小型ボートで海峡を渡る人たちが後を絶たないのか、首相は説明する必要がある」と述べた。

他方、マクロン大統領は他の欧州諸国に、多くの移民が西ヨーロッパを目指してどのような経路で移動しているのか、精査するよう求めている。

国連が批判する英の不法移民法案

7日に発表した新しい不法移民法案について、スーナク首相は「犯罪集団を英仏海峡沿岸まで引き付ける誘因を取り除き、犯罪集団のビジネスモデルを破壊することを目的に設計されている」と説明している。

新しい不法移民法案の主な内容は次の通り――。

  • 内相は、イギリスに不法入国した者を拘束し、ルワンダあるいはそれ以外の「安全な」第三国へ移動させなくてはならない
  • 拘束開始から28日間、不法移民は保釈が認められず、裁判所による審査も請求できない
  • 18歳未満の者、健康上の理由から飛行機での移動に耐えられない者、あるいは送還先の国で深刻な危害を受ける危険がある者は、送還を延期できる
  • イギリスから強制送還された者は将来的に、イギリスへの入国や市民権申請ができない
  • イギリス政府が「安全で合法なルート」による定住を認める難民の人数には上限を設ける

この法案は成立後、今年3月7日以降に違法入国した全員にさかのぼって適用されると定められている。

イギリスではすでに、ビザ(査証)や特別許可がない状態で意図的にイギリスに入国することは、違法となっている。違法入国者は最高4年の禁錮刑を受ける可能性があるほか、安全な国に強制出国させられる。

ただし昨年6月~10月の間に小型ボートでイギリスに入国した人のうち、逮捕者は100人未満にとどまっている。イギリスには、難民として保護を求める人を法的に処罰しないという国際法上の責務がある。

イギリスの民間団体「難民評議会」は、政府の新法案は国際法違反だと批判する。

国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)はBBCに対して、新法案は「非常に気がかり」だと話し、相当の深刻な理由がある亡命希望者の保護申請までもを妨げる恐れがあると指摘した。

さらに、ブラヴァマン内相は下院議員への手紙で、新法案が国際法に抵触する可能性は「50%以上」だと認めている。

1951年に国連が定めた「難民の地位に関する条約」は、難民を「その生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない」と定めている。

イギリス政府は、イギリスへの不法入国者をルワンダへ送還するのは、ルワンダが安全な第三国のため、国際法に抵触しないと主張している。

イギリスの「国籍および国境法」は、亡命申請者がイギリスに到着する前に安全な第三国を通過していたと証明されれば、イギリスはその亡命申請を却下できるという内容に変更された。しかし、これは難民条約に基づくものではない。

イギリスへの難民申請の数

イギリスに難民としての保護を求める人数は2022年に急増した。現在16万6000人以上が、難民としてイギリスに滞在できるか判断を待っている。

イギリスへの難民申請は2002年の時点で、アフガニスタンやソマリアやイラクの戦乱を逃れる人たちで急増し、約10万3000人に達した。その後は2010年の2万2600人まで急増。これが20年来で最も少なかった。

しかし2010年代になると、シリアから逃れる人が急増し、イギリスへの難民申請も再び増えるようになった。

2022年にイギリスに難民申請した人数は8万9000人以上。出身国としてはアルバニアが最多だった。.

2022年にイギリス当局は2万9150人の亡命申請について判断し、そのうち61%にあたる1万7747人に何らかの保護を提供している。