【解説】 34歳のアッタル氏を新首相に、マクロン仏政権の今後は

ヒュー・スコフィールド、パリ特派員

首相公邸の引き渡し式に臨んだエリザベット・ボルヌ前首相(左)とガブリエル・アッタル新首相(9日、パリ)

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フランスのエマニュエル・マクロン大統領は9日、ガブリエル・アッタル教育相を新たな首相に任命した。34歳のアッタル氏は、フランス史上最年少の首相となる。

これまでの最年少は、1984年にフランソワ・ミッテラン大統領に指名され、37歳で首相となったローレン・ファビウス氏。

前任のエリザベット・ボルヌ首相は、20カ月での退任となった。ボルヌ氏は在任中、国民議会で過半数の支持を得るのに苦労していた。

マクロン大統領は新たな内閣で、政権の浮揚を狙う。アッタル氏の首相任命は特に「注目」の人事だ。

アッタル氏は今後、6月の欧州議会選挙に向け、フランス政府を主導していく。

アッタル氏の躍進はめざましい。10年前には保健省の無名の顧問に過ぎず、社会党の党員だった。

同氏はまた、同性愛者を公表している人物として初めて、首相公邸「マティニョン」に入る。アッタル氏は、やはりマクロン派のステファン・セジョーネ欧州議会員とシビル・パートナーシップを結んでいる。

マクロン大統領は、ソーシャルメディアでアッタル氏の首相就任を祝福し、「私が発表した再活性と再生のプロジェクトを実行するために、あなたのエネルギーとコミットメントを頼りにしている」と書いた。

ガブリエル・アッタル新首相(左)は、エマニュエル・マクロン大統領の政権の中で頭角を現した(2023年9月)

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アッタル氏は首相公邸前で、「フランスは決して衰退とは韻を踏まない、フランスは変革と韻を踏む、フランスは大胆さと韻を踏む」と宣言した。

しかし、大統領としての2期目の難しさ、そしてナショナリスト右派からの挑戦の高まりを考えたとき、新たな人事は「注目」だけでいいのだろうか?

ハンサムで、若々しく、魅力的で、人気があり、理路整然としている……アッタル氏は確かに栄光の中で就任した。自らが師事し、手本としているマクロン大統領と同じだ。

しかし多くの才能ある同世代と同様、アッタル氏はマクロン氏が掲げる、古い左右分断を打破し、フランス政治のおきてを塗り替えるという考えに触発されている。

2017年の大統領選でマクロン氏が勝利した後、アッタル氏は議会議員となり、そこで討論者としての才能を発揮した。マクロン派の新米議員の中では最も優秀で、大統領に注目された。

2018年には教育次官となり、第5共和政では最年少の29歳で政府の役職に就任。2020年からは首相報道官を務め、有権者に顔を知られるようになった。

マクロン大統領の再選後はすぐに財務次官となり、昨年7月に教育相に任命された。

アッタル氏はここで大統領に、自らの資質を示した。9月には、一部のムスリム(イスラム教徒)女性が着る、ゆるやかに全身を覆う「アバヤ」をめぐる騒動に終止符を打つため、学校でのアバヤ着用を禁止した。

また、パリのエリート校エコール・アルザシエンヌでいじめ撲滅キャンペーンを指揮したほか(彼自身も被害者だったという)、学校制服での実験を提案し、教育界を挑発した。

極右政党「国民連合」のマリーヌ・ル・ペン氏(右)と、ジョルダン・バルデラ党首(2019年1月)

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一方でアッタル氏は、国民の間で実際に人気者になることで、通常のトレンドに逆らうことに成功した。

世論調査にると、アッタル氏はマクロン政権で最も称賛されているメンバーだ。大統領の政敵である極右政党「国民連合」のマリーヌ・ル・ペン氏や、同党の若き党首ジョルダン・バルデラ氏と同じレベルで競い合っている。

そしてもちろん、そこに核心がある。

アッタル氏を閣僚の群れから引き抜くことで、マクロン大統領はいわば、エースを使ってクイーンとそのジャックを出し抜こうとしている。しかし、うまくいくだろうか?

マクロン大統領が現在の立場の弱さをよく知っているとすれば、誰もが内閣改造が近づいていると分かっている中でアッタル氏の指名が長引いたことは、大統領が現状にどう対処すべきかについても深い不安を抱いていることを示している。

エリザベス・ボルヌ前仏首相(2023年11月、パリ)

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画像説明, エリザベス・ボルヌ前仏首相は任期中、国民議会での支持の取り付けに苦労していた(2023年11月、パリ)

フランス国民が今、何よりも望んでいるのは、トップの顔ぶれの入れ替えではなく、マクロン大統領の新たな目的意識であると、複数のコメンテーターが明白な指摘をしている。

しかしアッタル氏は現状では、長年苦悩してきた前任のボルヌ氏と、まったく同じ問題に直面することになる。

支持が急上昇し、6月の欧州議会選挙で楽勝しそうな強硬右派の野党。政府が過半数を確保できず、新しい法律を作るたびに苦戦を強いられる国民議会。そして、2期目に何を達成したいのか明確にできない大統領。

その上でアッタル新首相は、ジェラール・ダルマナン氏やブルーノ・ル・メール氏といった重鎮に対する権威の確立という、自分自身の問題を抱えることになる。

さらに、欧州議会選挙でマクロン氏の政党が大敗する可能性が高い場合の計画はあるのか、と問う声もある。

通常であればその状況は、任期後半に向けて新たな活力を与えるために、首相を交代させる機会となる。しかしそのカードはすでに切られており、6月に敗北した場合、アッタル氏は信用のない敗者として漂流する危険性がある。

野党の有力者でさえ、アッタル氏を一流の人物だと認めている。彼は国民議会で尊敬され、好かれている。

しかし、アッタル氏が実際に何を目指しているのかという疑問もある。多くの人が疑っているのは、アッタル氏が自分のキャリアに恩がある人物と同じように、笑顔と口先だけの人物ではないかということだ。

大統領候補として、アッタル氏は神童の中の神童だ。だがもし彼がマクロン氏の「縮小版」に過ぎないのであれば、その驚異は幻となりかねない。