偵察衛星で「ホワイトハウスを見ている」 北朝鮮の主張の狙いは

フランシス・マオ、BBCニュース

娘のジュエ氏(前列中央左)とされる人物と手を握り、衛星の打ち上げに携わった科学者や技術者らと記念撮影する金正恩総書記

画像提供, KCNA

画像説明, 娘のジュエ氏(前列中央左)とされる人物と手を握り、衛星の打ち上げに携わった科学者や技術者らと記念撮影する金正恩総書記

北朝鮮は11月21日に打ち上げた偵察衛星「万里鏡1号」を使って、アメリカのホワイトハウスを捉えたと表明した。同国はこの偵察衛星を正確に軌道に進入させることに成功したとしているが、これが実際に機能しているとの説明に対しては西側諸国は懐疑的だ。

それでも、金正恩(キム・ジョンウン)総書記はこの新たな偵察用「おもちゃ」に誇らしげだ。偵察衛星が機能し、ホワイトハウスなどを撮影できたと喜々として発信している。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は28日、ホワイトハウスや米国防総省、米北東部沿岸や太平洋上の米領グアムにある空軍基地を偵察衛星が撮影したと、大々的に報じた。

ほかにも、韓国国内の複数の軍事目標や港湾都市の釜山といった近場から、少し不可解なことに、遠く離れたイタリア・ローマの撮影にも成功したとしている。

報道された当初は、目を見張るような撮影範囲だと思われた。しかし実際のところ、見かけほど大したことはないのかもしれない。

「米国防総省とホワイトハウスの画像はオンライン上にいくらでもある」と、ある米軍関係者は28日、報道を受けて言った。「なので、この話はそのくらいにしておこう」。

グーグルアースやインターネットのライブストリームを使えば、誰でもホワイトハウスを見ることができる。BBCがユーチューブで検索したところ、トップに表示されたのはホワイトハウスのライブカメラ映像だった。

では、金氏は何を狙っているのだろうか。大げさに騒ぎ立てることで、実際に何か有益なものが得られるというのだろうか。

北朝鮮の偵察衛星は機能しているのか?

そもそも、北朝鮮の偵察衛星が機能しているのかについて、大きな疑問が残っている。

この衛星はもう1週間以上も宇宙空間を漂っているが、金氏のもとに画像が送られてきているかどうか、独自に確認は取れていない。

アメリカも韓国も日本も、分かっているのは衛星が軌道上にあることだけだとしている。

私たちが北朝鮮について1つ知っていることがあるとすれば、この国は「四六時中うそをつく」ということだと、ソウルの国民大学校で北朝鮮の軍事を研究するフョードル・テルティツキー氏は言う。

「彼らが何かを言っても、それが真実とは限らない。常に行動を見ておく必要がある」

フェンス越しに撮影したホワイトハウス

画像提供, Getty Images

画像説明, 北朝鮮は偵察目標にホワイトハウスを挙げた。画像は夜明けにフェンス越しに撮影したホワイトハウス

北朝鮮政府には、不正に加工した画像を内外に売り込んできた歴史がある。国内および国際社会に向けたプロパガンダとして、自分たちの軍事力や兵器を、実際の能力をはるかに上回るものに見せるために。

そして北朝鮮は今回、衛星から受信したとする画像を公開しないことを選んでいる。実際に何が見えているのかを敵に知られないよう、証拠画像を隠しているのかもしれない。

しかし過去には、複数の画像を自慢げに公開したこともある。2022年1月に発射したミサイルが宇宙から撮影したとする地球の画像だった。当時発射されたのは中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12」で、北朝鮮が発射したミサイルとしては、2017年11月以降で最大とされるものだった。

戦略的価値

仮に偵察衛星が機能しているとしても、送信されてくる偵察画像のクオリティーはかなり低いだろうと、複数の専門家は考えている。

アナリストたちは、北朝鮮の衛星の解像度は1ピクセルあたり3~5メートル四方に限られると指摘する。

「ホワイトハウスを捉えられたとしても、戦術的な使い道はない」と、ソウルに拠点を置くシンクタンク、峨山(アサン)政策研究院の防衛アナリスト、梁旭 (ヤン・ウク) 氏は言う。

一方で、低解像度であっても、北朝鮮の衛星がいまや、核攻撃の標的を特定・選択できることを意味すると、同氏は述べた。「つまり、この衛星には戦略的な意味合いがある」。

現在のところは、より有意義な情報収集を行うには不十分かもしれないが、今回の動きは北朝鮮の技術面での優位性を押し上げるものであるかもしれない。

「国連安保理決議に違反する(中略)衛星の打ち上げを常態化しながら、能力を向上させるのが目的だ」と、ソウルの梨花女子大学の北朝鮮専門家、レイフ=エリック・イーズリー教授は指摘する。

金政権は長らく、衛星計画を擁護してきた。北朝鮮は衛星の保有は主権的権利であり、軍事的必要性であり、国内政治向けの公約でもあると主張していると、イーズリー氏は言う。

米ジェイムズ・マーティン不拡散研究センター(CNS)の衛星画像専門家デイヴ・シュメーラー氏も、「ゼロから何かを成し遂げるのは大きな飛躍」だと考えていると話す。

「とはいえ、北朝鮮が収集している画像を見るまでは、その使用事例については推測の域を出ない」と、シュメーラー氏はロイター通信に語った

象徴的価値

西側諸国から何十年もの間、領土を監視され続けてきた北朝鮮政府にとって、上空からの監視の目を持つことは政治的な長期目標だった。

「北朝鮮政府は、アメリカの衛星が見ることができるものに憤り、恐れている。また、自分たちは韓国政府との宇宙開発競争や軍拡競争のなかにあると考えている」と、梨花女子大学のイーズリー教授は言う。

北朝鮮・羅先(ラソン)の港を写した衛星画像(10月27日撮影)

画像提供, PLANET LABS PBC

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偵察衛星による画像撮影に関するニュースが、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に掲載されたことは、このことを国内外に向けて発信する狙いがあったことを示唆していると、前出のテルティツキー氏は指摘する。

西側諸国に対して、北朝鮮はそれが本当かどうかに関係なく「目立つように力を誇示」し、北朝鮮の軍事基地や核施設を攻撃しないよう警告する、意図的な抑止メッセージを発信しているのだと、同氏は言う。

「自分たちの軍事目標をあえて攻撃するのなら、その者を殺すというメッセージを送っている」

「ホワイトハウスにこだわる理由のひとつは、ジョー・バイデン氏に個人的にメッセージを送るためだ。あなたのことを見ていると、アメリカだけでなく、バイデン氏のことも見ているのだと。あなたのことを見ているし、殺すこともできるのだと発信するためだ」

技術的進歩を遂げているとの主張は、世界から孤立した共産主義の独裁政権のもとで暮らす人々に対し、国がうまくいっていることを示すためのものでもある。先週の打ち上げ成功の発表と、11月28日の衛星画像に関する報道は、全国の地方議会で行われた「選挙」のタイミングと重なっていた。

道や市、郡の人民会議(地方議会)の代議員選挙の投票所を訪れた金正恩総書記(11月27日、北朝鮮東部・咸鏡南道)

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画像説明, 金正恩総書記は道や市、郡の人民会議(地方議会)の代議員選挙の投票所を訪れた(11月27日、北朝鮮東部・咸鏡南道)

「新しい衛星で、ホワイトハウスや国防総省といったアメリカ国内の重要施設を確認できるという主張は、国際社会よりもむしろ国内向けのものではないかと推察する」と、朝鮮半島研究が専門の英シェフィールド大学の講師サラ・ソン博士は述べた。

「これは、北朝鮮の一般市民がインターネットにアクセスできず、世界のほかの国には異なる場所の衛星画像を見られる広範なリソースがあることを認識していない可能性が高いという事実に基づいた見方だ」