韓国、南北軍事合意の一部効力停止を発表 北朝鮮の偵察衛星は「安全保障脅かす」

ジーン・マケンジー、ソウル特派員

北朝鮮の軍事偵察衛星を搭載したとみられるロケット

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画像説明, 北朝鮮は21日夜に軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げに成功したとしている。画像は北朝鮮の軍事偵察衛星を搭載したとみられるロケット

韓国は22日、北朝鮮が21日夜に軍事偵察衛星を打ち上げたことを受け、南北間の緊張緩和を図り2018年に締結した軍事合意の一部効力を停止すると発表した。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は22日、同国が21日夜に軍事偵察衛星「万里鏡1号」を打ち上げ、正確に軌道に進入させることに成功したと伝えた。

韓国の 韓悳洙(ハン・ドクス)首相は今回の偵察衛星の打ち上げについて、韓国の安全保障を脅かすものだと述べた。

2018年の軍事合意では南北軍事境界線付近の上空に飛行禁止区域が設けられたが、韓国政府は境界線沿いでの偵察飛行を再開すると表明した。

一部のアナリストは、こうした動きが緊張関係をさらにエスカレートさせる可能性があるとみている。

北朝鮮が「成功」したと主張する偵察衛星をめぐっては、韓国軍合同参謀本部は22日、衛星が軌道に進入したという見方を明らかにしたが、実際に機能するかどうかを判断するには時期尚早だと指摘した。韓国とアメリカは、衛星の打ち上げそのものを強く非難した。

米国家安全保障会議(NSC)のエイドリアン・ワトソン報道官は、「この地域内外の安全保障状況を不安定にする」おそれのある動きだと述べた。

偵察衛星の開発は、2021年1月に金正恩(キム・ジョンウン)総書記が打ち出した、北朝鮮の国防5カ年計画の主要項目の一つ。

北朝鮮政府がこの技術を獲得すれば、理論的には朝鮮半島におけるアメリカ軍と韓国軍の動きや兵器を監視し、迫る脅威を察知できるようになる。また、核攻撃をより精緻に計画することも可能になるだろう。

偵察衛星の打ち上げに立ち会った金正恩氏

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画像説明, 偵察衛星の打ち上げに立ち会った金正恩氏

北朝鮮の宇宙機関、国家航空宇宙技術総局は、今回の打ち上げは、敵による「危険な軍事的動き」にさらされる中での自衛能力を強化するための試みだとしている。北朝鮮政府はさらに、「短期間のうちに」追加の偵察衛星を打ち上げる予定だと付け加えた。

この衛星が実際に有効なほど進んだものなのか、疑うアナリストもいる。韓国の国家安保戦略研究所でミサイル研究を担当するチャン・ヨングン氏は、過去の試みから考えると、衛星に搭載されているカメラの解像度は「おそらく詳細な軍事偵察を可能にするレベルではない」と推察した。

とはいえ、攻撃する場合には、標的が何であっても、より効果的な情報が必要になるため、低解像度であっても「ないよりはまし」だとした。

米カーネギー国際平和財団で核政策を専門とするアンキット・パンダ氏も、偵察衛星は北朝鮮の軍事力を強化する可能性がある一方で、むしろ朝鮮半島を「安定化させる効果」があるかもしれないと指摘した。

「(衛星があれば)北朝鮮政府は危機的状況下であまり臆病にならずに行動できるだろう」と、パンダ氏は述べた。「例えば、衛星を使えば、アメリカや韓国が実は大規模攻撃に向けて増強していないと、確認できるようになるので」。

2度の打ち上げ失敗を経て「成功」と

北挑戦が偵察衛星を軌道に進入させようとする試みは、5月8月に続いて今回が3度目だった。韓国政府は、北朝鮮がロシア政府から技術的な支援を受け、過去の失敗につながった課題を克服したとみていると、韓国政府関係者は話した。

金氏が9月に、ロシア極東アムール州のボストチヌイ宇宙基地でウラジーミル・プーチン大統領と面会した際、プーチン氏は北朝鮮の人工衛星開発を支援する意向を示した。北朝鮮が、ウクライナで使用する武器をロシアに送る見返りとして、ロシアが軍事的な専門知識を共有することに合意したのではないかと、アメリカと韓国は考えている。

しかし、前出のパンダ氏は、北朝鮮政府がロシアの技術支援を受け、それを実装したという証拠はないと述べた。「今回の打ち上げは北朝鮮にとって3度目の試みで、北朝鮮はここしばらくの間、宇宙システムの研究開発を独自に進めてきた」。

笑顔で握手を交わすプーチン大統領と金総書記

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画像説明, 笑顔で握手を交わすプーチン大統領と金総書記(9月13日、ロシア極東アムール州)

韓国国防研究院(KIDA)のチョ・ビユン准研究員は、ロシアが「形勢を一変させる」技術を提供するには、あまりに時間に限りがあったとしつつ、将来的に「重要な譲渡」が行われることが予想されるとした。

金氏と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)は2018年、南北間の緊張を緩和して紛争の勃発を防ぐため、包括的な軍事合意に署名した。軍事境界線付近での双方の軍事行動を制限し、警備隊の配備を止め、実弾演習を禁止し、飛行禁止区域を設定する内容だった。

しかし韓国政府は最近、境界線付近での偵察機や偵察ドローンの飛行を禁止するこの合意のため、韓国が攻撃に対し無防備になっていると主張していた。

韓国では22日早朝、国家安全保障会議のメンバーが集まり、続いて国防長官と関係閣僚らが会合を開いた。そして、直ちに境界線沿いの監視活動を再開すべきとの意見でまとまった。

韓国は監視体制を強化することで、これまで山の斜面に隠れていた北朝鮮の前哨基地や長距離砲を監視できるようになる。韓国政府は現在、アメリカの偵察衛星に頼って北朝鮮を監視しているが、11月末までに独自の偵察衛星を打ち上げる計画だ。

一部のアナリストは、軍事合意の一部効力が停止されれば、緊張関係をエスカレートさせ、境界線を越えた小競り合いが起こりやすくなると警鐘を鳴らしている。

韓国・統一研究院の洪珉(ホン・ミン)北朝鮮研究室長は、2018年の合意によって境界線を越えた衝突の数を大幅に減らし、北朝鮮の行動を抑制できていたと指摘。韓国政府は北朝鮮に「さらなる挑発を行うための正当な理由」を与えるリスクを冒したと、洪氏は述べた。

一方で、前出のチョ氏は、北朝鮮は2022年から定期的にミサイルを発射しており、軍事合意の一部効力を停止したところで緊張が高まるとは思わないとした。「挑発のサイクルはすでに、再び動き出している。韓国はいつかは対応しなければならない状況にあった」。