戦争犯罪の映像証拠、SNS各社に削除され消滅の恐れ=BBC調査
ジャック・グッドマン、マリア・コレニュク、BBCグローバル偽情報チーム

人権侵害疑惑の証拠が、テクノロジー企業によって削除され、失われている可能性があることが、BBCの調査で明らかになった。
こうした企業が運営するプラットフォームは、多くの場合、人工知能(AI)を使って生々しい映像を削除している。これによって、戦争犯罪の起訴につながる証拠になり得る映像も、保存されないまま削除されている可能性がある。
フェイスブックやインスタグラムを運営する米メタやユーチューブは、犯罪の証人になる義務と、ユーザーを有害コンテンツから守る義務の、双方のバランスを取ろうとしていると話す。
しかし、メタの監督委員会に参加しているアラン・ラスブリジャー氏は、IT業界はコンテンツ・モデレーション(監督・管理)について「用心深くなりすぎている」と語った。
プラットフォーム側は、こうした映像の公益性が高い場合、削除対象から外す場合があると言う。しかし、ウクライナで民間人が攻撃されている様子をとらえた映像をBBCがアップロードしようとしたところ、速やかに削除された。
AIは、有害で違法なコンテンツを一斉に削除することができる。だが、戦争での暴力的な映像などを管理する場合、機械は人権侵害を特定する機微を持っていない。
人権擁護団体は、このような情報の消滅を防ぐことが、ソーシャルメディア各社の急務となっていると述べている。
ラスブリジャー氏はBBCに対し、「なぜ企業が機械を開発し、訓練しているのかといえば、問題があるものやトラウマになりそうなものを見た瞬間に、それを取り下げるためだ」と話した。同氏が参加しているメタ監督委員会は、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)によって立ち上げられたもので、同社から独立した「最高裁判所」のようなものだ。
英紙ガーディアンの編集長だったラスブリジャー氏は、「企業にとって次の課題は、人間であれAIであれ、より合理的な意思決定をするための機械をどう開発するかだ」と述べた。
アメリカ政府のベス・ヴァンシャーク国際刑事司法担当特使は、IT企業がコンテンツを監視する権利を否定する者はいないだろうと指摘する。「懸念が起こるのは、その情報が突然消えた時だと思う」。
ウクライナでの民間人攻撃を撮影
元旅行ジャーナリストのイホル・ザハレンコ氏は、ウクライナでこうした事態に直面した。ロシアの侵攻以降、ザハレンコ氏は民間人への攻撃を記録している。
BBCは同氏に、首都キーウ郊外で会った。ここでは1年前、侵攻から逃げようとした人々がロシア部隊に射殺された。子供も含まれていた。
ザハレンコ氏はここで、少なくとも17人の遺体と、焼け焦げた車を撮影した。

ザハレンコ氏は何が起きているのかを世界に知ってもらうため、またロシア政府の主張に対抗するために、その映像をインターネットに投稿しようとした。しかしフェイスブックとインスタグラムにアップロードした瞬間、映像は即座に削除された。
「ロシア人自身が、あれは偽物だ、民間人には手を出していない、ウクライナ軍としか戦っていない、と言っていた」と、ザハレンコ氏は語った。
BBCはダミーのアカウントを使用し、ザハレンコ氏の撮影した映像をインスタグラムとユーチューブに投稿してみた。
インスタグラムは、4本のうち3本を1分以内に削除した。
ユーチューブは当初、同じ3本に年齢制限をかけたが、10分後には削除した。
我々は再度アップロードを試みたが、失敗した。映像に戦争犯罪の証拠が含まれているため、再掲してほしいという申し立ても拒否された。
SNS各社の主張は
ユーチューブとメタは、公益性の高い生々しい戦争映像の場合、通常ならば削除されるようなコンテンツも、閲覧を成人に限定してオンライン上に残すことができるとしている。しかし、ザハレンコ氏の映像を使った実験では、そうではないことが示唆された。
メタは、自社は「世界中の法執行機関からの正式な法的要請に応えている」とした上で、「国際的な説明責任手続きを支援するため(中略)当社の法的義務およびプライバシー義務に合致する、新たな手段を引き続き模索する」と述べた。
ユーチューブは、公益性のある生々しいコンテンツは例外扱いできるとした一方で、自分たちのプラットフォームはアーカイブではないと説明。「人権団体や活動家、人権擁護者、研究者、市民ジャーナリスト、その他の人権侵害(またはその他の潜在的犯罪)を記録する者は、コンテンツの安全確保と保存のために最善を尽くすべきだ」とした。
BBCはまた、シリア北部アレッポで薬局を営んでいたイマド氏を取材した。イマド氏は、2013年にシリア政府が近くに「たる爆弾」を落とすまで、この薬局を経営していた。
この爆発によって、イマド氏の部屋はほこりと煙まみれになった。助けを求める声がしたため外に出ると、手や脚、血まみれの遺体が見えたという。
地元のテレビ局がこの現場を撮影していた。映像はユーチューブとフェイスブックに投稿されたが、その後、削除された。
シリア内戦の騒乱の中、シリア人ジャーナリストらはBBCに対し、オリジナルの記録映像は爆撃によって破壊されてしまったと語った。
イマド氏は数年後に欧州連合(EU)に難民申請をした際、この現場にいたことを示す証拠を提示するよう求められた。
「薬局がカメラに収められていたことには確信があった。でもインターネットを観たら、動画が削除されていた」
活動団体や個人が証拠を収集
こうした出来事に対処するため、ベルリンに拠点を置く人権擁護団体「ムネモニク」などは、映像が削除される前に保存する取り組みを行っている。
ムネモニクは、人権侵害の証拠となるコンテンツを自動的にダウンロードし保存するツールを開発。まずはシリアを対象とし、現在はイエメンとスーダン、ウクライナにも拡大している。
同団体はこれまでに、70万件もの紛争地帯の映像や画像を、ソーシャルメディアから削除される前に保存した。これには、イマド氏の薬局近くであった攻撃を映した3本の動画も含まれていた。
こうしたコンテンツひとつひとつに、戦場で何が起こったのか、場所や日付、加害者などを知る重要な手がかりが隠されているかもしれない。
しかしムネモニクのような団体が、世界中の紛争地帯すべてをカバーすることはできない。
戦争犯罪の立証はきわめて困難で、できるだけ多くの資料を集めることが重要だ。
BBCヴェリファイ(検証チーム)のオルガ・ロビンソン記者は、「検証とはパズルを解くようなものだ。一見関係のない情報をつなぎ合わせ、何が起きたのかの全体像をつかんでいく」と語った。
オープンソースとなったコンテンツは、ソーシャルメディアで誰でも手に入れられる。そのため、紛争に巻き込まれた親族を助けたいという使命を持った人たちが、その保存の任務に当たることが多い。

アメリカ在住のラフワ氏は、近年紛争が続いているエチオピアのティグレ北部ティグレ州に家族がいる。この地域では、エチオピア当局が情報を厳しく統制している。
しかしソーシャルメディアによって、外界から隠されてしまう紛争の映像記録が残されている。
「これは私たちの義務だ」とラフワ氏は語る。
「調査には何時間もかける。そしてこのようなコンテンツを目にしたとき、あらゆるオープンソースの情報ツールを駆使して確認しようとする。でも、自分の家族が無事かどうかわからない」
人権活動家らは、削除されたコンテンツを収集し、安全に保存する正式なシステムが緊急に必要であると述べている。これには、コンテンツの検証を助け、改ざんされていないことを証明するためのメタデータの保存も含まれる。
アメリカ政府のヴァンシャーク国際刑事司法担当特使は、「説明責任を果たす将来的な必要性に備え、情報を保存できるような仕組みを作る必要がある。ソーシャルメディアのプラットフォームは、世界中の説明責任メカニズムとの取り決めを進んで行うべきだ」と述べた。










