【図解】 イギリス国王チャールズ3世の戴冠式 どこでどのように
ビジュアル・ジャーナリズム・チーム、BBCニュース

昨年9月に即位したイギリス国王チャールズ3世の戴冠式が、5月6日にロンドンで行われる。宗教典礼と華やかな様式を組み合わせた象徴的な儀式を、イギリス内外で数百万人が祝うことになる。
チャールズ国王は妻のカミラ王妃と共に、ロンドンのウェストミンスター寺院で戴冠式に臨む。1066年以来、同寺院で王冠をいただくのは、40人目となる。
1000年以上前までさかのぼる儀礼に彩られる式典は、どのようなものになるのか。

式典の朝、バッキンガム宮殿とウェストミンスター寺院を結ぶパレードのルート沿道は、現地時間午前6時(日本時間午後2時)から先着順で入場可能となる。


バッキンガム宮殿前の広い道路「ザ・マル」から官庁街ホワイトホールへ続く沿道がいっぱいになると、訪れた人はハイド・パーク、グリーン・パーク、セント・ジェイムズ・パークに設置される公式パブリック・ビューイングの会場へ向かうよう案内される。
招待客には、退役イギリス兵や国民健康サービス(NHS)などの医療介護関係者も含まれる。パレード観覧用の招待客席は、バッキンガム宮殿の外に設けられている。
王室騎兵隊の約200人が国王夫妻に随行するほか、約1000人の兵が沿道警備にあたる。
パレードの規模は1953年のエリザベス女王戴冠式に比べると小規模になるが、これは1953年当時は複数の王室関係者や英連邦諸国の首脳もパレードに参加したため。
パレード開始

国王夫妻を中心とした一行はバッキンガム宮殿を出発し、ザ・マルからトラファルガー広場へ出て、さらに官庁街ホワイトホールと議事堂前のパーラメント通りを経た後、議会前広場からブロード・サンクチュアリ通りへ入り、ウェストミンスター寺院の西の大扉に到着する。
前回の戴冠式までの伝統と異なり国王夫妻は、故エリザベス女王の即位60年を記念して2012年に作られた「ダイヤモンド・ジュビリー・ステイト・コーチ」を使用する。新しいこの馬車は、油圧式サスペンションと空調がついているため、乗り心地は1762年完成の「ゴールド・ステイト・コーチ」よりも優れている。
「ゴールド・ステイト・コーチ」は1830年代以来、すべてのイギリス王の戴冠式で使用されてきたもの。


ウェストミンスター寺院に到着
午前11時(日本時間午後7時)の少し前に、一行はウェストミンスター寺院に着く予定。国王は、膝丈のズボンに絹の靴下などの伝統的な装束ではなく、軍服姿で式典に臨む見通し。

画像提供, Getty Images

国王は西の大扉から寺院に入り、寺院の中央まで身廊を進む。
国王を先導する行列には、複数の宗教の指導者や代表、英連邦の一部の国の国旗を掲げた代表や総督、首相らが続く。イギリスのリシ・スーナク首相もここに参加する。首相はこの後の礼拝の中で、聖書から朗読する役も担っている。


式典は午前11時開始の予定。国王が選んだ曲が演奏される。ヘンデルやエルガーなどなじみのあるクラシック曲のほか、ミュージカルで有名なアンドリュー・ロイド・ウェバーさんによる新曲など、国王が新しく依頼した12曲も含まれる。父フィリップ殿下をしのんで、ゆかりのあるギリシャ正教の音楽も演奏される。
式典では、国王の孫のジョージ王子や、カミラ王妃の孫たちが侍者として式に参加する。王に先立ち、行列に参加した人たちが寺院内でレガリア(王権を象徴する宝物)を運び、祭壇に安置する。
「レガリア」とは
英王室のウエブサイトによると、王冠や宝玉、王笏(おうしゃく、王杖)といった王権を象徴する宝物を今も戴冠式で使用する王室は、欧州ではイギリスのみという。
個々の宝物はそれぞれ、君主が担う責務の一端を表す。
戴冠式では随所において、君主の宝玉、十字架付きの王笏、鳩の飾りが付いた王笏などが、国王に渡される。
また、キリスト教を表さない腕輪やローブ、指輪、手袋といった戴冠式用のレガリアについては、ムスリム(イスラム教徒)、ヒンドゥー教徒、ユダヤ教徒、シク教徒(シーク教徒)の人々が、チャールズ国王に手渡す役割を担う。
カミラ王妃には、国王の王笏に合わせて、十字架付きの王妃笏と鳩の飾りの付いた王妃笏が渡される。



戴冠式は2時間弱をかけて、いくつかの段階に分かれて行われる。
伝統的には世襲貴族が新しい君主に忠誠を誓う「諸侯の称賛」と呼ばれたものの代わりに、今回は「人々の称賛」として、寺院内や中継で見ている全員が国王に忠誠を誓うことができる。
また、女性聖職者や複数の信仰の代表が初めて式の進行に関わるほか、国王自身が声を出して祈る。
第一段階:承認
アングロ・サクソン時代にさかのぼる伝統に基づき、国王は「民」に紹介される。
700年前から戴冠に使われる椅子の前に立ち、チャールズ国王が「まごうかたなき、疑いようのない国王」だと宣言される。続いて、王をたたえ仕えるよう会衆への呼びかけが行われる。
前者の宣言は、カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー氏が行う。後者の宣言は今回初めて、ガーター勲章の女性団員とシッスル(アザミ)勲章の女性団員、ならびに軍の聖ジョージ十字受勲者が行う。ガーター勲章とシッスル勲章はそれぞれ、イングランドとスコットランドで最古の騎士団の団員に与えられるもの。
集まった人たちは「神よ王を救いたまえ!」と叫び、トランペットが響く。
「エドワード王の椅子」や「聖エドワードの椅子」とも呼ばれる戴冠用の椅子は、製作時の用途で今も使われる家具としてイギリス最古だといわれる。これまで26人の君主がこれに座り、王冠を受けてきた。


1300年に作られたこの椅子は当初、エドワード1世の命令で、スコットランド王家を守護する「運命の石」を中に納めるために作られた。
スコットランド・スクーンの修道院に保管された「運命の石」は、かつてはスコットランド王家の戴冠の地を示すものだった。後にイングランド王家に渡ったものの、1996年にスコットランドへ戻された。今回の戴冠式では、再びロンドンへ運ばれている。
カシの木で作られた椅子は、「コスマテスクの舗装」と呼ばれるモザイク細工の床の中央に置かれる。モザイクの床は中世に敷かれた歴史的なもの。国王はここに座り、正面の主祭壇に正対する形となる。これによって、儀式の宗教性が強調される。

第二段階: 誓い
国王による誓いの文言は数百年前から不変で、キリスト教プロテスタントに特有の表現を使っている。しかしカンタベリー大主教は今回、その「文脈」を現代に合わせたものにするという。
国王の誓いに先立ち大主教は、イングランド教会は「あらゆる信仰や信念の人たちが自由に暮らすことのできる」環境を作っていくと述べる。
続けて大主教はチャールズ3世に、自らの治世において法とイングランド教会を護持すると確認するか尋ねる。これを受けて国王は聖書に手をのせ、その約束を「実践し守る」と誓う。これは法的な要件でもある。
次に国王は、「継承宣言の誓い」を述べ、自分は「忠実なプロテスタント教徒」だと表明する。国王はさらに、声に出して祈りを唱える。
その後、ヒンドゥー教徒のスーナク首相が、新約聖書の「コロサイ人への手紙」を朗読する。
第三段階: 聖別
王の儀礼用ローブが外され、王は戴冠の椅子に座り、聖油を塗られる。イングランド教会の長でもある君主としての、霊的な地位がこれで強調される。
大主教は金色の聖油入れ「アムプラ」から、特別な油を戴冠用のスプーンに注いだ後、それを王の頭、胸、両手へと塗り、十字を切る。
聖油入れは1661年のチャールズ2世の戴冠用に作られたものだが、その形は古い容器を模したもの。さらに、12世紀にカンタベリー大司教の聖トマス・ベケットの前に聖母マリアが出現し、未来のイングランド国王に聖油を施すための金色のワシを授けたという伝承にもちなんでいる。
戴冠用のスプーンは、聖油入れより古い。17世紀後半のイングランド内戦でオリヴァー・クロムウェルがレガリアを破壊したが、このスプーンは難を逃れた。

聖油そのものは新しく、今回の戴冠式用に作られた。エルサレムにあるオリーブ山の木々から採取されたオリーブの油で、エルサレムの聖墳墓教会で聖別されたもの。
この儀式は戴冠式の中で最も神聖な部分にあたり、この段階では王を帳(とばり)で覆い、その姿を会衆の目から隠す可能性もある。
第四段階: 叙位
これがまさに、王が冠をいただく瞬間だ。国王はその生涯でこの時だけたった一度、聖エドワードの王冠をかぶる。
王冠の名称は、アングロ・サクソンの王、エドワード懺悔(ざんげ)王のために作られた、より早い時代のものにちなんでいる。古い王冠は1220年以来、クロムウェルが溶かすよう命令するまで、戴冠式に使われたという。
今も使われる聖エドワード王冠は、チャールズ2世が製作を命じたもの。聖エドワードの王冠に似せた上、さらに豪華なものをチャールズ2世は要求した。
この王冠を戴冠式に使う君主は、チャールズ2世、ジェイムズ2世、ウィリアム3世、ジョージ5世、ジョージ6世、エリザベス2世に続いて、チャールズ3世の計7人となる。


王はまず、君主の宝珠、戴冠の指輪、十字架のついた王笏、ハトの飾りのついた王笏を受け取る。
続けて大主教は、聖エドワード王冠を国王の頭にのせる。これをもって寺院の鐘が2分間鳴らされ、ファンファーレが鳴らされ、イギリス各地で礼砲が放たれる。
ロンドン塔では62回の礼砲が、王室近衛騎馬練兵場(ホーズガーズ・パレード)では6門一斉発射が行われる。さらに国内11カ所で21発の礼砲が発射される。この11カ所はスコットランド・エディンバラ、ウェールズ・カーディフ、北アイルランド・ベルファストなど。国外派遣されている英海軍艦からも放たれる。
第五段階:王座
儀式の最後の段階で、国王は王座に座る。大主教や主教、諸侯たちが王を担いで座らせる可能性もある。
伝統では、この時点で王族や貴族諸侯が新君主の前にひざまずき、忠誠を誓い、右手に口づけをするのがならわしだった。しかし今回、実際に国王の前にひざまずく王家の公爵は、ウィリアム皇太子のみになる予定。
さらに、伝統的な「諸侯の称賛」に代わり、今回は「人々の称賛」として、寺院内や中継で見ている全員が国王に忠誠を誓うことができる。
カンタベリー大主教の公邸ランベス宮殿によると、この「数百万人の声」の個所では、「寺院とそれ以外の場所で、望む者は誰もが共に述べましょう」という呼びかけに続き、「国王陛下と、あなたの後継者たちに、法の下、神の助けのもと、真の忠誠を尽くすと誓います」と一斉に唱えることになる。
続いてカンタベリー大主教が「神よ、王を救いたまえ」と唱え、人々は「神よ、チャールズ国王を救いたまえ。チャールズ国王に長寿を。国王が永遠に生きますように」と応じることになる。
王妃
続いてカミラ王妃が、聖油での聖別を受け、冠を与えられ、王座に座る。誓いの言葉はない。
王妃の戴冠には、ジョージ5世の妃メアリー王妃のために作られた冠が使われる。カミラ王妃の頭に合わせて形や大きさが変更され、世界最大のダイヤモンド原石からカットされた「カリナン III」、「カリナン IV」、「カリナン V」がはめ直された。


聖餐(せいさん)
宗教儀式の締めくくりとして、国王夫妻は聖餐を受ける。イエス・キリストの肉と血を象徴するパンとブドウ酒を受けるこの儀式は、キリスト教において重要な信仰の行為。
また、今回の儀式では初めて、カトリック教会のヴィンセント・ニコルズ枢機卿など、異なるキリスト教宗派の指導者も祝福に参加する。
出発
イギリス国歌の演奏と共に式典は終わる。国王夫妻は王座を下り、おそらく聖エドワード聖堂に入る。国王はそこで聖エドワード王冠を外し、大英帝国王冠をかぶった上で、寺院を出る行列に加わる。
宗教的な儀式が終わった後、国王はユダヤ教、ヒンドゥー教、シク教、仏教の指導者からあいさつを受ける。



バッキンガム宮殿へ戻るパレードで、国王夫妻は1761年製作の「ゴールド・ステイト・コーチ」に乗る。この馬車は、1831年のウィリアム4世の戴冠式以降、イギリス王室のすべての戴冠式で使われてきた。
ウィリアム皇太子の子供3人、ジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子は両親と共に、別の馬車で国王夫妻の後に続くと報じられている。
戴冠式にはイギリス軍の約4000人が参加。国防省は、軍が参加する式典としては数十年来の規模だとしている。


イギリス軍のほか、英連邦諸国やイギリス海外領土の代表もパレードに加わる。
英在郷軍人会連盟からは100人以上が議会前広場で沿道に並ぶ。

ウェストミンスター寺院からバッキンガム宮殿まで、パレードが進む経路の距離は約2.3キロ。行進する軍人たちが国王夫妻に敬礼し、万歳三唱などをする。
1953年の女王戴冠式では、このパレードのルートは6キロ以上で、一つの場所を行列がすべて通過するには45分かかった。
バッキンガム宮殿上空の儀礼飛行
1902年のエドワード7世の戴冠式以来、新しい君主がバッキンガム宮殿のバルコニーに立ち、ザ・マルに集まった人たちにあいさつするのが、慣習となっている。
1953年の戴冠式の後、エリザベス女王は夫フィリップ殿下、母エリザベス皇太后、妹マーガレット王女や子供たちと一緒にバルコニーに並び、イギリス軍数百機の儀礼飛行を見上げた。

王室によると、チャールズ国王とカミラ王妃もこの伝統にならい、バルコニーに立つ予定。ほかに王家の誰が並ぶのかはまだ明らかになっていない。
この日の儀礼飛行は6分間で、陸海空軍が参加する。空軍のアクロバット飛行隊「レッド・アローズ」が最後を締めくくる。
(記事作成: クリス・クレイトン、デザイン:リリー・フイン、ゾーイー・バーソロミュー、イラスト:ジェニー・ロー)











