【解説】 ウクライナ軍事支援の米機密文書が流出 誰が何の目的で?

ポール・アダムスBBC外交担当編集委員

New Ukrainian army brigade recruits take part in a military exercise conducted by a foreign instructor

画像提供, Reuters

画像説明, リークされた文書には、複数国がウクライナに提供する訓練の詳細が含まれている。画像は他国の軍事演習に参加するウクライナ陸軍旅団の新兵

ロシアによるウクライナ侵攻に関わる、米国防総省の機密文書がインターネット上に出回っている。その数は地図や図表、写真など約100点に上る。この事態を、どう捉えれば良いのだろうか。

行動計画や、数十もの難解な軍事略語を含むこれらの文書の一部は、「最高機密」と記され、ウクライナでの戦争の詳細な実態が描かれている。

ウクライナとロシアの死傷者数や軍事的弱点、そして重要なことに、ウクライナが予想どおりに春の攻勢に出る場合の双方の相対的な強さについても記されている。

おそらくどこかのダイニングテーブルの上に広げられ、写真に収められたであろうこれらの文書は、果たして本物なのだろうか。私たちやロシア政府がまだ知らないことを教えてくれるものなのだろうか。

まず一番に指摘すべきは、ウクライナでの戦争に関する米機密情報の流出としては、14カ月前にロシアがウクライナに全面侵攻して以来、最大規模のものだということだ。6週間も前に作成された文書も含まれているが、影響は非常に大きい。

国防総省関係者はこれらの文書が本物だと認めたと、メディアは報じている。

ただ、少なくとも1点の情報は、後で荒っぽく改変されたようだ。だが、100点近くもの文書が流出している状況からすれば、比較的小さなことに見える。

BBCは流出文書の20点以上を確認した。そこには、ウクライナが数週間以内に始める可能性のある攻勢に向けて12の新たな旅団を編成する中で、ウクライナにどんな訓練や装備が提供されているかの詳細も書かれている。

文書には、旅団の準備が整う時期や、西側同盟国からウクライナに提供される戦車や装甲車、大砲がすべてリストアップされている。

ただ、「訓練や準備状況は装備品の納期の影響を受ける」とある。

Ukrainian soldiers fire a German howitzer Panzerhaubitze 2000

画像提供, Reuters

画像説明, ドイツ製自走榴弾(りゅうだん)砲パンツァーハウビッツェ2000を発射するウクライナ軍

ある地図には、春が近づくにつれて変化するウクライナ東部の地面の状態を評価する、「泥が凍っている時期」について記されている。

ウクライナの防空能力を極限まで試すこととなった冬が終わったいま、ウクライナの防空能力は低下しているとの厳しい分析も出ている。限られた資源を、民間人や重要インフラ、前線部隊を守るために配分しているからだとしている。

今回の流出文書は、ウクライナ軍の状態について多くを語っているばかりでなく、アメリカの他の同盟国についても語っている。イスラエルや韓国といった国々が、ウクライナなどの繊細な問題について内部でどんな議論をしているのか、明らかにしている。

文書には極秘扱いのものや、アメリカの最も親密な同盟国とだけ共有するとされているものもある。

新しい情報は

文書に書かれている詳細の多くは、よく知られていることだ。ただ、より多くの情報が、1カ所にまとめられている。

死傷者数を例に挙げると、ロシア兵の死傷者数が18万9500人から22万3000人に上っているとアメリカが推定しているのは、それほど驚きではない。

ウクライナ側の死傷者数も12万4500人から13万1000人と、ここ数週間に複数のジャーナリストが説明を受けたおおよその人数と一致する。

いずれの場合も、情報の欠落や作戦上のセキュリティーの問題、そしておそらく双方が意図的に行ったミスリードにより、数字の「信頼性は低い」と国防総省は認めている。

ウクライナ側の死傷者数が最悪ペースで増えているように見せかけようと、この分野の文書は改ざんが試みられている。

メッセージアプリ「テレグラム」の親ロシア派サイトに掲載されたものでは、ウクライナの「戦死者」数(1万6000人から1万7500人)がロシアの戦死者数に置き換えられており、ウクライナの戦死者数は元の数字をひっくり返して「6万1000人から7万1500人」にしてある。

こうした状況からは、誰が、一体何のために文書を流出させたのかという疑問がわいてくる。

「ほら、リーク文書があるよ」

これらの文書がメッセージング・プラットフォーム「Discord」から匿名掲示板「4chan」、テレグラムへと広がっていった経緯は、オープンソース調査報道団体「Bellingcat」のアリック・トーラー氏がすでに明かしている。

トーラー氏によると、同団体はリーク元はまだ特定できていないものの、3月上旬にゲーマーに人気のあるメッセージング・プラットフォーム上に文書が出現していたことがわかっている。

3月4日にコンピューターゲーム「マインクラフト」のプレイヤーがよく利用する「Discord」サーバーで、ウクライナでの戦争について議論がなされた後、あるユーザーが「ほら、リーク文書があるよ」と書き込み、10点の文書を投稿したという。

珍しい出来事ではあるだろうが、リークのかたちという点では決して特殊ではない。

2019年には、イギリス総選挙を前に、掲示板サイト「Reddit」や「4chan」などに米英の貿易関係に絡む文書が浮上した。

「Reddit」は当時、未編集の文書はロシアから発信されたものだと説明した。

昨年の事例では、オンラインゲーム「War Thunder」のプレイヤーたちが、軍事に関する機密文書を繰り返し投稿していた。仲間内で話題を呼ぶのが狙いだったとみられる。

今回の流出は、それより繊細かつ大きなダメージを与えうるものだ。

ウクライナは「作戦上のセキュリティー」を慎重に守っており、重要な時期にこのような機密文書が浮上したことを喜ばしく思わないだろう。

ウクライナの春の攻勢は、ウォロディミル・ゼレンスキー政権にとって、戦場での力学を変化させ、後の和平交渉の条件を整えるうえで、のるかそるかの分かれ道となり得る。

ウクライナ当局は、ロシアが偽情報キャンペーンを行っている可能性があるとみている。

ほかの軍事ブロガーたちは、今回の出来事はすべて、ロシア軍の司令官を惑わすための西側の画策の一環だと、真逆の主張を展開している。

重要なのは、これまでに流出した文書には、ウクライナの反攻がどの方向にどれくらいの力で行われるのかを示す内容は何もないということだ。

ロシア政府はすでに、ウクライナがどれくらいの準備を進めているのか、かなりの見当をつけているはずだ(ロシアの諜報活動における失敗は、この戦争の間ずっと目立ってはいるが)。それでもウクライナ政府は、成功の可能性を最大限に高めるため、作戦がどう展開されるのかについて敵にあれこれ迷わせておく必要がある。