【解説】 米中「気球」騒動、両国の関係修復の機運しぼむ
スティーヴン・マクドネル中国特派員
中国からアメリカ上空に飛来していた気球が撃墜され、海中へと落下した。同時に、両国の関係修復の試みも墜落した。
米国防総省は、空高く飛行し、ついには撃墜された機器の軌跡を追跡していた。それと同じように、気球に関して中国が示した次のような反応の軌跡を、誰もがたどることができる。
現在調査中だ→私たちの気象観測気球がコース外に吹き飛ばされたのは遺憾だ→アメリカの政治家とメディアは誇張している→みんな冷静に→アメリカがこの飛行物体を攻撃したのは国際慣例の深刻な違反だ――。
米外交トップのアントニー・ブリンケン国務長官は今週、中国を訪問予定だった。そのため中国は当初、今回の件はすべて事故だとして、米政府を安心させようとした。
しかし、ブリンケン氏が訪中を取りやめ、気球が戻ってこないことが明らかになると、中国は対決姿勢を明確にした。
そして現状は、中国政府が望んでいたものとはだいぶ違っている。
ブリンケン氏は今ごろ、米中の友好関係を築くか、最低でもこれ以上の関係悪化を食い止めようとしているはずだったのだ。
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誤解のないように。中国の習近平国家主席は、ブリンケン氏の訪中に大きな期待を寄せていた。自ら同氏に会う予定だったとも言われている。
では、このプロセスを台無しにしてもおつりがくるような、どれほど有用な情報を、気球は集めたのか。
簡単な答えは「何も」だ。だからこそ、中国が今回、気球をこのような方法でこの時期に飛ばしたのは中国側のミスだったはずだと、多くのアナリストは考えている。それがたとえ、ある程度はスパイ行為に相当したとしてもだ。
もしその考えが正しいなら、今ごろ誰かがこの件で厳しく叱責されているはずだ。今や2つの高行動気球が問題になっており、もう1つは中南米の上空に浮いているだけに。そうした状況では、非難はなおさら強くなる。2つ目の気球については、同様に「限定的な自己操縦能力」によってコースを大きく外れたのか、まだ何の説明もなされていない。
国際的には、中国共産党は全知全能の権力機関で、習主席が操作する巨大で効率的なスーパーコンピューターのようなものだと、世界の大勢が想像しているようだ。
同党が巨大な、多岐にわたる組織なのは間違いない。しかし、その一方で、党内の各部門や各勢力が影響力を競い合っている。ライバルが有利にならないよう情報を隠し、意図的に行動を予見させないこともある。
機器を積んだ気球がアメリカの核ミサイル格納庫の近くを漂っているのが明らかになった時、目的はスパイ行為だけでなく、バイデン米政権へのメッセージでもあるはずだと、一部では憶測が飛んだ。

画像提供, Getty Images
しかし、中国政府の最高幹部に至るまで望んでいた米閣僚の訪中を頓挫させたというダメージの大きさを考えると、その説明は納得しにくい。
ブリンケン氏の訪中は、中国にとって重要だった。そのことは、中国政府がかなり融和的な言葉遣いで、訪中の可能性を残そうとしていたことから分かる。
中国外務省の報道官は、「不可抗力により飛行物体が意図せず米領空に入ったことを、中国側は遺憾に思う」と述べたとされる。
気球がどれだけ気象調査を目的とし、どれだけスパイ活動目的だったのかは、米中の緊張緩和を探っていた両国の関係者らにとって、あまり重要ではない。今回の出来事は、壊滅的なものだったからだ。
ブリンケン氏の訪中について、大きな進展をもたらすことが期待されていたわけではない。双方が会談すること自体が、大進展となるはずだった。
両国は、武力衝突へと進んでしまうのを防ぐため、さまざまな「ガードレール」や、コミュニケーションの取り方、越えてはならない一線について、話し合うはずだった。
習主席もこの会談を望んでいた。中国のかじ取りを未来に向けて戦略的に進めていると、国内向けにアピールする機会を求めていたからだ。

あまりに急なことだったため、救急病棟は患者であふれ、薬が不足。新型コロナウイルスによる死者数は把握不能となった。
中国政府は現在、こうした事態を乗り越えるとともに、経済的に好転して再び国境を開く中国の姿を印象づける必要がある。
その目的には、米閣僚の訪中はかなり役立ったはずだ。
主要超大国の米中双方がここまでどんな抗議をしてきたのか、分析してみよう。
アメリカは、「米主権に対する明確な侵害」だと主張している。ただ、アメリカが中国監視のための非常に高度な手段を多数保有しているのは、周知の事実だ。
一方の中国は、アメリカによる「民間の無人飛行物体への攻撃」を非難した。しかし、もしアメリカの偵察気球が中国領空に飛来したら、人民解放軍がすぐさま撃ち落としたはずだ。それも、誰もが知っている。
つまりある意味、双方の憤慨は、かなり芝居がかっているものなのだ。
しかし幸いにして、気球がなくなったことで、両国は先へ進める。そして、人々が「あの気球の件、覚えてる?」と聞き合うようなころに、ブリンケン氏の訪中日程を再調整するのだろう。










