ウクライナのもう一つの戦争、汚職……ゼレンスキー氏の対応は
ジェイムズ・ウォーターハウス、BBCウクライナ特派員

画像提供, Getty Images
これは普通とは違う内閣改造だ。
私がこの記事を書いている時点で、11人の政府高官が、汚職撲滅を目指すウクライナ政府の取り組みの一環として、辞任あるいは更迭された。
このためアメリカでは、ウクライナへの支援を制限すべきだと言う政治家も出ている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、一刻も早く世間の信頼を取り戻そうとしている。しかし、汚職疑惑の内容は深刻で、タイミングも悪かった。
汚職の指摘のいくつかは、現地メディア「ウクラインスカ・プラウダ」の調査報道記者、ミハイロ・トカチ氏のおかげで、表面化した。
トカチ氏は最近、とある政府高官のパーソナル・トレーナーの会社が、ロシアの侵攻開始以来、数百万ポンドを受け取っていた疑惑を伝えた。ウクライナ大統領府のキリロ・ティモシェンコ副長官の汚職についても報じた。
ティモシェンコ氏が大手デベロッパーの邸宅に家族を引っ越しさせていたとトカチ氏が報じた2カ月後、ティモシェンコ氏は辞任した。
トカチ氏はさらに、ティモシェンコ氏が高額なポルシェに乗っていると様子に見える動画を公開している。ティモシェンコ氏は、自分は何も問題のある行動はとっていないと主張している。
「資金の出所がはっきりしない資金について、政治家や政府関係者は、その資産を近親者名義にすることが非常に多い」と、トカチ氏は話す。
「これは、不透明な手口を示すものだ。今は政府関係者の一挙手一投足が、社会に明示されるべき時なのに」
トカチ氏は、汚職が横行するのはよその国も同じだ認めた上で、何より大事なのは、汚職にどう対応するかだと言う。

首都キーウ近郊ヴォルゼルでパン屋を経営するイワンナさんは、政府が無名の会社と水増し価格の取引に合意していたことや、政府高官が35万ドルの賄賂を受け取ったとされること、さらには政府幹部が高級車を乗り回したりしていたことなどに、あきれていた。
夫のヴィヤチェスラウさんが店の奥でパンの種をこねている間、イワンナさんは「そういうのは嫌いです」と語った。
「そのお金が、ウクライナのためになることに使われる方がよかった」
「何年も職にとどまっている政治家たちをみんな排除すべきだ。汚職が当然になって、汚職でおなかをいっぱいにしている」
ウクライナが軍事、人道、財政面で数十億ドルの支援を受け取ることには、責任が伴う。監視の目も厳しくなる。
一方で、こうした資金が間違った相手にわたる可能性も増している。
「我々はウクライナの存在について話している」とトカチ氏は話す。
「ウクライナにとってこの1年は、ありきたりのものではなかった。ゼレンスキー大統領が引き起こした、大勢の辞職は、事態の重みを認める大切なもので、必要な対応だった」

31年前に独立を宣言して以来、ウクライナでは公共事業と政界のほとんどに汚職が蔓延(まんえん)してきた。
2014年にはなんとしても民主化を求める国民の反政府デモによって、親ロ派のヴィクトル・ヤヌコヴィチ大統領が失脚した。
それ以来、ウクライナ政府はさまざまな政治改革に取り組んできた。ロシアはウクライナに軍事介入を繰り返すようになったのが、改革への大きな原動力となった。西側から継続的な支援を受けるためにも、ウクライナには改革が必要とされた。
新しい反汚職機関が設置され、公金の使い方にはに新しいシステムが取り入れられ、警察組織が再編された。政治家は資産公開を求められ、時につらくなるほどの蓄財ぶりが明らかになった。
ウクライナ議会の反汚職委員会で副委員長を務めるヤロスラフ・ユルチチン議員は、「我々には結果が重要だ」と語った。
「確かに、過去の汚職の残りがまだある。だが少なくとも今は、それについて黙っていない。次の段階は汚職防止だ」

ユルチシン議員は、西側諸国からの支援が危うくなったとしても、今回の政府高官の違法行為発覚は最高のタイミングだったと話す。
「西側のパートナーは、ウクライナが2つの戦争を戦っていることを知っている(中略)ひとつはロシアとの戦争、もうひとつはウクライナの将来に向けた内部の戦争だ」
昨年2月にロシアが全面侵攻してくる以前、欧州連合(EU)やアメリカはウクライナの反汚職対策に満足していなかった。
2023年に持ち上がった疑惑がゼレンスキー大統領にどのような政治的ダメージを与えるかは不明だが、今回の大統領の対応は、アメリカから「迅速かつ断固としている」と評価されている。
今後、さらに複数の汚職疑惑が浮上すると予想される。それだけにゼレンスキー氏としては、アメリカ以外の支援国からも同様の好意的な反応が欲しいところだろう。
(追加取材:ハナ・チョルノス、シヴォーン・レイヒー)








