イギリスでなぜストが増えているのか 交通や医療、学校・大学でも

Rail workers from three trade unions hold a co-ordinated strike, 1 October

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イギリスでは今年、さまざまな分野でストが相次ぎ、市民生活に影響が出ている。

物価高騰に伴う生活費上昇を乗り切るため、何万人もの労働者が給与での支援を求めている。公共交通機関や郵便局のストなどが相次ぎ、学校も教職員のストによる閉鎖が多発している。作業員のストのため、ごみの回収は遅れ、法廷弁護士のストのために裁判所の業務も滞っている。

来年になってもストは起きる見通しで、医療従事者や公務員による労使協議が続いている。

なぜストが続いているのか

さまざまな分野で労働条件、年金や賃金をめぐる労使紛争が起きている。

加えて物価は、年率11%増で上昇している。これは、過去40年で最速のペースだ。

つまり、労働者にとっては賃金上昇分よりも物価が上昇しているため、家計が圧迫されていることになる。

多くの業界で労働者は、労働組合に所属している。労組は労働者の利益を代表して経営陣に伝え、賃金や労働条件の改善を求めて交渉する。

労組が会社側との交渉で、順当だと思える給与水準が確保できない場合や会社側と妥結できない場合は、ストライキなどの争議行為に出るか、組合員に投票してもらうこともある。

働く者が労働条件の改善などを求めて仕事をしないのがストライキだが、そこまで極端な対応ではなくても、たとえば残業を拒否するなど、ほかの形で雇用主に圧力をかける方法もある。最低限の基本業務は維持する職種もある。医師や看護師が完全に働くのをやめることはない。人命にかかわるからだ。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、労働争議は増え続けている。

国家統計局(ONS)によると、イギリスで労働争議で失われる時間を日数換算した合計は、2019年の月間平均で1万9500日分だったのに対して、2022年7月は8万7600日分に増えていた。

Postal workers and strike action protesters outside the Mount Pleasant Royal Mail sorting office on , 26 August 2022

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画像説明, ロンドン・マウントプレザントの集配郵便局前で抗議する郵便局員や抗議者(8月26日)

ストをしているのは

特に注目を集めているストライキは次の通り――。

  • イングランド、ウェールズ、北アイルランドで12月15日と同20日に、看護師の大規模なストライキが予定されている。国民保健サービス(NHS)が誕生して以来、最大規模のストになる見通し。イギリス看護協会(RCN)は、政府との賃金交渉の難航をスト実施の理由に挙げている。救急救命担当の看護師は勤務を続けるという
  • イングランドの救急サービスの半数で、救急隊員や緊急電話の応答係などが、昇給を求めてストライキを決行することで合意した。多くの当事者を代表する労組の一つは、ストはクリスマス前に予定されていると話すが、組合員の多くがストに賛成しなかったことや、救急医療を保証する規則から、実際の影響は限定的なものになる可能性もある
  • イギリスでは今年6月以来、鉄道ストが相次いでいる。3つの主要鉄道労組は1日限定のストを繰り返しており、鉄道網の一部はほとんど休止状態になっている。クリスマスに向けてさらにスト予定日が発表されており、今後半年は、交通の混乱は続く見通し
  • 郵便業務を担当するロイヤル・メールの労働者は8月から計8回にわたりストを刊行しており、クリスマス前には12月24日を含めて、数日にわたり抗議行動を予定している。
  • 11月24日、25日、30日には、150の大学など高等教育機関の教職員7万人以上が賃上げを要求してストを決行した
  • スコットランドでは11月24日、ほとんどの学校が休校になった。教職員労組は10%の賃上げを要求しており、スコットランドの学校が教職員の全面的なストで休校になるのは約40年ぶり。今月と来年1月、2月にもストが予定されている
  • 航空会社の地上スタッフは11月18日から3日間のストに突入。ロンドン・ヒースロー空港などで混乱が生じた
  • 西部リヴァプールの港湾作業員たちは賃金交渉で合意に達し、ストを中止したものの、東部フェリックストウでは散発的なストが長期間続いている

このほかにも、税関職員や運転免許試験官などが加盟する公務員労組の約10万人がスト決行を支持したことから、12月13日から1月16日にかけて、さまざま分野でストが連続する。関連労組は、10%の昇給を要求している。

また、イギリス医師会が代表するジュニアドクター(専門医になる前の若手医師)が来年1月に、昇給2%の給与交渉をめぐりストを実施するか投票する予定。

イングランド、ウェールズ、北アイルランドでは、医療従事者約35万人が、スト実施の是非を決める投票を10月末に開始した。

教職員40万人が加盟する複数の労組も、ストの是非を決める投票を開始している。

国民はストを支持しているのか

相次ぐストライキを国民が支持しているのか、複数の世論調査が実施されている。

調査会社サヴァンタ・コムレズが10月末に行った調査では、労働争議を全般的に支持する人は60%、反対する人は33%だった。

賃金や労働条件をめぐるストライキについては、分野によって反応は異なった。最も支持されたのは、看護師や教師によるストだった。

strike

夏に調査会社イプソスオピニウムが鉄道ストライキについてそれぞれ行った世論調査では、賛成と反対がほぼ同数だった。

雇う側の立場は

ほとんどの事業にとって人件費はコストの大きな部分を占める。労使紛争が続く企業の多くが、昇給できるだけの資金がないのだと主張する。

ロイヤル・メールや鉄道各社は、昇給と併せ、新しい働き方で職員と合意したい方針を示しているが、この新しい働き方も労使紛争の原因になっている。

医師や看護師、法廷弁護士は政府から報酬を得ている。給与水準は政府による検討を経て7月に発表されたが、その結果、数百万人の労働者の昇給分は、インフレ率を下回ることになった。

リシ・スーナク英首相は、「甚大な経済危機」による「厳しい決断」を迫られることになると警告している。そうなれば、公的分野の労働者に、これまで以上の昇給を実現することは難しくなる。

イングランド銀行(中央銀行)は、労働者が大幅な賃金アップを獲得すれば、雇う側は利用者に対して値上げをせざるを得なくなると懸念する。これがインフレ率引き上げの要因となり、労働者はさらに一層の昇給を求めることになる。そうなると、「賃金と物価」の上昇スパイラルが生じて、インフレ引き下げはますます困難になる。

イギリスの労働組合会議は、労働者の平均給与は2008年よりも少ないと主張する。労働者の収入がこれほど長期間増えないのは、過去200年で初めてだという。

Nurses join a cost of living protest in June

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画像説明, 生活費高騰を受けて6月に賃上げ要求ストに臨んだ看護師たち

賃金の水準は

働く人の賃金は業界や職種、立場によって大きく異なる。.

英統計局によると、鉄道作業員の平均年収は4万3000ポンド(約710万円)。そのうち、最も高給なのは運転士で平均5万9000ポンド(約980万円)、客室乗務員は平均3万3000ポンド(約546万円)。

英看護師協会によると、イングランドで看護師の年収は2万7000ポンド(約447万円)~5万5000ポンド(約910万円)で、平均年収は約3万2000ポンド(約530万円)だという。

昨年の学校年度では、イングランドの公立学校で学級担任教師の平均年収は3万8982ポンド(約645万円)、ウェールズで3万9009ポンド(同)、スコットランドで4万26ポンド(約662万円)だった。校長の昨年の平均年収は、イングランドで7万4095ポンド(約1230万円)、他の役職をもつ教師の平均年収は5万7117ポンド(約945万円)だった。

大幅昇給を獲得した人は

労使交渉が今年妥結したケースもいくつかあり、10%以上の昇給率を獲得した職場もある。

  • イングランドとウェールズで刑事事件を担当する法廷弁護士は、昇給を求めて6月からストライキを開始。10月に15%の昇給で妥結した。
  • 南東部イーストボーンのごみ収集作業員は、ストライキを経て今年1月に11%超の昇給を交渉の末に獲得した。
  • スコットランドの鉄道運転士は6月、5%増の昇給で合意した。
  • ロンドン北部のバス運転手2000人が、スト入りを予告した結果、11%昇給を獲得した。
  • 東部ケントのバス運転手480人が、6日間にわたるスト決行の末、14%近い昇給を得た。
  • 7月には航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)のヒースロー空港スタッフが、スト入りを予告し、13%の昇給を獲得した。
  • 通信大手ブリティッシュ・テレコム(BT)で一部の従業員がストを決行した末、労組幹部は11月に16%の昇給で労使交渉を妥結した。