【米中間選挙】 選挙否定派、選挙を管理する州務長官の座を狙う 2024年大統領選を見据え
マイク・ウェンドリング、シャヤン・サルダリザデフ、BBCニュース&BBCモニタリング

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8日投開票の米中間選挙には、前回選挙は盗まれたと虚偽の主張をしてきたグループの候補者たちが立候補している。2024年大統領選の結果を左右する重要州で、票を管理する立場につくことを狙っている。このグループの創設者らは、別の陰謀論「QAnon(Qアノン)」とも深いつながりがある。
先月ネヴァダ州で開かれた集会で、ドナルド・トランプ前大統領に名前を呼ばれたジム・マーチャント氏は、自らの選挙運動のメッセージを強調した。
トランプ氏の横に立ったマーチャント氏は、騒然とした観衆に向かって「私たちには共通点がある」と訴えた。「トランプ大統領も私も、2020年に不正選挙のせいで負けたのだ」。
ネヴァダ州の実業家のマーチャント氏は、下院選で落選していた。両者は過去の敗北について誤った説を広め続けているが、マーチャント氏は未来を見据えていることも明確にした。
「全国で私のグループの州務長官候補たちが当選したら、国全体を修復し、2024年にはトランプ大統領が再び大統領になる」とマーチャント氏は宣言した。

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トランプ氏は支持者の歓声で沸く中、笑顔を見せた。だが専門家らは、党派色の強い選挙否定派が、選挙のルールの制定や結果認定にかかわることは、民主主義を危うくすると警告している。
SOS連合
マーチャント氏の政治団体「アメリカ・ファースト・州務長官(SOS)連合」のメンバー7人は、中間選挙で候補者に名を連ねている。団体名のとおり、7人が狙うのは州務長官の座だ(ペンシルヴェニア州とアリゾナ州の共和党知事候補もメンバーになっている)。
強大な権限をもつ外相に相当する国務長官とは異なり、州務長官の役割は通常、はっきりしない。州レベルでのさまざまな役所業務を担っており、ほとんどは登録や認可に関係するものだ。ただ、大半の州では選挙の監督にも当たる。
米シンクタンク「超党派政策センター」の選挙プロジェクトのレイチェル・オリー氏は、これらSOS連合の候補者たちについて、選挙プロセスへの信頼をさらに損なう存在で、2024年大統領選が再び接戦となった場合に混乱の種になる恐れがあると話す。
オリー氏はまた、昨年1月の連邦議会襲撃事件を念頭に、「州レベルで1月6日が再び起こることは、間違いなくあり得る」と言う。
州務長官の地位は、2020年大統領選でトランプ氏がジョージア州のブラッド・ラッフェンスパーガー州務長官(当時)に、同州で逆転するため1万1780票を「見つける」よう依頼した録音が表に出たことで、注目を集めた。共和党のラッフェンスパーガー氏は、トランプ氏の働きかけに抵抗。同州は最終的に、ジョー・バイデン氏が勝ち取った。
次に別の州で似たような状況が発生したら、同じ結果になるだろうか。

SOS連合は、2020年の選挙後にトランプ氏が支援した「Stop the Steal」(盗みを止めろ)運動以降、共和党を席巻しているより広範な運動の一部だ。
世論調査は一貫して、共和党員の約3分の2がバイデン氏の勝利の正当性に疑念を抱いていることを示している。何十もの訴訟が退けられ、結果を変えるような広範な不正行為の証拠は存在しないにもかかわらずだ。
BBCが提携する米CBSニュースの分析によると、州政府または連邦政府のポストに立候補している共和党候補595人のうち308人が、2020年選挙の正当性や完全性に疑念を表明している。
虚偽の主張にどれほど熱を入れているかは人による。多くの候補者は、極めて重要なトランプ氏の支持を確保し、共和党の指名を勝ち取った後は、その話をしなくなっている。
しかし、選挙否定の定義をかなり狭めても、虚偽の主張は広く受け入れられていることがわかる。下院議員や知事に立候補している共和党の候補者についてBBCが分析したところ、175人(35%)が2020年の選挙結果を完全かつ公に否定していることが判明した。
このような筋金入りの否定派は、単なる外野ではない。その多くが、共和党が圧倒的に強い選挙区や、接戦が見込まれる選挙に立候補しているのだ。
なかには、選挙をめぐる陰謀論を、自らの選挙運動の土台にしている人もいる。
アリゾナ州の共和党の州務長官候補のマーク・フィンチェム氏は、同州で民主党が勝利する可能性はないと、BBCに話した。
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アリゾナ州の次期知事を目指す共和党のキャリ・レイク氏は、2020年に何十万票もの不正投票があったと、根拠のない主張をしている。そのことについてBBCが質問すると、レイク氏は証拠を示さず、政府が重要な証拠が押さえていると主張した。
アメリカ・ファースト・SOS連合の候補者たちは、公正な選挙を望んでいるだけだと言う。そして、不正防止のためにルール変更を導入することで合意している。その中身は、有権者に投票所での身分証の提示を義務付ける、郵便投票を廃止する、「有権者名簿の精力的な整理」をする――といったものだ。
超党派のグループ「Alliance for Securing Democracy」(民主主義を守るための同盟)のブレット・シェイファー氏は、選挙の安全性を議論し、制度変更の可能性を議論することは正当だと述べる一方で、SOS連合が提案する対策は不要で、単に投票を困難にするだけだと話す。
「安全性の議論に、陰謀論的な話が持ち込まれているのがわかる」とシェイファー氏は言う。「そして選挙管理者が、とんでもない陰謀論を主張する人たちを受け入れたり、重用したりするのは、根本的に危険なことだ」。
先月、トランプ氏と一緒にステージに立ったネヴァダ州務長官候補のマーチャント氏は、不正の疑いがあるのは2020年の選挙だけではないとする。2006年以降の同州の選挙ではすべて不正があったとし、当選者は「ディープ・ステート(闇の国家)の徒党」によって各ポストに据えられたと主張している。
マーチャント氏はさらに、ナンシー・ペロシ下院議長やチャック・シューマー上院院内総務などの民主党指導者が当選したのは、著名投資家でリベラル派の献金者ジョージ・ソロス氏が資金提供した票の水増しのおかげだとさえ、10月の選挙広告で示唆した。現実にはもちろん、両議院は民主党が圧倒的に優勢な地域を代表する人気政治家だ。
陰謀論が複合化
専門家らは、ある分野の陰謀論は簡単に他の分野にも波及すると言う。
「The Storm Is Upon Us:How QAnon Became a Movement, Cult, and Conspiracy Theory of Everything」の著者のマイク・ロスチャイルド氏は、「かつて陰謀の世界はかなりばらばらに分かれていたが、今では混ざり合っている」と言う。
「つまり、イベルメクチンは万能薬で、新型コロナウイルスはデマだと信じるのと同じるのと同様に、選挙が盗まれたと信じる可能性がある」
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そもそもSOS連合は、どのように結成されたのか。
大きな役割を果たしたのがマーチャント氏だ。彼は1年前、ラスヴェガスで開かれた会議で、こう説明した。「私たちは全国で州務長官のポストを取り戻さなくてはならない。(中略)彼らは私に立候補を要請しただけでなく、同じ志をもつ州務長官候補者の連合体を結成するよう要請した」。
マーチャント氏が言う「彼ら」とは、トランプ派の無名の弁護士や支持者たちでつくるグループのことだ。だが、マーチャント氏は同じ会議で、SOS連合の結成に重要な1人を特に取り上げている。「ホアン・O・サヴィン」という通名をもつQアノンのインフルエンサーだ。
Qアノンとのつながり
報道では、ホアン・O・サヴィンは実は、ワシントン州に住む私立探偵のウェイン・ウィロット氏だとされる。
ウィロット氏はユーチューブのあまり知られていないポッドキャストに出演し、カメラの背後から話し、彼のブーツや窓の外の風景を映し出すなどしている。また、Qアノンに根づく陰謀論を主張している。トランプ氏が、政府、企業、民主党、メディアに巣食うエリートの悪魔崇拝の小児性愛者に対し、秘密の戦争を仕掛けているという、広範にわたるものの根拠はない理論だ。
昨年の会議では、マーチャント氏がホアン・O・サヴィンに言及すると、観客から拍手が沸き起こった。マーチャント氏とウィロット氏には、この記事を書くにあたってコメントを求めたが、応じてもらえなかった。
SOS連合の7人の候補者は、Qアノンの考えに沿った選挙運動を明確には行っていないが、何人かはQアノンや陰謀がテーマのイベントに出席している。
今年10月、マーチャント氏と、ニューメキシコ州、アリゾナ州、ミシガン州の州務長官候補の計4人は、ホアン・O・サヴィンも講演したフォーラムに参加した。
米ニュースサイトのデイリー・ビーストによると、サヴィンがソロス氏に関して暴言を吐いた後、ニューメキシコ州で立候補しているオードリー・トゥルヒーヨ氏がマイクを取った。そして、「ホアン・O・サヴィンの話を聞こう」、「彼はすごいのか?」と聴衆に語りかけたという。
米メディアのヴァイス・ニュースによれば、同じくSOS連合の候補で、ミシガン州で立候補しているクリスティナ・カラモ氏は、2020年にQアノンのポッドキャストに出演。エリートたちが血を飲み、悪魔の儀式に参加しているという陰謀論を展開したという。
Qアノンのオンラインでの活動は、やがて断片化した。だが専門家らは、米国内外で政治に影響を及ぼしているとする。
どのような結果でも
「Qアノンは非常に拡散性のある思想に発展し、多くの国で主流となった」と、NPO「Institute of Strategic Dialogue」のデジタル分析ユニット責任者のメラニー・スミス氏は言う。「これはもう、非主流の泡沫(ほうまつ)政治運動として語ることはできない」。
選挙プロセスに関する誤った信念は、政治家の候補者たちを駆り立てただけでなく、現実世界の暴力にも影響が及んでいる。
ペロシ下院議長の夫ポール氏の殺人未遂事件のデイヴィッド・デパピ容疑者は、自らのウェブサイトに、陰謀がテーマのブログ投稿を何百と書いていた。その中には、選挙に関するものもあった。
世界の民主主義の状況を監視している超党派の専門家で、前出のシェイファー氏は、11月8日に何が起きても、アメリカは苦しむことになると話す。
シェイファー氏によると、もしSOS連合の候補者が負ければ、不正のせいだと支持者に信じ込ませることになる。もし当選すれば、2024年の選挙結果に影響を与えられる立場になる。
「勝っても負けても、民主主義は確かなのか、疑う人が増えることになる」
(追加取材:ケイリーン・デヴリン)










