ゼレンスキー大統領、時宜を得た言動の人……シンプソンBBC世界情勢編集長が単独取材

ジョン・シンプソンBBC世界情勢編集長

President Zelensky being interviewed by John Simpson
画像説明, シンプソン記者(左)はゼレンスキー大統領(右)をキーウの大統領府で単独取材した

大戦争が起きると、私たちはつい、誰かと誰かの対決として捉えたがる。ナポレオン対ウェリントン、チャーチル対ヒトラー――といった具合に。しかしそれは往々にして、間違いだ。大陸をまたいで戦場が広がる戦争では、数えきれないほど多くの要素が作用している。単なる2人の人間の一騎打ちなどでは、決してない。(文中敬称略)

しかし、ウラジーミル・プーチンによるウクライナ侵攻には確かに、個人的な戦いの趣がある。

この侵略はプーチン自身が考え出したものだ。新型コロナウイルスのためロシアが世界から隔離していた間に、3~4人の政府幹部と将軍たちと一緒になって、ひねりだした。開始から8カ月近くたった今や、そのせいでロシアとウクライナの何百万人もが生活を破壊されてしまっているのだが。

そしてこの間、ロシアの侵攻に見事に立ち向かってきたことが理由で、名声を得た男が1人いる。

ウォロディミル・ゼレンスキーは物静かで、チャーミングで、もったいぶらない自然体の人だ。俳優だったのは有名で、現実の世界で大統領に選ばれるよりずっと前に、テレビでウクライナの大統領を演じた。もちろんもしかすると、彼の静かな魅力や、わざとらしさがまったくないのも、演技の一部なのかもしれない。そこについて確証を得るには、もっとはるかに深い知り合いになる必要があるだろう。けれども、演技ではないようだ。私はそう思う。

ゼレンスキーは見た通りの人物に思える。そして、俳優にはよくありがちなことだが、自分自身の長所と、自分の能力の限界を、はっきりと認識している。

大統領府では、中央階段も砂袋で防御が固められている。来訪者は、時計ひとつといえども持ち込むことができない。このような場所で、今やトレードマークとなった彼の深緑色のTシャツは、実にふさわしい。

恐ろしい毎日が続いた2月や3月、ロシア軍が首都に迫り、キーウの通りにはあの「ハリネズミ」と呼ばれるさび色の戦車止めがあちこちに並んでいたあのころ、大統領にあの姿で連日テレビに登場すべきだと進言した側近は、それが誰だろうと、特別賞をもらうべきだ。

Zelensky gestures with a finger, dressed in his trademark green T-shirt

画像提供, Presidential Office

ゼレンスキーはまさにあの時のあの状況にふさわしい姿を示した。タフで、ラフな服装をして、実務的で、戦う用意ができていた。2月や3月のあのころ、ウクライナを支持する諸外国は、ロシアがあっという間に首都キーウ中央まで切り進むと信じていた。

それでもなおゼレンスキーは、何があろうと「自分はここにいる」と宣言した。豪胆な姿だった。

動画説明, 「私たちはここにいる、独立を守る」 首都からウクライナ大統領が政府幹部と(2月25日)
Presentational white space

その時、その場にふさわしい姿を示し、ふさわしいことを言うその能力は、この8カ月間、ずっと威力を発揮している。

それでも少し前には、ミスをした。その発言がまるで、戦術核兵器を使ってロシアに先制攻撃すべきだと呼びかけているように聞こえたのだ。戦術核は、出力は比較的小さいものの、局所的に恐ろしい惨状をもたらす。しかし広範囲の破壊という意味では、その威力は限定的だろうとされている。

ゼレンスキーは言葉を慎重に選ばなかった。おかげで、その言葉尻をとらえたロシア政府はしばらくの間、嬉々としてゼレンスキーをたやすく非難し続けた。

私がゼレンスキーに取材した時、あえて英語で自分の真意を伝えて自己弁護しようとする程度には、彼はこのことを問題視していた。

動画説明, プーチン氏は核を使うのか、ロシア国民はどうするべきか……ゼレンスキー大統領を単独取材
Presentational white space

自分は先制攻撃ではなく、先制制裁を意味していったのだと、彼は強調した。欧州初の核戦争が始まらないよう、西側はプーチンとロシアの将軍たちを説得するため、先制制裁を科すべきだと。

まあ、そうなのかもしれない。

「我々はテロリストではない」と、彼は私の質問に答えた。その答えが、次の質問へとつながった。

米紙ニューヨーク・タイムズは、プーチン大統領の盟友で思想家のアレクサンドル・ドゥーギンの娘ダリヤが8月に爆死した事件について、ウクライナによる工作だというのが、アメリカの判断だと伝えた。しかもそもそもこの暗殺工作は娘ではなく、父アレクサンドル・ドゥーギンを狙ったものだったのかもしれないと。

ゼレンスキーは、自分の政府はまったくあずかり知らないことだと主張した。もちろんそれはそうだろう。

しかし、このような質問をされようものなら、敵意をむき出しにする大統領は首相は大勢いる。ウォロディミル・ゼレンスキーは違う。落ち着き払って、驚くほど温厚だ。

細かい政策について語るよりも、人の気持ちや、戦争が一般市民にどう影響するかについて語る方が、彼ははるかに上手だ。けれどもそれこそ、彼がここまで成功した理由の一部だ。ここウクライナだけでなく、世界中で。

現時点でゼレンスキーは世界で一番人気のリーダーに違いない。そしてプーチン相手のPR合戦では、確実に圧勝している。

プーチンは不機嫌でしかめっ面で、クレムリン宮を出ようとしない。ゼレンスキーは新たに解放された町村を訪れている。ゼレンスキーは、新たに動員されるロシアの若い兵士にさえ、同情し共感して、私にこう言った。

「ロシアの子供たちが武器も防弾チョッキもなく、ただ大砲の犠牲になるためのいけにえとして、送り込まれている」と。

プーチンとの交渉など、考える余地さえないと公然と言ってのけたのは、ロシアのほかの政治家への合図なのだろうかと、私は思っていた。もし戦争を終わらせたいなら、ロシアの政治家がプーチンを追い払わなくてはならないと、そう暗示しているのだろうかと。

しかし、本人にそうなのか聞いてみて、そういうことではないのだろうと私は思うに至った。

彼は、個人としてのプーチンにまったく興味がないようだった。そして、自軍の将軍たちを電話で罵倒し、戦いを事細かく管理しようとする戦時下のリーダーたるプーチンを、これっぽっちも尊敬していない。

ウラジーミル・プーチンが失脚したら、生き残ると思うか。私はそう尋ねてみた。

するとゼレンスキーは頬をかすかにふくらませてしばし間を置いた後、息をふうっと吐き出して、首を横に振った。

「どうでもいいです」

それが答えだった。