【解説】 核使用のリスク、どれくらいあるのか ロシアのウクライナ侵攻
ゴードン・コレラ安全保障担当編集委員、BBCニュース

画像提供, Getty Images
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が先月27日、核兵器を含む「抑止部隊」を「戦闘の特別態勢」に移すよう、軍に命じた。一体なにを意味しているのか。
完全には明らかではない、と西側アナリストらは言う。英当局者は、プーチン氏が使った言葉について、ロシアの核兵器に対する自分たちの警戒レベルの理解にそぐわないものだったと述べている。
プーチン氏は警戒レベルを最も低い「持続的」から、次のレベルの「高度」への引き上げを命じたと考える人もいる(さらに上のレベルとして「軍事危機」と「最大」がある)。だが、はっきりしたものではなかった。警戒レベルは、上昇するほど兵器使用の準備態勢が強まる。
多くの人は今回の動きについて、実際の核兵器使用の意図を示したというより、主に世界に向けてシグナルを送ったものと解釈している。プーチン氏は、核を使えば西側から核の報復を受けることを分かっている。イギリスのベン・ウォレス国防相は、プーチン氏の発表について、主に「言葉の上」のことだとの考えを示した。
だからといって、リスクがゼロというわけではない。状況は注意深く見守られることになるだろう。
新たな警告だったのか
プーチン氏は先週、間接的な言い方で、ロシアの計画を邪魔する国は「見たことのないような」結果に直面すことになると警告していた。北大西洋条約機構(NATO)に向かって、ウクライナで直接的な軍事行動を取らないよう注意したものと、広く受け止められた。
NATOは一貫して、そうした行動を取るつもりはないと言明している。もし実施すれば、ロシアとの直接衝突につながり、核戦争へとエスカレートしうると理解しているからだ。27日のプーチン氏の警告は、これまでより直接的かつ公なものだった。
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なぜ新たに警告したのか
プーチン氏は今回の動きを、「攻撃的声明」への対応だと説明した。「攻撃的声明」とは、西側政府関係者がNATOとロシア軍の衝突の可能性について述べたもののことだと、ロシア政府は28日に明らかにした。イギリスのリズ・トラス外相の発言も含まれているという。西側政府関係者は、プーチン氏がウクライナをめぐって計算違いをしていた可能性があり、それが今回の新たな警告につながったとみている。
プーチン氏は、ウクライナの戦場でロシア軍がどれほど抵抗を受けるかについて、見誤っていた可能性がある。プーチン氏はまた、西側が厳しい制裁措置を取ることについて、どこまで結束するのかも見誤った。そのため、彼は新たな選択肢と、さらに厳しい話を持ち出すことになった。
「怒り、フラストレーション、落胆の表れだ」と、ある元英軍司令官は先日、私に言った。
アメリカのリンダ・トーマス=グリーンフィールド国連大使は、今回のプーチン発言について、ウクライナでの戦争を正当化しようとするプーチン氏の努力の一つだと説明。プーチン氏の主張は、ロシアを侵略者ではなく、脅威にさらされ自衛しようとしている国として描くものだとした。
このように見ると、核への警戒の呼びかけは、自国民に向けてメッセージを発する1つの方法のように思われる。別の見方としては、西側がウクライナに軍事支援を提供するのをプーチン氏は懸念しており、西側に対してやり過ぎないよう警告しているとも考えられる。
さらに、プーチン氏が制裁について、政情不安と政権転覆を狙ったものではないかと心配しているとの解釈もできる(演説では制裁に触れていた)。しかし、メッセージ全体としては、NATOに対して、直接関与すれば事態は悪化しうると警告したものと思われる。
どんなリスクがあるのか
プーチン氏の脅しが、核兵器使用の意欲を示すものではなく、警告だとしても、計算違いのリスクは常に存在する。片方がもう片方の意図を誤って解釈したり、事態が手に負えなくなったりする場合だ。
懸念されるのは、プーチン氏が孤立し、彼に真実を告げようとする側近がほとんどいなくなる状況だ。彼の判断力について、不安定になってきていると心配する人もいる。ただ、彼が暴走しても、命令系統の先にいる人たちが命令に従わないだろうという、希望的な見方もある。核戦争のリスクはわずかに上昇したかもしれないが、依然、低いままだ。
西側はどう対応しているのか
西側政府はこれまでのところ、言葉でも行動でも事態をこれ以上悪化させないよう、十分注意を払っている。米軍にはデフコンと呼ばれる独自の防衛準備態勢があるが、米政府のジェン・サキ報道官は28日、核の警戒レベルをすぐに「変更する理由はない」と述べた。
イギリスは核兵器を搭載した潜水艦を航行させているが、公に何かを言う可能性は低い。プーチン氏の声明をこけおどしとして扱い、まともに受け止め過ぎたり、ロシアの反応を誘発するような行動を取ったりしていると思われ、緊張を高めないようにしていると思われる。
現状は核の危機ではないし、そうなってはならないと、西側の安全保障当局者らは話している。
西側はロシアの動きを察知できるのか
イギリスのウォレス国防相はBBCに、ロシアの核兵器の状態に関して、イギリスとしては変化を確認していないと述べた。情報当局筋は、注意深く見ていくと話している。
冷戦時代、西側ではロシアの核兵器の動きを監視する巨大な情報マシーンが作り出された。人工衛星、通信傍受、その他の情報を分析し、ロシアの行動に変化を示すものがないか探った。武器や、爆撃機の乗組員の準備といった、警告が必要となる状況が生じていないか調べた。
それらの多くはまだ残っていて、西側各国はロシアの動きに重大な変化がないか、活動を注意深く見ている。変化を示すものは、いまのところない。
(英語記事 What are the nuclear risks?)







