気候変動問題、科学者たちはCOP26をどう見たか 政策の実現可能性は
ロジャー・ハラビン、BBC環境アナリスト

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英スコットランド・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)での成果について、科学者や気候変動問題の第一人者らが懸念を表明している。
BBCの取材に応じた科学者たちは、各国が今回の会議で、温室効果ガス排出量のさらなる削減を約束するため、来年また集まることで合意したことを称賛した。森林破壊や技術革新、そして特に、化石燃料の採掘や家畜から発生するメタン(CH4)をめぐる合意についても歓迎した。
一方で、こうした合意内容を政治家が実現できないのではないかと、多くの科学者が懸念している。また、世界の気温上昇を工業化以前と比べて摂氏1.5度以内に抑えるという目標はそもそも、野心的というには程遠いものだと指摘する。
専門家は、これまでの気温上昇がわずか1.1度であるにも関わらず、世界はすでに記録的な高温や山火事、洪水、干ばつといった、危険な温暖化危機の最中にあると強調する。
イギリス政府の元科学顧問サー・デイヴィッド・キング教授は、筆者に対し、「言うまでもなく、温暖化はすでに危険なレベルに達している。グリーンランドは3カ月もの間青い海に浸かり、氷が溶け出している。夏場の北極の気温は摂氏32度に達し、(中略)森林が燃えている」と語った。
「たとえ排出量を完全になくしたとしても、すでに大気中にはたくさんの温室効果ガスがあるので、困難な状況に変わりはない」
気候変動に関する政府間パネルの調整・執筆責任者ピアス・フォースター教授も、同じ意見だ。教授は「現在の気温ですでに、命を落とす人が出ているし、複数の種が絶滅しつつある」、「我々は何世紀にもわたって海面上昇を進行させてきた」と述べた。
「1.5度目標はもはや、お守りと化した。今世紀中の安全をできるだけ確保するには、せめてこればかりは、という。しかし、(気候変動について)知れば知るほど(排出量に)安全な上限などないことが分かってきている」

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私たちが取材した科学者は、COP26が現実的な解決策を提示したと評価した。
過去22回のCOPサミットを経てようやく、今回の成果文書で化石燃料を段階的に削減する必要性が言及されたことに、科学者は安堵(あんど)している。
ただし石炭については、インドと中国が交渉の土壇場で、合意文書案に当初含まれていた石炭の使用を「段階的に廃止」という表現に反対。最終的に「段階的削減」という表現にとどめられた。また、政治家が結局は約束を守らないのではないかという懸念も広がっている。
北極圏の専門家や科学者の団体「アークティック・ベースキャンプ」創設者ゲイル・ホワイトマン教授は、今回のサミットの結果は「玉石混交」だったと言う。
「素晴らしい約束がいくつも提示されたが、行動は十分に伴うのか。私には分からないし、心配している」
英エクセター大学グローバルシステム研究所のティム・レントン教授も、「COP26を機に市民社会や企業、金融、NGOなどが連携して、本物の進歩を推進し始めている。これは成果だ」と評価する。
しかし教授はその一方で、「我々は今なお(工業発達以前の世界平均気温から)2度以上も上昇する温暖化現象に向かっている。(気温上昇が原因で生態系が崩壊し)気候変動の転換点を様々な形で越えてしまう、その危険がある。我々は依然として気候危機の真っただ中にいる」と述べた。
「我々は全員、大きな変革に参加してもらうよう政治指導者を説得すしなくてはならない」と、レントン教授は付け加えた。「国際的な政策決定プロセスは、気候システムの動きに遅れをとっている」。
まさにこの、政策と行動と科学との間にあるギャップにこそ、専門家は危機感を募らせている。
例えばイギリスは、2050年までに排出量をほぼゼロにするという国内目標を掲げ、政策面で世界をリードしていると認識されている。
しかし、英政府はこれまで、気候変動対策目標を達成できたことがない。従来型の自動車の段階的廃止といった政策は評価されている一方で、住宅の断熱対策は失敗している。
また、科学顧問の助言に反して飛行機の運航回数を増やそうとしたり、シェトランド諸島近くの油田を許可するなどしている。さらには道路の増設や二酸化炭素(CO2)を大量に排出する高速鉄道「ハイスピードツー(HS2)」の建設も進めている。
リシ・スーナク英財務相がCOP26直前に下院で秋季予算案を発表した際、気候変動に言及しなかったことは科学者たちを驚かせた。
少なすぎる? 遅すぎる?
ボリス・ジョンソン英首相はこうした中、CO2削減は技術の導入だけで達成できるとし、行動の変化はほとんど必要ないと主張し続けている。諮問機関の気候変動委員会が、技術と行動変容の両方を組み合わせなければ2030年までに達成するとしている目標は実現できないと主張しているにも関わらずだ。
アメリカでも政策をめぐる同様の論争が起きている。ジョー・バイデン米大統領は環境に配慮した政策を議会で通過させようとしているが、苦戦を強いられている。
バイデン氏は道路や橋、空港、港などの整備に充てる1兆ドル規模のインフラ計画を推進してきたが、こうした建設で使用されるコンクリートや鉄鋼から、さらには関係車両の往来により、何百万トンもの温室効果ガスが排出されることになる。
バイデン大統領はCOP26で100以上の国と地域が合意した、メタン(CH4)の排出削減目標を主導してきたかもしれない。しかし自動車に関しては、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止するとしているジョンソン英首相の公約には及ばない。アメリカの人々は相変わらず巨大なSUV(スポーツ多目的車)を購入している。
米政権で気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使は、各国が本気で取り組めば気温上昇を摂氏1.8度に抑えられると推定している。しかし、科学者たちは、それでは効果が少なすぎるし、スピードも遅すぎると主張している。

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英気象庁ハドリー気候予測研究センターのリチャード・ベッツ教授は筆者に対して、「さらなる野心を持って取り組めば、気候変動の影響の拡大を回避できる可能性は残されている」と述べた。
「しかし、大気中に二酸化炭素を蓄積するのを完全に止めない限り、温暖化は続くし、これまで以上の深刻なリスクと影響を引き起こすことになる」
英レディング大学のエド・ホーキンス教授(気候科学)は、「我々はすでに、(気候変動の)下り坂を滑り落ちている。温室効果ガスの排出量を大幅に、持続的かつ速やかに削減することで、これ以上滑り落ちるのを早期に食い止めることができる。そうすれば、気候変動による影響の深刻度を軽減することができる」と警鐘を鳴らした。
英ケンブリッジ大学のジュリアン・オールウッド教授(環境工学)は、はるかに深刻な課題を提起する。教授は、グラスゴーで議論された解決策は、非現実的な量のクリーンエネルギー発電や炭素の回収、バイオマスの使用に頼ったものだと言う。
「(解決策が提示する)量と、現在利用可能なものや妥当な成長率とを比較すると、提示された量を十分まかなえる可能性はない」
「そのため、我々には使用する電気量を半減させるなどの異なる政策が必要だ。航空機や船舶の運航量、セメントや(牛などの)反芻(はんすう)動物を減らさなければならない。ほかに方法はない」
従来通りのやり方を微調整して、安定した気候を実現したがっている政治家にとって、こうした専門家からのメッセージは受け入れがたいに違いない。











